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「今日は何して遊ぶよ?」 「この前は河原に行ったよね。正直この辺は遊び尽くしたからなぁ」 「そうねぇ。あ、そうだ! この前お母さんが言ってたんだけど、この町の東に、綺麗な花の咲く洞窟が あるんだって!」 15〜6の少年が口々に話している。その中にあのつんつん頭も含まれていた。 「ね、行って見たくない?」 最初に提案したショートカットの女の子がみなの返答を催促する。 「そうだな、皆、今日はクレアの言ってる所に行かないか?」 「珍しくファンが乗り気じゃん。今日は雨でも降るんじゃね?」 提案に乗ったファンの言葉に、まさにいがぐり頭な少年が突っ込みを刺す。その隣の小さい少年がさらに 追い込みをかけた。 「まあ、ファンって言ったら大抵剣の話しか女の話しだもんな。あ、そうか。今日行きたいのも愛しのあ のコにその花を贈りたいからだろ♪」 「ち、ちがうよ! しかもあいつとはそんなんじゃねえし。第一ここでいつもみたいにだべってても仕方 ないだろ」 必死に反論する。が、それはさらに彼らを面白がらせるだけだった。 「え、俺はあのコって言っただけだし〜」 「ねぇファン君、あのコって、誰よ?」 「あ、わかった!あの雑貨屋のところで働いてるおねーちゃんだ!」 「ち、違うって! ほら、いくんだろ!? じゃあさっさと行くぞ!」 そう言ってファンは一人町の外へと駆け出した。それを追いかけて二人、三人と駆け出していく。 「ねぇファン! 待ってよ!」
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HEAVENS KINGDOM
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「少しは気にしろよ。じゃ、またあさってに」 「はいよ」 イルクは右に、ヴェルデとセフィは左に角を曲がる。 イルクと別れ、二人で歩いている時にセフィが口を開いた。 「ね、イルクさんなんだか若くなった気がしない?」 「え?」 ちょっと予想しなかった質問がきたのでヴェルデは思わず声を上げた。 「そうかなぁ。俺にはあんまり変わってない気がするけど」 「ん〜ん。女の目はごまかせないよ〜」 セフィは意味ありげな笑みを浮かべた。 「あれは誰かに恋、してるとおもうな〜」 「えっ?」 さらに予想しなかった答えにまたヴェルデは声を上げた。 「こ、恋ってお前、あいつももういい年だぞ? 確かに今は一人身だが……」 「そんなの、わかんないよ? ヴェルデだってあの6年前のあのキスの……」 「わ〜! わ、わかった、わかったからよせって!」 慌ててセフィの口をふさぐ。その手をどけながらセフィが続けた。 「むご……だから、恋とか、結婚とかに年は関係ないとあたしは思うの。ファン君だっていつまでもイ ルクさんのところにいるわけじゃないし。この先一人で住むのはちょっと寂しいよ」 「…………」 「別に、それだからどう、というわけじゃないけど。やっぱりそこを否定されちゃうと哀しいな」 「……すまん、悪かった」 「ん。わかってくれたのならいいよ〜」 また彼女の顔が笑顔に戻る。確かにその話が納得できたからというのもあるが、素直に謝ったのは単に 笑顔を崩したくなかったからだった。 我ながら、恥ずかしい。でも、これはどうしようもない。
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あの事件の後、各地を旅して回って復興の手伝いをし、結局ミレットの町に帰ってくるのは一年が過ぎ ようとしていたころだった。その後少しの休養の後、ヴェルデとセフィはチュチュを探しに旅に出た。 が、本人はみつからなかった。ケピの町には彼女の残した手紙があっただけだった。 ――あたし、は生きています 皆さんがこれを見ていただけたなら幸いです―― この言葉が真実かどうかはわからない。でも、きっとどこかで生きている。生きているのならどこかで きっとあえる。そう信じて、旅立ちからさらに一年後、ミレットに帰り着いたのだった。そして今、ヴェ ルデは剣の稽古場を開き、セフィは病院の手伝いをして生活していた。 「ねね、ヴェルデ師匠。次はいつ稽古つけてくれるんだ?」 帰り支度をしているヴェルデに、意気揚揚とファンが話し掛けた。 「そうだな、明日はちょっと用事があるから、あさっての昼からでどうだ?」 目を輝かせながらファンは大きく頷いた。 「もちろん! 約束だかんな!」 ヴェルデの返答を聞いてから、ファンは自分の武具を抱えて稽古場を走り出た。 「すまんな、ヴェルデ。いろいろ世話焼かせて」 隣にいたイルクがヴェルデに向かって言った。 「いやいや。これくらいで役に立てるならいつでもいいさ。それよりイルク、お前は剣術とか、興味ない のか?」 「はは、やめておくよ。もう若くないしな。それに、今の俺にとっちゃ武術よりも雑貨や本を売る技術の ほうが必要だからな」 「そうか。っていっても、イルク、お前俺より二つ上なだけじゃないか」 苦笑を交えてヴェルデが言う。つられてイルクも笑い出す。 「ははは、そうだったな。ま、細かい事はきにしない、気にしない」 |
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「おい、どうした!? 剣先下がってきてるぞっ」 ミレットの町から、威勢のいい声が聞こえる。そしてその後に剣と剣の擦れ合う音が。 「まだまだぁ!!」 町の中の訓練場にその姿は有った。 「ほら、上半身に隙が出来てる! 剣や盾だけで全身を防ごうと考えるな! 体全体でかわすんだよ!」 しゅん、と風を切る音。生徒とおもわれる茶髪のつんつん頭が引っ込む。つんつん頭の少年はすかさず 前に踏み込んで師匠に斬りかかった。が、軽く剣で弾かれる。 「くそっ」 「一発で相手に致命傷を与えようとするんじゃない! 手数で崩して正確に急所を突く!」 言いながら師匠が突きを繰り出す。少年のほうは慌てて体をよじった。 「わかってるよ! そんくらい!」 延々続く彼らの稽古を見守っているのは二人。一人はひげを蓄え、恰幅のよい体をした男。もう一人は 明るい、茶色のような、ブロンドのような髪色をした蒼い瞳の女。 「……もう、あれから6年か」 髭の男が言う。 その言葉を聞いて、女のほうも唇に手を当ててこう言った。 「うん、そうなるね」 「はやいものだな」 「うん」 いつしか稽古の音が聞こえなくなった。ふと顔を上げてみると、稽古の終わった二人がこちらに歩いて きている所だった。 「お疲れ様、ヴェルデ師匠」 そう呼ばれた男は、苦笑しながら言葉を返す。 「セフィ、その呼び方はよしてくれよ」 「えっへへ〜」 屈託のない笑い声が心地よく響いた。 その隣では髭男が一巡りほど若い少年に声をかけている。 「ファン、お前また一段と上手くなったんじゃないか?」 「そうかな。でも、それでもまだ師匠にはかないっこないんだよ兄さん」 「そりゃ師匠はあの災厄を退けた張本人なんだからな。敵わなくて当然さ」 そう髭男がいった言葉に対して、ヴェルデが言葉を返した。 「だから、イルクもそういうことをあんまり言わないでくれ」 「あ、照れてる」 隣で笑っていたセフィが言いながらヴェルデの顔を覗き込む。 「もう、まいったな」 仕方なくヴェルデも笑う。 ――ここ、ロードミゲールは、絵に書いたように平和だった。6年前に何があったかなど誰も想像でき ないほどに、平和で、幸福な生活を皆送っていた。 今、この瞬間までは――
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