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「・・・何なのいったい。」
ノヴァはもう一度つぶやいた。嫌な胸騒ぎがする。
「あいつは結界を広げとけって言ってたけど・・・私ので大丈夫なのかしら?」
もう一度空を見上げてみたが、”ミスター”の弾道から逃げるように散っていった雲は晴れ、青く広がった空は彼女の問いに答えようとしなかった。
彼女は苛立ったように口を一文字に結ぶと”上乗せ”にとりかかった。
「あ〜、ちょっと待って、広げるだけじゃなくて硬くしようとしてるみたいですが?」
背後からの呼びかけに、ノヴァは振り向いて身構えた。
「誰?!」
彼女から少し離れた位置に鎮座していたはずの鳥居が無い。その場所には2人の男が立っていた。
左側の痩せた長髪の男はうつむき加減でノヴァを見据えている。修行僧が着るような、くすんだ赤色の着物を肩から掛け、裸足だった。もう一人、右側に腕を組んで仁王立ちしているのは、髪を剃り上げ、立派な髭をたくわえた恰幅のいい男だった。こちらも裸足で、その出で立ちは長髪の男を修行僧とするなら、『僧兵』と言ったほうがいいだろうか。亀の甲羅のような肩当てから伸びた鎖は腰の辺りへと続いて巻きついていた。筋肉という鎧に身を包んだ屈強そうな巨漢は表情ひとつ変えず、ノヴァを睨み付けていた。
消えた2つの鳥居と2人の見知らぬ男。数だけは一致するものの道理が合わない。ノヴァは信じられないといった表情で2人を見つめていたが、慌てて腰に手をやった。しかしそこにいつも携行しているはずの銃はなかった。胸ポケットに手を当ててもその中に携帯が無い。そして『センリガン』発動時はそのどちらも携行を禁止されていることを今さらのように思い出した。
「・・・・・・・・・・・・くっ」
「あ〜、そうそう『その時』 は何もできないようにされますからねぇ。」
男はノヴァの立つ方へと手をゆっくりと差し上げた。
「フリーズ!!動かないで!」ノヴァは2人向かって両手をかざした。それで何かを止められるなどとは思っていなかったが、精一杯の静止行動だった。
「あ〜、やっぱ驚きますよねぇ。私はともかく、こんなゴツいのが睨み効かせてると。」
男は上げかけた手で隣の”ゴツいの”を示した。が、そいつは微動だにしなかった。
「あいかわらずつれない人ですねぇ。挨拶ぐらいしたらいいのに。あ〜、自己紹介まだでしたね。私は豪雲(ごううん)。そしてこいつが豪海(ごうかい)と申します。」
「ここで何をしている?」
ノヴァはかざした両手を胸の前で握るとゆっくりとその拳を広げ、腰を落として身構えた。それに呼応するように、豪海と呼ばれた男が腕を解いて、深く息を吸い込むと吐き出しながらノヴァと同様に右足を引いて斜に構えた。
「あ〜、何ですかこの状況?私はそんな、いかにもなファイティングポーズする気、というかあなたをどうこうしようって気はないですから。戦う相手を間違えちゃいけない。」
「戦う相手・・・ですって?」
豪雲と名乗る男の物腰の柔らかさに、ノヴァの緊張も若干緩みつつあった。
「そう、さしあたっては『上』から落ちてくるのを迎撃しないといけませんから。」
豪雲が空を指差した。つられるようにノヴァが見上げると一瞬、上空に黒い亀裂のようなものが走ったかと思うとすぐに消えてしまった。慌てて視線を2人に戻したノヴァが豪雲に尋ねる。
「『上』で、何が起きてるの?」
「そうですね、あなたが投げた剛速球を相手打者がピッチャー返しってところですかね。」
「ふざけないで!」
「別にふざけてはいませんよ。豪海、今の例えが最適じゃないですかね?」が、またも豪海は無反応だった。
「あ〜残念ながら説明してる時間がなくなっちゃいましたね。無駄話が過ぎました。」
「どういうこと?あなたたちは一体・・・」
「いきなりですいませんが、ノヴァ・ノエル・ダントンさん。もう一発撃てますか?『千里銃』。」
フルネームと外部には極秘扱いの『能力』を突きつけられて、ノヴァはもはや観念した。”もう問うのはやめよう”と。
少なくとも豪雲はノヴァよりも現状を、そして対応策を把握しているようだ。
「もう一発と言ったわね。あいにく唯一の『弾』は上に行ったきりなのよね。」
「理解の早い方で助かりました。弾のほうは彼にやってもらいますから。」というと豪雲は豪海を見やった。
「彼?相変わらず臨戦態勢だけど?」
「・・・もういいのか?」
重く低い声が響く、豪海がはじめて口を開いた。
「ええ、結構です。」豪雲が静かにつぶやく。
「異国の軍兵にしては柔軟なお嬢様だ。武器も通信手段も断たれたらパニックになっておかしくないものだが。なかなか肝が据わっている。気に入った。豪海だ。あらためてよろしくたのむ。」
豪海は構えを解くと、わずかに頭を垂れた。
「・・え・・・えぇ、よろしく。なんだか拍子抜けだけど。」
「さて、話もついたころですし、手の届くところまで行きますよ。」
豪雲が揺らめくような足取りでノヴァの前へとやってきた。
「何が起きても驚かないように。」
うっすらと笑みを浮かべていた豪雲の表情が変わった。ノヴァの肩に右手をかける。
「何を今さら。さっき決めちゃったの。」
「何をです?」
「わからないことは考えない。ってね。」
「いい決断です。『答え』なんてものは、気がつけば手に入ってるものですよ。」
「あなたも好きなの?『アドバルーン』」
「あぁ、あなたがいつもここで歌ってたのはそんなタイトルでしたか。」
「やだ・・・ずっと聞いてたの?」
ノヴァは急に恥ずかしくなって目をそらした。豪雲は気にも留めずに右手に力をこめた。
「では、『最適化』に移ります。」
ノヴァはゆっくりと深呼吸すると、覚悟を決めたように目を閉じた。
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