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「だからアクエリアスと人間の相性は決まって悪いんすよ。その中でほんの一握りだけが、この水の石を自在に操り、癒しの力を持つ事が出来るんす。この世界に医者が少ないのはそういう因果からきてます」
あくまでさらりとヴァンプが言う。内容はそれなりにヘビーなのだが、彼が言うとなぜかあまり緊迫感を感じさせなかった。その軽い物腰と、妙に落ち着いた声色のせいだろうか。 「人を滅ぼした力で、人を救うんす。誰でもない、セフィさんがね」 先程よりも少しだけ真剣な口調と目つきで付け加える。 「あたし……が?」 信じられないような顔をしているセフィが、ぽつりとつぶやいた。後ろではやっと事情を飲み込めた二人がぶつぶつと何かを話している。 と、あたりがなにやら騒がしい。 「まずいっすね」 ヴァンプがそう言い終らない内に、ヴェルデがドアを蹴破った。案の定白目をむいた大人たちがドアの下敷きになる。 「思ったより早かったっすね。じゃ、そろそろ船に向かいましょう」 先ほどと殆ど変わらない口調でヴァンプはそう言った。同時にフルートを構えて吹く。 「ディレイタイム」 ゆるやかな音色とともに、紫の光があたりを包んだ。同時に大人たちの動きが止まる。 「さ、いまのうちに」 ヴァンプはそう言いながら先頭をきって外へ出て行った。後ろにヴェルデ、セフィ、そしてまだ酔いの抜けきらない金剛と荷物をまとめたエミリアが続いた。 不思議な力なのか、大人たちは石のように固まって動かなかった。すんなりと5人は船までたどり着く事が出来た。 「早く乗ってください。もう少しで魔法が切れますから」 どうにか乗り込み、ほっと息をつく。すかさずヴァンプが橋を蹴落とし、錨を上げる装置を動かした。 「ヴェルデさん、荷物をお願いします。船室は後ろの扉から中に入ればすぐにわかります」 「セフィさんは後ろの警戒をお願いします。金剛さんは帆を張るのを手伝ってください。」 てきぱきとヴァンプが指示を飛ばす。命令を受けた3人はすばやく散っていく。そこには姫ひとりが立ちすくんでいた。 「エミリア姫。あなたは客室のほうでやすんでいてください。」 「…………」 エミリアは動かない。 「……なぜ」 「姫?」 「何故、私だけ隠れていなければならないのだ! 私も闘う! 闘わねばならないのだ!」 「…………」 その熱意にヴァンプは少なからず圧倒された。確かに昔から気は強かったが、今のようなこんな「説得力」のようなものは無かった。それは確かに、姫がこの旅を通して得たものであり、彼女が一回りも成長した証だった。 彼女は相変わらず、強い目でこちらを見つづけている。 「……わかりました。」 その言葉を聞いて、姫の目から嬉しさがこぼれる。 「……では、セフィさんの援護をお願いします。後ろをついてくる船に対しては、火矢が有効です。」 「わかった。まかせてくれ。」 エミリアはそのまま踵を返して船尾へと向かおうとした。その後姿に、彼の声が重なる。 「……決して、死なないで。」 ――その言葉は、確かに彼女の耳に、届いた。 |
Breath Dragoon
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