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黒い闇の中を、1隻の船が駆ける。それに続く5隻ほどの船。そして間には赤い光が緒を引いて飛び交う。 「セフィ! 甲板の火矢を頼む!!」 「まかせて!」 甲板に刺さった火矢から移った炎をセフィがすかさず魔法で消す。かれこれ1時間は船の上で戦っているから、セフィも魔法の使い方がわかってきたようだ。 もう後少しで城につくというのに、後ろからはいまだに火矢と砲弾は飛んできている。セフィのおかげで火は殆ど船体に影響を与えてはいないし、砲弾も被弾する前に不思議な音色でスピードを失うが、二人とも相当疲労してきている。船に大きなダメージを与えられるのも時間の問題だった。まして今から最終決戦となるのだ。ここで体力を消耗するのは得策ではない。 セフィの指先から水があふれる。その水は蒸気を上げながら火の勢いを弱めてやがて消していく。 その横ではエミリアが敵の船に向けて火矢を放っている。金剛は船の操作に駆け回っているし、ヴェルデは風で相手の船の速度を遅らせている。 「ヴァンプ! 城まではまだかかるのか!?」 「あと、ちょっとなんですけど……」 ヴァンプの言うとおり、もう城は目前だった。しかし、何か先ほどまでとは様子が違う。 「こりゃ、まずいパターンかもしれませんねぇ」 城の船着場から、艦隊が発進してきていた。それもかなり多い。 ロードミゲールの海軍は、その地理から海戦をもっとも得意としていた。その軍事力は世界的に見てもずば抜けている。それは数年前のクラツヴァルニ国の進軍を難なく止めたセレディニアの海戦でも明らかだ。 そんな軍と、挟み撃ちにされたらいくらなんでも太刀打ちできない。 「そんな気楽にいってる場合かよ! どうする!?」 「とりあえず、遺書でも書きますかねぇ」 全く焦る様子も見せずにヴァンプは言い放った。 「おいおい……」 「勿論冗談ですよ。ただ、選択肢は多くないのは本当ですが。」 「一つ目は、このまま中央を突っ切って城までたどり着く事。まあ、いちかばちかの方法ですが、一番手っ取り早い方法でしょうね。二つ目は後ろを突破してポートヴィルヘルムまで戻ること。相手は海軍ですから、陸上戦ではこちらのほうが有利です。まあその分城につくのは遅れます。国王が捕らわれている以上、時間をかけるのは得策ではないでしょうね。」 あと岸までは1キロも無い。同時に前方の艦隊からは砲撃がはじまっている。 「やはり、このまま突っ切りましょう。どの道、最初からそういうつもりだったんでしょう?」 意味ありげな笑みを浮かべながら、ヴァンプはヴェルデに尋ねた。 「いまさらここで引き返すわけにも行かない。なるべく攻撃を受けないように、相手を無力化しよう」 その言葉を聴いて、ヴァンプは皆に指令を出した。 「金剛さん。そのまま船着場に向かって全速力でお願いします。エミリア姫、セフィさんは前方の艦隊を撃破してください。ヴェルデさんは砲撃をお願いします。船首の方に小型の魔道砲がありますから」 皆がその号令に答え、散っていく。この状況ではあたりまえかもしれないが、たとえ普通の状態でも、ヴァンプの出す命令に文句をつける兵士はいないだろう。それほどまでに人をまとめるのが上手かったし、なんともいえない信頼感が沸く人柄だった。この若さでバルトロマイオスの副隊長を務めていたのもうなずける。 船首の方で三人は攻撃を開始した。エミリアは言うまでも無く火矢を放っているし、セフィはローグヴァルキリーに榴弾を装填している。ヴェルデの扱う魔道砲は、ヴァンプによると空気中の魔力を圧縮して放つ武器らしい。その威力は絶大だった。 相手の方からも火矢や砲弾は飛んできているが、いまだに一発も船体に当たってはいない。それは何よりヴァンプの音色と、金剛の巧みな航行のおかげだった。 「さ、さすがにつらいっすね……」 ヴァンプは皆には聞こえないように声を漏らした。今までにここまで長時間吹いた事は無かった。幸いにも金剛のおかげでまだ被弾はしていないが、確実に砲弾の命中範囲は先ほどまでより狭まってきている。一刻も早く岸に着かなければ。 「皆さん!! 降りる準備をお願いします!」 ようやく船着場が見える。艦隊とはもうすれ違う直前だったが、三人の健闘のおかげで大半は戦闘行為の出来ない状態だった。 そのまま船は艦隊の中央を突っ切っていく。 「よし、もう少しで突破だ!!」 不意に静かになった。続いて耳をつんざくような爆発音。そして揺れる足元と木がへしおれる音。 「!!!」 「被弾した!?」 「あとすこしなのに!」 あれ、今まではなんで被弾しなかったんだろう。 極度の緊張とかで頭が回らなくて、耳からの情報やヴァンプが必死に守っていてくれていた事を忘れていた。 静かになったのは、あの不思議な音色が聞こえなくなったから。そしてそれは、ヴァンプに何かが起こったことを意味していた。 「ヴァンプ!!」 一番早く駆けつけたのはエミリアだった。倒れているヴァンプに駆け寄って抱き起こす。 「しっかりしろ!」 「姫……。どうやらちょっと張り切りすぎたみたいっすね」 「ばか者……」 姫の瞳から雫が落ちる。 「姫。泣いている時ではありませんよ。心配しなくても少し休めば大丈夫ですから」 「…………」 実際に休んでいる時間は全く無かった。それは当の本人も承知の事だっただろう。 「僕の残った魔力で皆さんを岸まで送れると思います。本当はこの魔法を使いたくは無かったんですが、この状況では仕方ありませんね。」 再び炸裂音と衝撃が船を襲う。船は船尾のほうに大きく傾き始めた。 「……皆さんをここに集めていただけますか?」 「…………」 「あなたがしっかりしないと。誰がこの国を守るのですか?」 「…………」 「……わかった……。」 姫は立ち上がると、砲撃音に負けないくらいの大声で皆を集めた。 すぐに皆が駆け寄ってくる。 「ヴァンプ!」 「ヴァンプさん!?」 「……皆、集まりましたね」 ヴァンプは皆の顔を確認すると、再び笛をとって音色を奏でた。 「ヴァンプ、一体何を……」 「…………」 エミリアは喋ろうとしない。どんなに頑張っても、その方法しか思いつかなかったからだ。 滑らかな曲を吹き終わる。同時にヴァンプを除く皆の体が淡く光りだした。 「おい、ヴァンプどういうことだ!?」 「……この魔法を使いたくなかったのは……」 「自分を送ることが出来ないからなんすよね……」 「……ヴェルデ、姫を……。この国を頼んだ……」 光がさらに輝きを増し、やがて4人の姿をかき消した。 崩れかけた船に、一人の男だけが残された。男はおもむろに煙草を取り出し、そばでくすぶっている炎で火をつけた。 溜息とともにゆっくり紫煙を吐き出す。 「…………」 「……俺、何かっこつけてんだか……」 ふっと乾いた笑みを浮かべた。煙草の灰が風に乗って崩れる。 「まぁ、俺からそれをとったらなにものこらねえかな……」 「……上手くやれよ……ヴェルデ」 彼の口から、フィルターの近くまで燃えた煙草がことりと落ちた。
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Breath Dragoon
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こんばんは、Ron様。私の誕生日に更新という事に運命を感じつつ(ぇ)拝読させて頂きました。ヴァンプが!! ヴァンプが!! 私、ヴァンプが一番好きでしたのに! 彼は逝ってしまうのですか!? うぅ……でも、カッコいいです。皆を送るために最後の魔力を使うヴァンプが本当にカッコいい……!! 次回、ヴァンプを船に残して送られてしまった4人がどういう反応を見せるのかが楽しみですw
2006/12/19(火) 午前 2:29
織姫サマ、どうもありがとうございます☆ ……って、17日が誕生日だったんですね^^ おめでとうございますww ヴァンプは……私も実は一番のお気に入りなので、書く日の気分ではどうなるか解りませんよ〜w もう少しでエンディングなので、是非是非ラストを見守ってやってください^^
2006/12/19(火) 午後 5:23