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「ね〜。ほんとアシュリー役の本条香奈子さん、すっごい演技力だったね〜」 「ほんとほんと。特に普通の人間の時とその仮面がとれて魔女の面が明るみになったときのギャップ! 思わずぞくぞくって来ちゃったよ〜!」 「だよなぁ。しかも美人でスタイルもいい。俺マジで惚れそうになっちゃったよ!」 「え〜、残念でした〜。本条さん、実は結婚してるらしいよ〜」 「え、そうなの!? まあ確かに当然か。あんなおしとやかで、それでいて快活そうな美人、ちまたの男 どもが放っておくわけないもんなぁ」 「そゆこと♪ っじゃ、そろそろお昼でも行きますか〜」 「だな!」 ――そんな会話が聞こえてきた。この劇の主役、本条はこういった観客の感想を舞台そでで聴くのが大 好きだった。さっきの演技の良し悪しとか、舞台の成功度が分かるし、何より次の公演の励みになるか ら。だからいつも一人最後まで残ってみなの感想をここで聴いて回るのだ。 「本条さん、今回の劇の成功挨拶行きますよー」 「……あ、はい……」 スタッフの人に呼ばれて、本条は小走りで楽屋のほうへ戻る。楽屋につくと、そこにはもうみな全員が 集まっていた。 「やっと今回の主役が来たよ。それじゃ、成功祝い始めようか」 「まずは監督から。どうでしたか、今日の公演」 スタッフの人が監督へと話を向けた。みなも監督のほうへいっせいに向き直る。 「そうだな。まあ、今回の公演はおおむね成功したと言っていいだろう。ただ、各々の感情の移入の仕方 がばらばらで、誰かが浮いているようにも聞こえる。そこを今後気をつける事。役柄、と言う仮面を劇場 で被った時点で既にそいつはその物語の一人となる。なりきるのではなく、その人物そのものになるの だ。その事を頭に叩き込んで、いつ、どのような仮面でも即座にその役になれる事が大切だ。演劇はこの 一本で終わりではないからな」 「はい」 みながいっせいに返事をする。スタッフが次の人に話を向けた。 「はい、それじゃ次はこの話の主役、アシュリー役の本条さん。初公演でしたが、どうでしたか?」 同様に皆の視線が一斉に本条の方に向けられる。 「え。私、ですか……? 私は……」 何かを言っているものの、後のほうは消え入るような声で聞こえない。 「おいおい香奈子ちゃん。演劇の時とはえらいちがいだな」 軽い冗談のつもりでエドワード役の男が言う。が、本条はさらに顔を真っ赤にして黙り込んだ。 「す、すみません……話すこ…………」 ただでさえ小さい声がうつむいてさらに聞こえなくなる。 そこに監督が口をはさんだ。 「まあまあ。いいじゃないか。これもさっきのお話しのいい例えだ。本条は劇中ではあのアシュリーと言 う仮面を被っている。だからあれは本条ではなく、アシュリーなんだ。そして本状の演技力が飛びぬけて 高いのも、ここの切り替えが人よりもうまいからだ。そこを皆も見習え。」 「監督、ぁ…………ございます……」 本条が真っ赤のまま、監督に対して礼を言った。が、それも最後まで聞こえない。やれやれ、と監督が 本条に対して付け加えた。 「……とはいえ、本条。それでは他の人に何も伝わらないぞ。演技を磨くのもいいが、たまには自分自身 の演技も磨いたほうがいいとは思うぞ」 「……はぃ……」 「よし。今日はもう遅いし、肝心の本開演は明日だからな。皆明日に備えてゆっくり休む事。間違っても 飲んで潰れたりしないようにな。では解散」 「お疲れさまでしたー」 皆それぞれの楽屋へと帰る。中には忠告を無視して飲みに行く奴もいたが、幸い本条はその誰からも声 をかけられなかった。やはり既婚者だからだろうか。 「……帰ったら家の事、しないといけないなぁ」 そう思いながら一人、家路につくのであった。 「やばいやばい!」 香奈子から電話があったのは7時55分。いつもの終わった時間からかけたとすれば、恐らく猶予はあと1 0分もない。 ソファでビール片手に野球に熱中していた彼、本条和仁は呆然として部屋を見渡した。床には脱ぎ散ら かした寝巻きや靴下。台所は昼ご飯の洗い物で埋められ、おまけに頼まれていた洗濯物は未だにベランダ で泳いでいる。 「和仁、落ち着け、落ち着くんだ! 必ずどこかに全てをうまく収める方法があるはずだっ!」 とりあえず、時間稼ぎに鍵をかけ、ドアチェーンをかける。普段なら彼女が帰る2分前に外しておくの だが、(あの開けた瞬間がんっ!って言うのがいやらしい)今日はまあ忘れていたって言うことで許して もらおう。 それから急いで洗濯物を入れる。多少干し過ぎて冷たく湿っているが、なんとか明日の朝までには乾く だろう。と言うか乾いてくれ。 その後に急いで洗い物をする。幸い今日の昼はサンドイッチだったのであまり皿は出ていなかった。よ し、なんとか間に合った―― がんっ! 「!!」 玄関までダッシュして鍵とチェーンを外す。ドアを開けてみるとやはり不機嫌そうな香奈子の姿があっ た。 「香奈子、おかえ」 「なんでドア、開けてないの」 早速にらまれる。 「い、いや……ちょっと忘れてて」 「ふぅん。まあいいけど。」 そのまま香奈子はヒールをぬいで上がる。ほっ。なんとかうまく切り抜けれそうだ。 「ねえ、ちょっと位荷物持ってよ」 「あ、ああ、ごめんごめん。はい」 香奈子が持っているかばんと紙袋を持つ。一足先にソファにかばんを置き、玄関にいる香奈子のスプリ ングコートを脱がそうとする。 「もう、そこまでしなくていいから。……今日なんかあったの?」 まずい。怪訝そうな顔で見られてる。 「い、いいやいや、別になにも!」 「……ふうん」 そのまま香奈子はソファへと倒れこむ。よっぽど疲れてたの……かな? そのまま瞼が落ちるか……と思われたが違った。 「ねえ。ビールは?」 「は?」 「ビール」 しまった。今日さっき飲んじゃったんだ。 「まさかあんた、私のビール飲んだんじゃないでしょうね!?」 「…………」 はぁ、と香奈子が溜め息をつく。 「じゃ、買ってきて」 「は?」 は? 今なんとおっしゃいましたか。 「は、じゃなくて。ビール買って来て」 「い、いや、でも今日はもう時間も」 「買ってこい」 「……はい」 諦めて財布を持って玄関へと出る。 「ついでにつまみと焼酎もねー」 「……はぁ」 深く、深く溜め息をつく。 「返事は!?」 「あ、はいぃ!」 これ以上何も言われないように外へと飛び出した。後ろのドアがしまった瞬間、ガチャンと思いっきり 鍵が閉まる音とチェーンがかかる音が。 「…………」 「……はぁ」 まさかあの彼女が、人前では声も出せないような彼女が、結婚を境にこれだけ変わってしまうとは。恐 らく自分以外はこの真実を知らないだろう。最近の俺は、彼女のどこまでが仮面を被った「役柄」で、どこ からが彼女の「本心」なのか、分からなくなってきつつある。 ……できれば、今の「香奈子」が「仮面」のほうであって欲しい。俺は切にそう願う。 あとがき ……いかがでしたでしょうか。私たちは日常生活中でさまざまな「仮面」を被って生活していると思います。でも、これって、どれが本当の「仮面を被ってない本当の私」になるんでしょうね。案外、難しい問題だと思いますよ。もしお時間がおありでしたら、一度考えて見てください。
最後になりましたが、ばっどさま、いつも楽しいお題や連絡頭有り難うございます。お忙しそうですのに、本当に感謝感謝です^^そして皆様、これからもよろしくお願いしますね |
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はじめまして(ぺこり)ばっどさんの公募にお誘いいただきまして、そこのトラバから参りました☆ ファンタジーかと思いきや演劇、そして香奈子の豹変……いや、素晴らしいです! 最後まで目が離せなくて、どうなるんだろうとわくわくして読ませていただきました! 1、2共に傑作押していきます☆
2007/4/20(金) 午後 10:36
案外、人それぞれに何枚かの仮面を持っているのかも知れませんね。参加ありがとうございます!
2007/4/20(金) 午後 11:20
輝月様、はじめまして^^ お名前は光菜様や織姫様のところで何度かみかけていました^^ やや、そう言っていただけると大変嬉しいですw そうですね、今回のはいろいろ迷いつつ思いつきで書いた部分が多いのでそんな感じに(偶然)仕上がりました^^; これからもよろしくお願いしますね^^♪
2007/4/21(土) 午前 0:53
ばっど様^^ 今回もお誘い有り難うございます^^w そうですね。やっぱり人それぞれ合わせる人に対して仮面を持っているものだと思います。きっと。 そしてトラバ二つとも有り難うございます^^; 何とか一つにまとめようと思ったのですけどどうしても一つにまとまらなくて^^; もしかしたら別の二つめ書くかもですよw
2007/4/21(土) 午前 0:58
初めまして、ばっどさんのとこからきました。う〜ん、深いですねえ。本当の自分っていうのは、時々考えることがあるけど。仮面っていうのも、人に対してだけじゃなくて、自分に対してもかぶることがあるんじゃないかな。なんてね。
2007/4/21(土) 午前 2:05
はじめまして^^ 今まであまり意識したことの無かった事だけに、なかなか難しい事ですよね。快活な自分、物静かな自分。そのどちらも、望んで自らが作り出した「仮面」なのでしょうね。自分がなりたいような人物像を浮かべて、それにあわせて「仮面」を作る、そう言った感じなのでしょうかね。なぞは深まるばかりです^^;
2007/4/21(土) 午後 0:10
お久しぶりです。香奈子さん恐いですね〜(笑)彼女はいくつ仮面を持ってるのかしら?
2007/4/22(日) 午前 9:18
ろんさん、ご無沙汰です。おたけです。覚えていますか(笑)。ばっどさんのブログからきました。前回のも読ませてもらったんですが、感想は書かずだったので、今回は書かせてもらいますね!一言です。「女は恐い」。騙されないようにしなくっちゃ!! 面白かったです。
2007/4/22(日) 午後 10:17 [ おたけ ]
はなみ様、お久しぶりです^^ 実は加奈子さんは恐妻だったのですよ〜w 夫は3つの仮面で最後だと思っていますが実は……があるかも^^;
2007/4/23(月) 午前 0:15
おたけ様、お久しぶりです^^もちろん覚えていますよ^^b 本当に、一言で言うなら「女は怖い」につきますかねw まあ、この「仮面」は人間誰しもが持っているものなのだと思います^^
2007/4/23(月) 午前 0:17
女の人のこんな部分…Ronさんにはバレちゃってましたね!笑気をつけます 笑
2007/4/23(月) 午後 7:54 [ miii1_k ]
いや、やや、もちろん身の回りにそんな人はいないはず……^^; 皆優しくていい人たちですよもちろん^^b……きっと^^……たぶん^^;
2007/4/23(月) 午後 8:41
舞台で輝く女優が実は、普段大人しい、だけでなく、家に帰ると・・・二重の三重構造だったのですね^^凄いなあ。
2007/4/26(木) 午後 8:35
今回の仮面というお題は、言い換えれば仮面を何枚も持っていれば何通りもの人を演じることが出来るということになりますから。そういうのを表現したくてこういう形になりました。お褒め頂き有り難うございますw
2007/4/26(木) 午後 10:25
こんばんは。ぱっどさんのところから来ました。どうなるのかと思ったら、とても面白い展開でした。こんなに人ってかわるのですね。その辺を題材にしたところがすごいです。
2007/4/29(日) 午後 11:32 [ - ]
こんにちわ^^ やや、ありがとうございます^^w 今回の仮面ってお題で、一番表現したかったのはそこなんですよね。難しかったですが、そういっていただけると嬉しいです^^
2007/4/30(月) 午後 1:43
香奈子にとって、和仁の居るところこそ、本当の自分でいられる安息の場所。夫に甘えることが妻の愛???恐妻男のうろたえぶり、リアルでした。
2007/5/2(水) 午後 9:57 [ dea**zar*tom* ]
本当の安息を得られる場所だからこそ、安心して本当の自分を出せる……んですが^^; はたしてそれが良い事なのか悪い事なのか。。。。彼には可哀想な思いをさせましたw
2007/5/3(木) 午前 8:00
場面が色々と変わっておもしろかったです。香奈子さんみたいに人前と家の中と変わる人、実際にもいるんですよね。私の友達、モロこんな感じでした^^;私も出かけるときは多少なりと仮面を被って出てゆきます(笑)
2007/5/8(火) 午後 5:08 [ - ]
有り難うございます^^ 実際に変わる人は……あまり見たこと無いですね^^; と言うか、両方の顔を見る事があまり無いのでどっちがほんとの顔なのか解らなかったり。。 やはり誰しもが仮面を被っているのでしょうね。
2007/5/9(水) 午後 11:07