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樋口一葉に驚嘆

 最近、樋口一葉に凝っている。

 読む前は、「たけくらべ」だけの一発屋なのかなとか、失礼なことを考えていたのだけれど、読んでみて、とてつもないプロだとわかった。

 読んだのは「たけくらべ」以下、「大つごもり」「十三夜」「うつせみ」「わかれみち」くらいでしかないのだけれど(「にごりえ」は買った数冊の文庫本に入っていなかったので、いずれ探して読もう)「たけくらべ」は中編といっていいくらいの長さだけれど、ほとんどは短編ばかり。

 しかし、何故か「短編」という感じがしない。

 短編小説と言うと、O・ヘンリーの「落ち葉」とか、芥川の「ハンカチ」とか、ちょっとしたエピソードに「万感を込める」みたいな作品が多いが、樋口一葉は短くても、人生そのものがずっしり籠っているという読後感。

 それでも「大つごもり」は、ちょっとそんな気の利いた小話風ではあるけれど、でも「落ち葉」や「ハンカチ」とは比べ物にならないくらい、スリリングでおもしろい。

 「たけくらべ」は、近所の遊び人の男性に「三年後が楽しみだ」と言われるような13歳の美登利が存分に青春を楽しむ話だけれど、でも結局は、お姉さんのように花魁になるか、どこかの金持ちの囲われものになるか、というはかない今後を予感させる終わり方で終わる。

 なんでそう思うのかと言うと、他のはみんな「わかれ」を明確に予感させて終わっているからだ。 一番驚いたのは「わかれみち」。

 「お京さんいますかと窓の戸の外に来て、ことことと羽目をたたく音のするに、誰だえ、もう寝てしまったから明日来ておくれと嘘を言えば、寝たっていいやね、起きて明けておくんなさい、傘屋の吉だよ、己だよと少し高く言えば、いやな子だねこんな遅くに何を言いにきたか、またお餅のおねだりか、と笑って、今あけるよしばらく辛抱おしと言いながら、仕立てかけの縫い物に針どめして立つは年頃二十歳あまりの意気な女」という出だし。

 傘屋の小僧の吉三は、年は16だけれど、11、2くらいにしか見えない「肩幅狭く、顔小さく、目鼻立ちはきりりと利口らしけれど、いかにも背の低ければ人あざけりて一寸法師とあだ名される」男の子で、道端に捨てられていたのを傘屋のおばあさんが拾って育てたという境遇。

 人の縫い物をして暮らしているお京もまた吉と似たような境遇で、近所の金持ちのじじいが妾にしようと執心しているという噂を聞いた吉が、様子を探りに訪ねてきたのだった。

 もちろん、お京は噂を否定するが、結局は心を決め、「妾に行くのをやめにしてくださるか」という吉を後ろから羽交い締めにして(何しろちびだから)「私はどうしても決心しているのだから」と言うと、吉は、涙目で「お京さん、後生だからこの肩の手を放しておくんなさい」。

 で、終わってしまう。

 最初は、これで終わりとは信じられず、ページを繰ったり、他の本で確かめたりしたのだが、一葉の小説はみんなこんな感じなのだ。

 誰だったか、「どうしても書きたいと思ったことをばっさり削って終われ」というアドバイスをしている小説家がいたけれど、一葉はこれを見事に実行しているのだ。

 ところで「十三夜」は、お関という女が金持ちの家に嫁に行ったが、夫の不人情に愛想を尽かし、家に戻るが、父親に泣く泣く説得され、家に戻るために人力車に乗ると、そのチビの車夫がかつての幼馴染みの録さんで、「あんたが嫁に行ってからすっかり落魄し、かつてはタバコ屋の息子だったが、それもつぶれ、今は安宿の二階に寝転がって、気の向いたときに車を引いている」という。

 つまりは「わかれみち」の後日談のようなものだが、この再会で運命が変わるわけでもなく、お関は元のいやみな旦那の元に、車夫の録さんも空車を引いて宿に戻るという終わり方。

  日本リアリズムの傑作と言われる徳田秋声の「あらくれ」を読んだときは、最初の出だしはむちゃくちゃかっこいいと思ったが、3ページも読まずに退屈になって放り出してしまったが、樋口一葉の場合は、現実がこうだからこう書いたというリアリズムとは全然ちがう、魯迅の「野草」をも思わせる力強さはなんなのだろう。

 いや、魯迅は続けて読んだので例に出したようなものだけれど、読むに値しない作品は、多分一つもない抜群の才能(ただ文章がうまいだけでなく、「お話」をつくれるというところがすごい)がたった25で死んでしまうとは、宇野千代みたいに100近くまで生きたらどんなすごいことになっていたかと――と一葉風に終えてみた。

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