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蜃気楼


去年一年で、俺が手に入れた物は何かと問われれば、俺は経験と応えるだろう。


去年一年で、俺が失った物は何かと問われれば、俺は自信と応えるだろう。


ここ二年、俺は海外での修行積むプロジェクトに参加してきた。もちろん、見聞は広がっただろう。いろいろな経験や得難い思い出を手に入れたろう。

でも、プロジェクトはいいことばかりじゃなかった。いきなり海外へ、しかも畑違いの研究をしなければいけなくなった。

チャンスだったのは間違いない。

その能力が必要だと、俺自身望んでいたのだから。



しかし、俺はもしかして、失敗したのではないか。

チャンスをつかむことができなかったのはないか。


そんな想いがうかんできては消える。

打ち消すために必死で絵空事を考える。



そんな毎日。






「他のやつは知らん、俺は違う」




「余の者は知らず、俺は負けない」




俺を知ってる人間なら聞いたことあるかもしれない。

俺は、俺だけは特別だと思ってた。


他のやつにできなくても、俺ならできる。


・・・・・・それこそが俺を支える確信だった。




けど、海外に出て、ちがう環境に飛び出してみて、過酷だけどチャンスもある環境に放り出されてみて、ようやく分かったことがある。


俺は、特別なんかじゃなかった。

俺が何かを手に入れることは、何も約束されてはいなかった。


俺は、この与えられたプロジェクトのチャンスすらいかせない能なしで、そんな自分に気付かずにいた愚か者だ。




俺が持っていたのは自信じゃなくて、過信。

俺が持ってたのは、何の根拠も、裏付けもないただの思いこみ。



驕りに気がついた時、消え入りたいほどの恥ずかしさがこみ上げてくる。





知っているはずだ。気付いてるはずだ。俺の来た道に、退路などないことくらい。


・・・・・・もう、取り返しのつかないことが多すぎる。


俺は、失って、それでもなお、どこに向かえばいい。





陽炎のように揺らいでいる約束の場所、はるか遠くの街。


誰かが全部幻だと教えてくれたら、俺はどこへ行くだろう。




約束も、たどり着く先も、幻だったら、俺はどこに歩けばいい。

もう失われたものを信じて、それでも歩み続けるべきだろうか。

俺にはそうしなければいけない義務があるだろうか。




幻を追って、さまようのだろうか。いつか幻を手に出来ることを願って。


夢に向かって進んでいるときは、思えば気楽だ。
進むことしか、ありえないのだから。

実際に機会が手にはいるようになれば、そうも言っていられない。
なぜなら、機会によって自分がたどり着けるかどうかが分かってしまうからだ。



自分が見た、かつての約束が、幻なのかそうじゃないのか分かってしまうらだ。




ここでなくても、見えるからには、あの幻は実在するのだろうか。

あそこでなくても、きっとあるのだろうか。

見えてる地点と違っても、いつかたどり着けるのだろうか。




・・・・なぁ、誰か教えて欲しい。

少しだけでいい、たとえ幻であっても、ぬくもりに触れていたいんだ。




地図もない道を、コンパスも持たずに歩いてきた。

きっとそこにたどり着く先があると信じて。


山崎まさよしの歌では、蜃気楼が本物であるかどうかは問題にされていない。

俺は思う。きっと旅人は、たとえ誰かが全部幻だと教えてくれても、

それでも、どこへもいかない。


いつか、幻の元へと到達できることを信じて、現実の道を歩む。


幻であることをうすうす気づきながら、それでも近づくためになお、歩む。


幻は現実じゃない。夢は叶わない。望みは実現しない。

でも、それが旅人を駆り立てる。だから、それを持っていればこそ、行ける場所もある。

そう信じたい。

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龍魔
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