いただきもの

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グッドホープ岬。相変わらずセントラは荒涼としている。
 壊れ果てていたイデアの家は、昔の面影を残したまま改築された。セントラに任務で来たSeeDの宿泊用施設としても利用されている。
 高速小型飛行艇から降り、あたしはイデアの家へと歩いて行った。
 ノブを回すと、鍵が開いていた。中に入ってアービンの名前を呼ぶ。
「アービン?」
 名前を呼びながら部屋を回ったけれど、アービンの姿はどこにもなかった。ただ、部屋のひとつにアービンの荷物が置いてあったので、ここにいることは間違いなさそうだ。
 じゃあ、どこに行ったんだろ……。
 裏口から海岸へと回る。でもそこにもいない。
 じゃあ……あそこかな。
 家の裏手にあるお花畑。アービンならテーブルに飾る花を摘んでてもおかしくない。
 あたしはお花畑へと急いだ。そして、黒いテンガロンハットが色とりどりの花から垣間見えて、嬉しくなった。
「アービ……」
 アービンはかがみこんで、一生懸命に何かを探していた。もしかしたら、それは。
「!?」
 その瞬間、あたしはめまいを感じた。
 揺らぐ景色。むせ返るような花の香り。

 ―― 見つけなきゃ。

 早く、早く。
 急き立てられるような思い。心臓の鼓動が早くなっていく。

 ―― どこ……? どこにあるの……?

 きょろきょろと見回す黒い帽子。アービン、そこじゃないよ。
「アービン」
「……セフィ……? どうして……」
「そこじゃないよ」
「え……?」
「こっち」
 アービンの手を引っ張って歩き出す。体が勝手に動いていく。
「ほら。あそこ」
「……あ……」
 お花畑の奥の方。ちょっと小高い丘の上。そこにはお花はまばらで、草ばかりが生えている。
 あたしが指差した辺りには、クローバーの群生。実はお花畑にはクローバー、生えてないんだよね。
「どうして僕がクローバーを探してるって……?」
「しおり、作ってくれるって言ってたから。たぶんそうじゃないかな、って」
「君は何故、ここにクローバーが生えてるって知ってるんだい?」
「そういえば……どうしてだろ……。何となく、っていうか、体が勝手に……」
「そうか。ありがとう」
 アービンは優しく微笑した。その笑顔を見てあたしの胸が温かくなる。アービンの笑顔、久しぶりに見た……。

 ―― ね、泣かないで。

 くらり。景色が揺れる。

 ―― これをあげるから、泣かないで。

 くらくらくら。膝が揺れる。立っていられない……。
「セフィ!?」
 目の前が真っ暗になる。その一瞬に見えたのは、柔らかな栗色の髪をした青い瞳の男の子だった……。



 どうしても、見つけなくちゃ。
 まま先生に読んでもらった絵本にのってた。四葉のクローバーは幸運のお守りなんだって。だから。
 くるくるくる。お花畑をいくら見回してみても、クローバーは見つからない。
 どうしても。どうしても、見つけないと。
 足が痛い。それでも、探し回る。服も手も、泥だらけだ。
「あった……!!」
 さんざん探し回って、お花畑の端まで来た時に見つけたクローバーの群生。
 だめ、これもだめ……これも三枚……。
 それからクローバーをかき分けて探し回る。四枚の葉っぱ。四葉のクローバー……。
 そして。
「見つけた……!!」
 いちまい、にまい……。四枚の葉っぱ。とうとう見つけた。
 大事に大事に茎を折る。うん、間違いなく四葉のクローバー。
 やっと見つけた。やっと見つけたよ。
 だからきっと、また、会えるね。

「ねえ、泣かないで」
 大粒の涙をぽろぽろと零してる男の子の髪を、あたしはそっと撫でてあげる。
「これ、あげる」
「四葉の、クローバー……?」
「まま先生の読んでくれたお話、覚えてる?」
 男の子はこくりとうなずいた。
「うん。四葉のクローバーは、幸運のお守りだ、って」
「そう。だからね、きっとまた会えるよ。幸運のお守りだもん。また……会えるから」
 あたしの瞳からも涙が零れ落ちる。さよならするなんてイヤだ。ずっと一緒だったのに。でも、行かなくちゃならない。だけどこれがあれば、きっと。
「じゃ、今度会えたら、ぼくが四葉のクローバー、あげるね」
「うん。約束ね」
 二人の小指が絡み合う。ゆびきり。必ずまた、会おうね。
 あたしは男の子をぎゅっと抱きしめる。大好き。ふんわりしたお日様みたいな匂いが大好きだった。ずっと忘れないように。ぎゅっとぎゅっと抱きしめる。
「大好き……。きっときっと、また会おうね」
「うん……。ぼくも、大好きだよ」


 セフィ……。


 額に触れた冷たい感触で意識が戻った。
「ん……」
「気がついた?」
 あたしはあのままお花畑で倒れてしまったらしい。アービンが運んでくれたんだろう、あたしはベッドで横になっていた。
「アービン……」
 あたしを見つめる優しいブルーアイズ。そう、空の色みたい、って思ってたんだった。お日様色の髪に、空色の瞳。眩しい笑顔。大好きだった。
 空のような瞳は深みを増して海のようなダークブルーに。お日様みたいな髪も深みのある金褐色の髪に。でも、太陽みたいな笑顔は変わらない。昔よりもずっとずっと精悍で男らしくなったけれど、その笑顔だけは変わらない。
 あたしは起き上がってアービンの首に抱きついた。額に置かれたタオルが落ちるのも構わずに。
 ぎゅっとぎゅっと、抱きしめる。あの時のように。もう、あたしよりもずっと大きくなっちゃったね。抱きしめるというより、あたしが抱きついてるようにしか見えないね。お日様みたいな匂いは変わらない。もっと男っぽい匂いだけど。コロンの香りもするけれど、やっぱりアービンはアービンだ。
「ごめんね、アービン。あたし、ひどいこと言った」
「いいよ、気にしなくて。別に怒ってなんかいないよ」
「あのしおりのクローバー……あたしが、アービンにあげたものだったんだね」
「セフィ……君、まさか……」
 あたしはこくりとうなずいた。思い出したよ。全部。
「あたしが新しい両親の元へイデアの家から出ていく日、アービンにあげたものだったよね。これを持っていたらきっとまた会えるよって」
「……思い出してくれたのか……」
「ごめん、忘れてて。G.F.の影響、まだ残ってたんだね。アービンに哀しい思いをさせてごめんなさい」
 たかがしおり、なんて言っちゃった。きっとアービンはとても寂しかったと思う。傷つく、とかじゃなくて、きっととても寂しく思ったはずだ。
 あたしたちがG.F.をジャンクションすることによって記憶の一部を失ってることは、アービンにはわかっていたことだろうから。優しい彼はそれを責めることもなく、寂しい気持ちを胸の奥にしまって、ただ微笑むだけだった。G.F.のことはどうしても必要だったから仕方ないけれど、大事な思い出を失くすようなことはしてほしくなかった。他の事はいい。でもアービンとの思い出だけは、失いたくなかった――
「もういいよ、それは。だって君は思い出してくれたんだから。それだけで十分さ。……それに、君は覚えてくれてた。記憶の底でちゃんと、ね」
「覚えてた……ってどうして……?」
「さっき、君はクローバーの生えている場所を教えてくれたじゃないか。なぜだか自分ではわからなかったみたいだけど、僕にはわかったよ。君は幼い頃、あそこでクローバーを見つけたんだ。だから知ってたんだ」
 アービンはあたしを優しく見つめながら笑った。お日様みたいな笑顔。あたしの大好きな……。
「すごく、嬉しかった。君はちゃんと覚えてくれていたんだ。まさか記憶を取り戻すとは思ってなかったけど、でも、僕たちの思い出を取り戻してくれて、本当に嬉しいよ」
「うん、あたしも嬉しい……。アービンとの大切な思い出だもんね」
「それで、四葉のクローバーは見つけられたんだ。今日軽く押し葉にして、明日しおりを作ってあげるね」
「うん、ありがとう。……約束したもんね?」
「そうだね。……僕はね、セフィ。今度会えたら、もう絶対に君とは離れないって決めてたんだ」
「アー……ビン……?」
 あたしを見つめるアービンの瞳はとてもまっすぐで、その強い視線に絡めとられて、あたしは動けなくなってしまった。
「まあ、それは僕一人の思い込みだったし、実際君と再会してからも色々あったから、この話をするのが遅くなってしまったわけなんだけど」
 そう言いながら、アービンはベッドサイドの机の上から袋を取り上げた。
「一日早いけど、誕生日のプレゼントだよ」
「ありがとう……。開けていい?」
「もちろん」
 袋の中には紺のビロードの箱が入っていて、その中には四葉のクローバーをかたどったペンダントヘッドのついたネックレスが入っていた。
「綺麗……。これ、エメラルド?」
「たぶんね。気に入った?」
「うん!! すごく綺麗……」
 そしてアービンは「つけてあげるよ」と言いながら、あたしにネックレスをつけてくれた。首の後ろでネックレスを留めた時、あたしはアービンにしっかりと抱きしめられていた。
「アービ……ン……?」
「セフィ、愛してる。君をもう離したくない」
 あたしはアービンの背中に腕を回し、たくましい胸に顔をうずめてうなずいた。
「あたしも、また会えたらもう離れたくないって、思ってたよ」
「セフィ……」
 大好きだったアービン。もちろん今でも大好き。……ううん、前よりも、ずっと、ずっと――
 アービンの深く青い瞳に吸い込まれそうになる。重ねられた唇は溶けてしまいそうに熱くて。
「アービン……いいよ」
 アービンの耳元でそっと囁く。だってもう、離れたくないから。
「セフィ……ッ」
 それだけでアービンはすべてを理解してくれた。もっと深く、もっと熱く唇が重ねられ、あたしはベッドに押し倒された。ふわり、とアービンの髪があたしを包む。
「アービン、愛してる。ずっと一緒に……」
 あたしの言葉の最後は、アービンのキスで防がれてしまった。
 大好き、アービン。これからも、ずっと、ずっと、一緒にいようね――


.........fin.

「セルフィ」
 食堂でケーキをやけ食いしてたあたしを呼ぶ声に振り返ると、そこにはリノアとキスティスがいた。慌てて口にほおばっていたタルトを飲み込み、アイスティーで流し込む。
「何〜? どうかしたの? リノアにキスティス」
 リノアはくす、と微笑んでから、後ろ手に持っていた何かをあたしへと差し出した。それは綺麗な山吹色のラッピングで、赤いリボンが巻かれていた。
「「セルフィ、お誕生日おめでとう!!」」
 リノアが「一日早いけどね」なんてウインクしながらプレゼントをくれた。
「明日はセルフィ、休暇を取っているでしょう? アーヴァインとお出かけするだろうから、早めに渡しておこうと思って」
 アービン。あれから……ろくに顔も見てない。
 この数日、アービンが謝るまで口だってきいてあげない! なんて思ってたけど、ずっとずっと寂しかった。いつもつまらなかった。どうしても話せないことならそれでもいい。アービンが離れて行っちゃうよりずっといい。だから今度会えたら謝ろうって思ってたのに。そのきっかけすらつかめないでいる。
「そ……っか。ありがとう。でもあたし、明日はお出かけしないかもしれないし」
 今日どころか昨日だって一昨日だってアービンとは口をきくどころか顔すら合わせていない。避けられてるのかな……。あたしたち、もうダメなのかな……。
「そのことなんだけど」
 キスティスが真面目な顔をしてあたしを見つめた。「座っていい?」と目で問いかけられてうなずくと、キスティスとリノアはあたしの向かいの席に腰を下ろした。
「あなた、最近アーヴァインとケンカでもしたの?」
「そうそう。いっつも二人でいたのに、最近じゃ話すらしてないみたいだから心配してたんだよ〜?」
 あたしは、先日の図書室での一件を二人に話して聞かせた。あたし一人じゃどうにもならない。どんなに考えてもわからないんだもん。
「そんなことがあったの……」
 話を聞き終えたキスティスが、人差し指を唇に当ててため息をついた。
「確かに怪しいけど……。でも大切な人にもらったのだとしても、子どもの頃の話でしょ?」
「そうなんだけど、だったら話してくれればいいじゃない? あたしだって大切な思い出のあるものまで取ろうとは思ってない。ちゃんと納得できる理由を話してくれればいいのに、アービン、何にも話してくれないんだもん」
「確かにそうよね。スコールも『あんたには関係ない』なんて言って話してくれないことが結構あるけど、そういうのって不安になるんだよね〜」
「いいんちょならそう言うかも。でもあのアービンが何にも話してくれないなんてこと、今までなかったから……」
「うーん。余計に不安になっちゃうか〜」
「うん……。アービンのことは信じてるの。でもね、ちゃんとお話して欲しいの。あたしだってちょっと言い過ぎたと思ってる。謝った方がいいのはわかってるの。だけど謝りたくてもきっかけがつかめないの。アービン、最近じゃあたしを避けてるみたいだし。……怒ってるのかな〜」
「私は、詳しいことは全然わからないのだけれど、ただ、怒ってるとか、そういうわけでもないみたいなの」
「どういうこと? キスティス」
 キスティスは微笑みながら胸ポケットに手を入れた。そこから白い封筒を取り出す。
「何?」
「あなたに。アーヴァインからよ」
「アービンから!?」
 封筒を受け取って見ると、確かにあたしに宛てたもので、差出人はアーヴァインの名前だった。流麗で力強いアービンの字が書かれている。
 ご丁寧に蝋で封がしてあった。中身は手で封筒越しに触れる限り、ちょっと厚めの紙のようだ。これは……カード?
 封を開くと、中には案の定、カードが入っていた。


 誕生日おめでとう、セフィ

 君をパーティに招待します
 7月16日午前11時に
 イデアの家に来てください

       アーヴァイン


 イデアの家……? どうしてわざわざ?
「アーヴァインはもう、イデアの家に行っているのよ。この二日ばかり彼と会えなかったのはそのせい。イデアの家には私が送ってあげるわ。そこでアーヴァインと仲直りしてらっしゃい。きっと大丈夫よ」
「…………うん」
「そうそう。だって誕生日パーティーを開いてくれるんでしょ? アーヴァイン、怒ってないよ。セルフィが素直に謝ったらきっと『いいよ』って言ってくれるよ、きっと。あ〜あ、そういうの、スコールにも見習って欲しいな〜」
 あたしは思わず吹き出してしまった。
「リノアってば」
「楽しんでいらっしゃい。……二人きりなんだから、遠慮なんていらないわ」
「きゃー、キスティスってばイミシンな発言〜」
「ちょ、やだ、まだあたしたち、そんな関係じゃ」
「だったらチャンスチャンス。勝負下着着用よ、セルフィ!」
「リノアまで調子に乗らないでよ〜」
 アービンからの招待状。これをくれたってことは、少なくとも怒ってないってこと。じゃあ、こないだのこと、謝ったら……許してくれる……よね?
 あたしはアービンからもらった封筒を、そっと胸に抱き寄せた。そして勢い良く立ちあがる。これはあたしの決意表明。
「あたし……今からグッドホープ岬に行って来る」
「あら。でもラグナロクは今、使えないけど」
「小型高速飛行艇があるでしょ? それ貸してもらう」
「そう……ね。あれなら二人乗りだし。いいわ。じゃあ貸し出し手続きをしてから校門の外に止めておくわね」
「ありがとう、キスティス。プレゼントありがとう、二人とも!」
「楽しんでおいでね、セルフィ」
「行ってらっしゃい」



 あたしは部屋に戻り、服やら何やら、色んなお泊まりセットをバッグに詰め込んだ。
 お泊まり……。アービンと、二人で。
 手にしたポーチには、歯ブラシや洗顔フォームが入ってる。アービンと、二人きり……。
 あたしたちは付き合い始めて間もなくて、あたしがそういう関係にまだ踏み出せないのをアービンは知っている。だからまだ、唇が触れる程度のキスしかしたことがない。
 ……でも。
 あたしはぎゅっとカバンにポーチを押し込んだ。
 いいんだ。アービンなら、構わない。いつかはそういう関係になるつもりだったんだし、先延ばしにしてても仕方がない。アービンと仲直りできるのなら何でもする。だから、あたしは行く。
 軽くシャワーを浴びて着替えてから校舎の外に行く。キスティスが言った通り、校門の外に小型高速飛行艇が停まっていた。
 イグニッションパネルのそばに、キスティスとリノアの字で”頑張って!!”とメモが置いてあった。その文字を見てじーんとくる。ありがとう、二人とも。大好き。
 エンジン点火。計器チェック。オールグリーン。
 よっし、発進!!
 小型高速飛行艇は高音のエンジン音を響かせながら浮上した。
 セントラへと方向を定め、最高速度でグッドホープ岬へと急ぐ。
 この小型高速飛行艇にはエスタの科学の粋が集められている。ラグナロクは速いんだけど、大きすぎて目立つので、ガーデンがエスタに依頼して小型の飛行艇を開発してもらったのだ。
 これは二人乗りなんだけど、速さでいけばラグナロクにも劣らない。しかも小型だから小回りがきいて便利なのだ。
 ……アービンに会ったら何て言おう。
 あたしはおしゃべりだけど気の利いた事って言えないから、アービンに会ったらすぐに謝ろう。ゴメン!! って言ったら、アービンはきっと「いいよ」って言ってくれる。そんな気がする。
 自分の気持ちがはっきりしたので、あたしは妙にスッキリした気分でイデアの家に向かう事が出来た。

ねえ、泣かないで。
 これをあげるから、もう泣かないで。
 いつかきっと、また――




    そ の ひ と ひ ら に 愛 を 込 め て
       written by 夜霧みゆ crystal aqua



「アービン、見〜つけた」
 いつものお昼寝スポットにいなかったから図書室に来てみたら、案の定、アービンは本を読んでいた。アービンって読書好きなんだよね〜。あたしなんて、あんな細かい文字見てたらすぐ眠くなっちゃうんだけど。
「やあセフィ」
 足音か気配に気づいたのか、アービンは笑顔で振り返ってくれた。
「ね。お仕事終わったよ。いいお天気だし、お散歩行こうよ」
 あたしたちはSeeDであるかたわら、ガーデンで運営のお仕事を手伝っている。そして時々、候補生たちに講義する時もある。
 候補生たちに講義する日は、事務のお仕事はお休みしていいことになっている。もちろん、その日の授業の報告書は出さなくちゃならないんだけど。
 アービンはあたしよりも一時限早く終わったので、図書室に来ていたというわけ。あたしはてっきりお昼寝してるかと思った。それとも訓練室かなって。涼しいから図書室なのかな。ま、そんなのどうでもいいや。
 アービンは机の上に置いてあったしおりを本の間にはさんだ。ラミネート加工された手作り風のしおり。あたしはちょっと興味が湧いた。
「ね、そのしおり見せて」
「ん?」
 つい、と本の間からしおりを抜き取る。ラミネートに包まれたものは、ちょっぴり色褪せた四葉のクローバーだった。
「四葉のクローバー?」
「うん、そうだよ」
「アービンが作ったの?」
「え? まあね」
「ふうん……。でも色褪せてる……よね? 古いのかな?」
 アービンはふんわりと微笑んだ。その優しい微笑にあたしの胸がどきりとする。子どもの頃から知っていて、魔女討伐の長い旅の間もずっと一緒で、その後もアービンはバラム・ガーデンに残ってSeeDになって。お付き合いを始めてまだ数ヶ月だけれど、アービンのことはずっと前から知っている。だのに、未だにあたしの胸はアービンを見るとドキドキしちゃうのだ。
 男のくせにやたら綺麗ないいんちょにだって、こんなにドキドキしたりしないのに。変なの。
「そうだね。しばらく押し葉にしてから作ったものだからね。僕が子どもの頃に作ったんだよ」
「へええ……」
 色褪せてはいるけれど、綺麗な四葉のクローバー。これ、たしか幸運のお守りなんだよね。
 子どもの頃のアービンが作ったしおりかぁ……。そう思うと、ちょっと欲しくなってしまった。
「ね、あたし、コレ欲しい。ちょーだい?」
「悪いけど、それだけはダ〜メ」
 アービンはあたしの手からするりとしおりを抜き取り、本に挟み直した。
 あたしはボーゼンとしてしまっていた。アービンが「ダメ」って言った。いつもは絶対にそんなこと言わないのに。「ちょーだい」って言ったら「いいよ」って言ってくれるのに。
「ね、どうしてダメなの?」
「四葉のクローバーのしおりが欲しいのなら作ってあげるよ。それじゃダメかい?」
「そうじゃなくて、どうしてダメなの?」
「大切なものだからだよ」
「あたし、失くしたりしないよ? 大事にするよ?」
「それはわかってる。だから僕が作ってあげるよ。もうじき君の誕生日だし、プレゼントに追加しておくよ」
「そうじゃなくて!!!」
 何だろう。無性にイライラする。どうしてアービンは”あのしおり”をくれないんだろう? あたしには何でもくれるのに。初めて「ダメ」って言われた……。
「セフィ?」
「プレゼントなんていらない。そのしおりが欲しい」
「うーん……困ったなあ……」
「どうして困るの? たかだかしおり一枚に!!」
 あたしは、その時に見せたアービンの顔を一生忘れないだろう。
 ちょっと驚いた風に青い瞳を見開いて、そして、とても寂しそうな、哀しい瞳をして微笑した。その表情はとても綺麗で切なくて、あたしの胸に突き刺さって痛いくらいだった――
「これはあげられないんだ。ゴメンね。君には僕お手製のしおりをあげるから。それで勘弁してくれないかな」
 どうしてこんなにイライラするのかわからない。でもどうしても譲れなかった。アービンのお手製のしおりなら、そのしおりだっていいはずなのに。
「やだ。あたしはそのしおりがいい」
「セフィ……」
「それ以外いらない」
 アービンに「ダメ」って言われたのがショックだった。お父さんの形見だって言う帽子だって、すごくすごく大切なものなのに、あたしには触らせてくれる。被らせてもくれる。他の人には絶対に触らせたりしないのに。
 じゃあ、どうしてそのしおりはくれないんだろう? 理由を聞いても話してくれそうにない。ただ、大切なものだから、って。そんなの理不尽だわ。納得できない。
「セフィ、頼むから困らせないでくれるかな?」
「やだ。じゃあどうしてくれないの? それ、何なの? そんなに大事なものなの? あたしに知られちゃ困ることでもあるの!?」
 アービンの表情がまた曇った。深い海みたいな瞳が哀しみで暗くなるのがわかる。どうしてそんな風に傷ついた表情をするの……?
「ゴメン。これだけはどうしてもダメなんだ。わかってくれないかな〜」
「わからない。ちゃんと説明してくれなきゃわかんないっ!!」
 でもきっと、アービンは話してくれないんだろう。アービンの哀しそうな顔は見たくないけれど、ここまで来てしまった以上、意地でも引き下がることなんて出来なかった。
「もういい。アービンなんて知らない」
 あたしはそう言ってきびすを返した。アービンは大抵、ここまでくると「仕方ないな」なんて言ってくれる。だから今回もそう言ってくれるって思ってた。
 ……でも。アービンは図書室を出て行くあたしを、止めたりしなかった――


 自分の部屋に戻って、あたしはクッションや枕、ぬいぐるみたちを力任せに壁に投げつけた。そんなことしたって気が収まるわけじゃないけれど、そうせずにはいられなかった。
 あんまりイライラするものだから、ヌンチャクを手に取って訓練室に向かった。アルケオダイノス10匹くらいくらいやっつけないと気が収まりそうにない。
 訓練室で、数え切れないほどのモンスターを倒した。でも、イライラした気持ちはちっとも収まらない。
 どうしてアービンは「ダメ」って言ったんだろ……。
 あのしおり、本当にアービンが作ったものなのかな……?
 他の誰かにもらった、大切なものだったりするのかな?
 あたしに知られちゃ困る人なのかな?
 その人のこと……アービン、本当は好きだったりするのかな……?
 いつもなら、戦えば戦うほど頭がからっぽになっていくのに、今日は余計なことばかり考えてしまっていた。だから、最後のアルケオダイノスに一撃をくらってしまった。
 腕から血が流れるのを感じながら、あたしは一気にアルケオダイノスを倒した。そのまま、奥にある秘密の場所に向かう。そこには誰もいなかった。
 外はすっかり夕暮れになっていた。ガーデンを照らす浮揚リングの光がとても綺麗だ。
 腕が痛い。ずきずきする。心が……痛い。どうして、アービンは……。
「……っく、…………っ」
 目頭が熱くなり、喉に塊がこみ上げてきた。そのまま、堰を切るように涙が溢れ出す。
 あたしは夜になるまでずっと、そこで泣きじゃくっていた――



 まだ血が止まらなかったので、持っていたハンカチでぎゅっとしばって止血した。まさか怪我するだなんて考えてなかったので、魔法はおろかポーションさえ持ってきてはいなかった。
 イライラは、収まらない。胸がモヤモヤして気持ち悪い。
 今になってモンスターをしこたま倒しまくった疲れが出てきた。重い足を引きずるようにして部屋に戻り、ハイポーションで怪我を治した。
 胸のモヤモヤも、心の痛みも、ポーションで治っちゃえばいいのに。
 シャワーを浴びてからベッドに横になった途端、あたしはそのまま眠ってしまった――



 それからあたしは、アービンとは一言も口をきかなかった。アービンの方からは何度も話しかけてきたんだけれど、あたしがしおりの『し』の字でも言おうもんなら、いきなり黙りこくっちゃうの。それから「ゴメン」って寂しそうに微笑んでから離れて行く。
 離れていくアービンの大きな背中を見て、ぎゅっと胸が締めつけられるのを感じる。心が握りつぶされてるみたいだ。
 でも。あのしおりのことをアービンが話してくれない限りは許してあげない。あたしにくれることの出来ない理由があるのなら、ちゃんと話して欲しいのに。どうして隠すの……? あたしに知られちゃ困ることでもあるの?
 ねえ、アービン。どうして?
 どうして黙ってるの……?

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 やや、とっても素敵な暑中見舞いが届きましたよ^^



 ……え、もう残暑?いやいや、もらったときはしっかりめくるめく夏真っ盛りでした!

 というわけで。ハク様、おそくなって申し訳ないです^^;

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