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死刑が執行される寸前に見事な縦笛演奏で遺族の心を打ち、死を免れた少年(イラン) 中東には、“ネイ”と呼ばれる楽器がある。日本の尺八によく似た縦笛である。イランにシーナ・ペイマンドという名の少年がいる。彼は音楽の才能に恵まれ、10代半ばにしてネイなどの管楽器の演奏を人に教えることを生業(なりわい)とするまでになった。 刑はすぐには執行されず、ペイマンド少年が18歳の誕生日を迎えてから2週間後に執行されることになった。そして、その日がやってきた。ペイマンド少年は絞首刑台に立たされ、首に輪縄をかけられた。遺族たちが固唾を飲んで見守っていた。 執行官が少年に聞いた。「あの世に行く前に最後の願いがあるなら、言ってみるがよい」 ペイマンド少年は、死ぬ前にネイを演奏したいと答えた。執行官は頷き、少年にネイが渡された。少年は、心をこめてネイを奏でた。 深い哀愁を帯びた音色と旋律。今まさに命を絶たれようとしている少年のその演奏は、その場にいた全員の琴線に触れた。被害者の遺族も、その例外ではなかった。 イランの法律では、被害者の遺族に対し、死刑執行の直前に懲罰願いを撤回するオプションが用意されている。しかし、アムネスティ・インターナショナルによると、これまでにそのオプションが行使されたことは“きわめて稀か、あるいはほとんど前例がない”という。 少年が殺めた男性の遺族は、心底憎きはずの少年の見事な演奏に心を打たれ、その“前例のない選択”を下した。遺族が懲罰願いを撤回したことにより、ペイマンド少年は死刑を免れた。減刑となったのか、それとも事実上の放免となったのかは、ソースでは明らかにされていない。 “芸は身を助く”という諺があるが、本件はまさしくその究極例。同時に、言葉や利害やあらゆる観念を超越し、どんな憎悪をも霧散させうる音楽の潜在力というものを改めて感じさせてくれる話である。 ペイマンド少年が罪を犯した事実が帳消しにされたわけではない。だが、彼は刑の執行を中止してもらうために、心をこめてネイを吹いたのではないだろう。自分が愛した楽器、自分が愛した音楽を最後にもう一度だけ心をこめて演奏したいと思ったに違いない。ある意味“けなげ”な姿であったはずだ。
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