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イギリスに、5歳くらいの少年少女を7年ごとに50年間、記録し続けたテレビ番組があるそうで、その少年少女たちが青春を迎え、就職し、結婚し、子供を持ち、そして孫ができ、という一つの「人生の姿」にまとめた番組が2012年に放送されたそうで、それをEテレで放送していた。
前後二回構成で、来週後編なのだそうだが、前編だけでも十分におもしろかった。
「おもしろい」というと語弊があるが、「重い」というか。
外見上は「順調」に見える、孫が数人いるおばあさんも、実情は決して順調ではない。
それは何より、本人がそう認めている。
「孫」の人生はまさにこれからなのだから、孫の人生は除外しても、息子、娘たちはすでにして「順調」ではなく、いばらの人生を歩んでいることを、子供たち自身が一人一人、告白する。
本人の人生の「中」に入って見れば、外から見たものとはまるでちがうわけだ。
私が番組を見始めたときは、60近いみすぼらしい老人が自分の失敗した人生を語っていた。
恋愛もしたけれど、ことごとく女性の方から去っていった云々。
それに幼い男の子が将来の希望を語っている場面が挿入され、次に、かなり悲観的になっている少年、そして「結婚をしても幸せになるとは思えない」と語る青年……。
「あれ? これはどんな番組なんだろう? 何を言いたいのだろう?」と思っていたら、それは7年ごとのインタビューの映像だった……そういう番組だった。
そしてその後に出てきた女の子が、おばあさんになって、孫も数人いて、という女性で、前の男性に比べるとずいぶん順調に見えるが、「実は…」という流れになるのだった。
要するに、人の人生において、完全に幸福だと言える人は「いない」という番組なのだが、これはまさに真の小説、あるいは真の芸術の根拠となるものであって……と、何を言いたいかというと、要するに樋口一葉の小説の読後感が、この番組の感想に近似していると思ったのだ。
例えば「わかれみち」の「傘屋の吉」は、自分は捨て子で、親の顔も知らないし、出世の道は閉ざされていると、お京に愚痴り、お京は「捨て鉢にならずに、頑張って出世しておくれ」と言いながら、近所のじじいの妾になり、ショックを受けた「傘屋の吉」はまったく捨て鉢になって「十三夜」では、ぐうたらな車夫になる。
「たけくらべ」の美登利はそんな人生の暗黒をまだ知らない、イギリスの番組で言えば将来の姿を知らずに溌剌と輝いていた幼年時代の少年少女みたいなもので、美登利がもし仮に売れっ子の花魁になったとしても、人気女優になったとしても、今ならAKBの一員になったとしても、その人気の影には、必ず暗い、重いものを抱えていないわけはないのだということ、要するに「十三夜」の「ぐうたらな車夫」の人生も、華やかに見える成功者の人生も、いずれも同等の人生なのだという、「人生の真実」を想像させるのだ。
このイギリスの番組は、思うに、産業革命を経た、ケインズが経済学の前提として、学生に当時の労働者の悲惨な実情をつぶさに見させたという、イギリスならではの伝統を思わせる番組だったが、その制作者だったらきっと、没落士族の娘、樋口一葉の世界も理解できるのではないかと思ったのだった。
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