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★Ryoが思わずつぶやいた言葉に、(えっ?)という表情をしてすぐに
フランはおかしそうに笑い出した。その時はイタリア語がわからなかった小夜香が
ボクの腕にしがみつき、「なんて?」と、1語で聞いてきた。
『強力なトランポリンで、あの十字架のてっぺんまで、ジャンプしてみたい…だって』
「なんで? なんでそれがおかしいのよ。フランさんは思い切り笑ったじゃない」
小夜香は女性特有のカンの鋭さで、ボクにつめよる。
Ryoには女らしくふるまうのに、ボクにはいつもこうだ。弟と思ってる?
ボクの方が4歳も年上なのに。
「こういうことだよ、小夜香。十字架のてっぺんまでジャンプしたら、
引力のせいで落ちるだろう? そのとき、十字架にしがみつくか、十字架の先が
ボクのお尻に刺さるか、フランはどっちを想像する?…って聞いたんだ。
フランのやつ、思いっきり笑ったんだ」
話を聞き終わったとたん、小夜香は吹きだして、フランに抱きついて笑い出した。
まじめな、おとなしい顔をして、Ryoはそんな笑い話をよくしていた。
フランと話す時はいつもイタリア語だから、当然まわりのイタリア人にも聞こえる。
はげあがったナポリなまりのおじさんなんか、すもうとりがシコを踏むようなかっこうで
両手を打って笑い、お尻を押さえて痛そうな顔までしてる。
Ryoのまわりには、いつも、こんな笑いが起きていた。
四人が、三人になって、Ryoを思い出しながら「ルネサンス街道」を
ドライブしたけれど、初めにボクたちは、約束したのだった。
「楽しいことだけ、思い出そうね…」と。
だから、よく笑った。
でも、思い切り笑った後、三人とも、ふ〜っとため息・・・。
しかたがないし、それでいい。
Ryoが、今もなお、それぞれの胸の中だけじゃなく、三人の会話の中で
楽しくよみがえってくれることを、喜ぼう。
恋人だったフランも、亡くなったRyoと一緒に、その死をいつまでも悲しむ必要は無い。
亡くなった人と一緒に、死んだように生きるなんて、良くないと思うから。 |

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