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「はぁ」
 男は誰もいない店の中で嘆息した。これで何度目だろう、無意味な音が響くのは。
 今日はクリスマス。だというのに男のスイーツ店には客一人はいっていない。宣伝もばっちり、駅からさほど離れていないし、店内だってチリひとつ落ちてないくらいだ。しかし彼の努力に反比例して客足は芳しくなかった。
「はぁぁ」

 時計の音が空しく鳴る。いつもの閉店時間、8時だ。ホントはもうちょっと閉店時間を遅らせようと思っていたが、ここまでこないと時間と維持費の無駄だ。男は店を片付けにカウンターから出ようとした。
 「こんばんわ、まだ開いてる?」
 ドアのカウベル音と共に落ち着いた声が響く。ふと男は顔をあげてみた。
「はぁ、ちょうど閉めるとこだったんですが」
「なら、まだ開いてるのよね。ちょっとクリスマスケーキ見せていただけるかしら」
 少々お待ちください、と言い残して男はカウンターに戻り、奥へと向かう。顔はよく見えなかったが、セミロングの落ち着いた茶髪によく似合う革のコートを着た、スタイルのいい人だったな。
 そんなことを思いながらいつもより少し丁寧にラッピングを施し、袋に入れてカウンターへと戻る。
「はい、お待たせしました」
「ありがとう、あけてもいい?」
 へ、と男が言った直後に、その女性はケーキを袋から取り出してラッピングを慣れた手つきではがしていく。
「ちょ、ちょっと待った、あんた何して・・・・・・」
 思わず普段の口調に戻った男が制するも、ついにラッピングはすべて解かれ、丁寧に飾ったクリスマスケーキが出てきた。
「ふむ、外観は思ったより上々、デコレーションもバランスよく、かといって個性がないわけでもない」
 ケーキを見下ろしていた女は、急に男のほうへ向きなおした。初めて目が合う。逸らしたのは男のほうだった。
「これ、貴方が作ったのよね?」
「そうだけど」
 ぶっきらぼうな言い方になるも、男はそんなこと気にしていられる余裕はなかった。それほどまでに彼女の目線は男の心を打ち抜いた。
「味見させてね」
 再び制するも、彼女はお構いなしに指を突っ込んでクリームとスポンジを口に運ぶ。もぐもぐもぐ。瞳を閉じて味を吟味する。唇についた白いクリームがいやに綺麗だった。
「あ、あの……?」
 そのまま数秒がたつ。男は不安になっておずおずと彼女の顔を覗きこんだ。
「きめた!」
 いきなり彼女は瞳を開き、満面の笑みでそう言った。
「このケーキ、買わせていただくわ」
 そのままふたを閉め、ラッピングを軽く戻して袋に戻す。
「えっと、おいくらかしら」
「2980円になりますが、それもって帰るんですか? 新しいケーキとかえたほうが……」
 男は慌ててそう言う。本当にそう思ったのもあるが、ただ単純にもう少し話しをしていたい気持ちが大きかったから。
 その言葉を受けて彼女は軽く微笑み、そしてほんの少し寂しそうな顔をした。思わず男の心が痛む。
「ああ、いいのよ別に。どうせ食べるのはあたし一人だから」
 2980円よね、と確認をとりながら、彼女は財布から千円札を3枚出す。
「…………」
 無言のまま、20円を渡す。彼女の手はひえて冷たかった。
「じゃあね、メリークリスマス」
 彼女はそのまま振り返って出口へと歩いていく。

「待って」

 気がついたら、ひきとめていた。
「その、それならここで食べていきません? ここなら紅茶も出せるし、何よりケーキっていうのはやっぱりみんなで食べてこそ美味しさがでるものだと思うんです」
「え……」
「迷惑じゃなかったら、だけど」
 彼女はさっきと同じような顔をした。微笑みだけど、やっぱり寂しい、笑顔。
「……今年は楽しいクリスマスになりそうね」
「えっ、それじゃ」
 寂しい笑顔が、最初の笑みに変わった。
「ええ、貴方のほうこそ迷惑でなければ一緒に食べましょう。じゃあ、ケーキのほう準備しておいてね。あたしはお茶のほうを準備します。厨房少し貸してね」
 彼女はそういってカウンターの奥へと消えた。男はケーキを一番お気に入りの、なおかつこの季節に合う皿を選ぶ。透き通った白と、淡い雪色。それとペアの小皿を二つ用意して、店の二人がけのテーブルに丁寧におく。
「こっちのほうは準備、終わったよ」
 厨房のほうへと寄りながら声をかけ、覗いてみる。彼女はちょうど火にかけた鍋をポットにあけるところだった。
 手慣れた手つきで茶葉をいれたポットの中に湯を勢いよく注ぐ。その湯気が逃げないようにすばやく蓋をして、布巾を被せて冷めないようにする。
「あたしのほうもこれでちょうどひと段落。さ、座って食べましょっか」


 向かい合って二人で座る。気のきいた酒なんてないけれど、ケーキの甘い香りと紅茶のすがすがしい香りがあたりを包む。
「ふふ、何年ぶりだろ」
 明かりを落として、ローソクをケーキに1本だけさして火をつける。
 互いの顔が、煌く明かりに揺られてうつる。
「じゃあ、メリークリスマス」
「うん、メリークリスマス」
 カチンっ、と一回だけ音がして、煌きは消えた。





あとがき。

 ちょ、これ時間なかったのばればれだよ……(暴露
 ホントは、いろーんな設定がふっとばしです。書き足したいのは山々なんですが、時間がちょっとあれだったのでここで補足を。

 この店、売れてないわけじゃなかったんです。ただ、ケーキだけはサッパリ売れない。それは彼のケーキが個性的過ぎてケーキだけを食べるとこゆ過ぎるから。(つまり美味しいけどたくさん食べたくない……って味ね)
 で、そこに彼女が現れて。彼女は自身で紅茶店を開くひとで、いきなり味をみたのも紅茶のブレンドをきめるために味見したわけなのですよ。
 そして、彼女はこの店のケーキの味を知って、その上で買おうと思ったわけです。それはつまり、この紅茶と合わせればケーキの味を殺すことなく、最後まで美味しく食べられると。それが可能だから買ったわけですね。

 本当はこの二人、結婚します(何

 ただ、時間の都合上最後まで書ききれなく。。。 本当に申し訳ない・・・・・・

閉じる コメント(3)

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ありがとうございます!
私も今書きましたよ!わははは!

2007/12/25(火) 午後 11:25 ばっど

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いえいえ、こちらこそありがとうございます^^
それでは、よいお年を!

2007/12/28(金) 午後 10:04 るぅ、ろん,

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不適切なコメントを削除しました。万一そう言う意図ではない、と言う方がいましたらお知らせください。

2008/1/17(木) 午前 4:55 るぅ、ろん,

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