小林泰三『方丈記的ブログ』

デジタル復元で、美術はもっとたのしく身近になる

全体表示

[ リスト | 詳細 ]

記事検索
検索

全59ページ

[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9] [10] [11]

[ 次のページ ]

構造を超える主張

イメージ 1

「奇想の系譜」展を見てきました。
大人気の伊藤若冲をはじめ、岩佐又兵衛、白隠、曾我蕭白、長澤蘆雪など、メインストリームではないけど、素晴らしい彩りを放つ貴重な才能の数々、日本美術が好きな人にはたまらないラインナップです。
やはりこの流れを「奇想」としてまとめ、いっせいに光を当てた辻先生の眼、恐るべしです。

以下は、モニターテストまで開催した「賞道のこころ」(上級編)でお話してきたことの延長上で思うところがあり、突然「構造」という言葉など使ってしまいますが、自分のメモでもありますので、どうぞおゆるし下さい。

私として一番面白かったのは、構造の中でこれらの絵画を見た場合(展示されているので、頭で想像するわけですが)、従来通り空間の中で活かされる形はとりつつも、独立した絵画としての主張も強く、ひとつの調度品と言うよりか、もっと主役に近くなって、空間全体を司っている印象を受けました。

そう思ったきっかけは、大きな軸の曽我蕭白の獅子図です。もともとは壁に貼ってあったようです。
イメージ 2


それぞれの作品は、やはり元にある環境で鑑賞するべきです。この作品も壁に貼って、空間で見る方が絶対面白い。
でもあまりにも個性が強いので、独立した絵画として、現代的な鑑賞にも耐えうる、いやむしろ、現代人はそのような鑑賞の方がしっくりきます。

通常お勧めする賞道の鑑賞とは違うのですが、そのような鑑賞法でも楽しい。人気なのも頷けます。

ただ、こちらからはたらきかける大切なプロセスを省略してしまい勝ちなので、日本美術らしさという点では、やっぱり私にはちょっと物足りない。というか西洋絵画のように見ている自分に気づき、「おっと、いかん、いかん」という感じになっておりました。

開く コメント(0)

屏風の真価

屏風を調べて復元して、当時と同じように鑑賞する実験を繰り返しておりますが、それでも、昔の人々の視線にちょっとだけ近づいたに過ぎません。
どんなに気をつけていても、どこか現代人の視線、感覚にとらわれて、簡単なことを見落としていたり、違和感はあるのに深く疑わなかったりして……。


今回もまたもや当たり前のことに気づかされました。

”屏風は、ジグザグではない”

ということです。


これは、いつも賞道に参加して下さる芸術家、白井忠俊さんが、教えて下さったというか、作品で表現して下さいました。
イメージ 1

白井さんの大切な題材のひとつ大蛇を、屏風に表現するという作品で、ジグザグに自立させるのではなく、弧を描くようにして(表面を反らせるようにして)自立させています。
それを三隻合わせて、上から見ると円になるようにして、大蛇のとぐろを大きく構成しています。
イメージ 2

なるほど。
これは面白い。

屏風は「紙蝶番(かみちょうつがい)」でパネルをつなぎ、正式には前にも後ろにも曲がるようになっています。
そんな情報を「賞道」で伝えていた私が、その機能について深く考えていないところを、白井さんは敏感に感じ取り、作品までに昇華させています。


これを見て、気がつくことがありました。
私には不思議に思っていたことがあるのです。いつも「屏風はジグザグを前提に描いている」と言っているのですが(もちろんそれは基本間違っていないと思います)、それでは説明ができない作品があるのです。

イメージ 3
(泉屋博古館公式サイトより)

例えば、「行幸図屏風」。
横に真っ直ぐ伸びた、大行列。これもジグザグにして、細々と行列が近づいたり遠のいたりするのは、却って不自然です。(そういう楽しみ方もあるでしょうが……。)ここは列を真っ直ぐにして、俯瞰したい。

イメージ 4
(サントリー美術館公式サイトより)

例えば、「武蔵野図屏風」。
一面に広がる野原を表現するのに、ジグザグである必要はありません。むしろ、ジグザグにすることで、だだっ広い印象が、薄れてしまいます。(でも、ジグザグにする面白さはあると思います)
それに、右隻、左隻ともに左から三扇目に月、富士山が配置され、横に並べた時にはシンメトリーにならないという意味ではバランスがよくありません。
ところが、これを画面を内側に弧を描くように置き、上から見て円になるように配置すると、富士山と月はちょうど対面する形になるのです。

イメージ 5


色んな矛盾を解決する紙蝶番の「滑らか機能」。
これから、屏風を鑑賞するときは、この機能を多用しそうです。

開く コメント(1)

意外な方から、突然メールをいただきました。
ロッククライミングを30年に亘ってなさっている方から、「日月山水図屏風」のデジタル復元画像を、本の表紙に使いたい、とのご依頼です。

という、ブログからかなり経って、その本を頂戴しました。
今19年4月21日、ブログの内容を再編集しております。
イメージ 1


ロッククライミングが誰の耳にも入るようになって10年くらいでしょうか。
とにかく30年にも亘ってその活動をされているということに感動し、ご協力させていただくことに致しました。

表紙をめくった見開きに、右隻が掲載されています。
イメージ 2

そして、裏表紙の前の見開きに、左隻がありました。
イメージ 3


【以下は、以前の記事です】
さらに登る岩を自分で捜す、というのにも惹かれます。
本は、登るのに適した岩がどこにあるのかなどをご紹介するガイド本に使われるそうです。

岩を登ることまでには考えが及びませんでしたが、日本には「磐座」という文化もあることから、巨大な岩には興味がありますし、実際に対峙すると感動します。
登るほどの大きな岩を紹介している本、私には別の意味でも使えるかもしれません。

出来上がりが楽しみです。
完成しましたら、この日記更新致します。

【以下は追加した記事です】
ちょっと拝見して驚いたのは、復元したシルバー&グリーンは、いつも山に分け入って岩と格闘している人にとって、納得のいく配色である、本に書かれていたこと。
つまり、本当に岩はキラキラ輝くシルバーだし、それを取り囲む緑は、深くて濃いのです。

形がデフォルメしているので (でもある意味、自然に挑む人にとっては心象的にリアルだと思います)、色もデフォルメしているのかも、と思っていましたが、このことを教えて下さったのは、私にも収穫でした。

それと、この不思議な絵を描いた人は、白洲正子が指摘したようにやはり金剛寺の修行僧で、ロッククライミングをしている方のように、自然にしっかりと対峙して体ごとぶつかって対話していたにちがいありません。
それをロッククライマーが肌で感じている、やはり、これはとんでもない傑作です。

開く コメント(0)

粟田さんは、怒っていた。
もちろん話を聞く人たちを前に、語気を荒げることはないが、感情がにじんでいた。

粟田純徳さんは、伝統的な石積み「野面積み」の職人集団「穴太衆(あのうしゅう)」の石頭。大工で言う棟梁である。
静岡県で活動している静岡体育文化協会が主催する社会人大学で、私はその夜の部に参加した。

穴太衆の築いた石垣は、織田信長が比叡山を焼き討ちにした時にも崩れず、その強固さに驚いた信長によって穴太衆はその後召し抱えられ、飛躍的に拡大し現在に至っている。しかし土木建築の近代化の波にのまれて衰退し、「野面積み」の技術を伝承している穴太衆の末裔は、粟田さんはだけになってしまった。

その積み方はシンプルだ。ごく簡単に言ってしまうと、現地に入り、現地の石を砕いて、勾配に注意しながら積む。それだけなのだ。
しかしだからこそ難しい。その土地の形でやり方は変わるし、割った石の状態でやり方が変わる。どれとして同じ物件はない。これは経験を積むしかない世界なので、書き残しようもない。
なのでその技術は口伝が中心で、指南書もなくはないが事細かなマニュアルには程遠く、「石の声を聞き、石の心を知り、石の居心地のいいように積むのが肝要である」となっている。
石の居心地とは、自然とそこにあるかのように置くと言うことだろう。石の個性を優先して、もっともバランスの良い位置を探る。力学上、矛盾がない。だから強固なのだ。
イメージ 1

石垣の発展は、規格化の歴史でもある。
「野面積み」が進むと、石を整形してから積む「打ち込みハギ」、さらに小さくして整形し、みっちりと隙間なく積む「切り込みハギ」と展開していく。
ひとつひとつの石はだんだんと似たような形、大きさになっていく。つまりは、作業は単純化されるので、効率がいい。しかも小さければ運搬も容易だ。昭和になるとついにどれも同じ真四角の石へと規格化された。
イメージ 2
(会場近くの駿府城跡の櫓。下の石垣は「打ち込みハギ」)

ここで興味深いのは、見栄えと時間効率は向上したにもかかわらず、反対に強度は劣化していったということだ。
積む作業も効率が優先され「ひとつひとつの石の声を聞く」と作業からは遠のいていくことになる。個性豊かな石たちを居心地のいい具合に置くことなく、似たような顔をした石をみっちりと積んでいく。
実はこのみっちりが、石と石の間に「遊び(隙間)」をなくし、地震があったときにかかる強烈な力を逃がしたり分散させたりすることができなくなり、却って脆くなるのだ。
特に同じ大きさのブロックを積み上げた昭和の石垣は、素人で積めるので特に脆くなる。
二年前、大地震で石垣が崩れた熊本城、実は崩れたのは近年、日本の軍隊が積んだもので、野面積みの石垣は、残っているという。
イメージ 3
(駿府城跡公園の入り口。石垣は昭和のもの。プラスチックの排水口が顔を出して、見た目も悪い)

粟田さんの声は淡々としている。しかし、訴えるメッセージが胸に突き刺さる。
彼は、室町時代からのいやそれより前の石工職人たちの歴史をそして心を一身に背負って戦っているのだ。

「高速道路を作るのに、大量に石が出てきたので、どうにか出来ないかと、相談を受けました。なので野面積みの石垣をしようとしたところ、役所から『強度に問題はないのか』と言われ、ならばと、実験してみせたのです」
そこでスクリーンに映された写真は、左半分がコンクリートで打ち固められた壁、右半分が野面積みの石垣である。実験現場のスナップ写真だ。これを上から圧力をかけたところ、コンクリートは200トンでひび割れし、250トンで危険な状態になった。石垣はというと、400トンで石が動き始めたが、機械の測定限界500トンまで耐えた。つまり、倍以上耐える性能だと証明されたのだ。
「でも結局私らがやった部分はほんの一部で、ほとんどが大手ゼネコンです。強度を証明しても今まで通り大手ゼネコンを優先するのです。」
「(コンクリートよりも耐久性があるのに)野面積みは法律上1.5メートル以上の壁を建ててはいけない。そんな法律よりも前からずっと立ち続けているのに。」

もちろん、高速道路ともなると整備する範囲が大きすぎて、効率よく大規模にやらなければならない。大手ゼネコンの手法が採用されるのも仕方ない面もある。
しかし、講演後の打ち上げで、ぽつりとこぼした粟田さんのこんな発言を聞いたら、どう思うだろうか。
「私はもう息子たちに跡を継いでくれと言いません。こんな苦労を負わせられません。」
あんなに厳しい言葉を重ねて、気丈に歴史を背負っていた石頭が、つい弱音を吐いた。本当に疲れてしまっているのだ。

なんで私たちは、ここまで粟田さんを追い込んでしまったのだろう。彼は強固で安全なものを提供し続けているだけなのだ。
昔のいいものに対する尊敬の念は、どこへいってしまったのか。昔の絵師たちの言葉を聞き、絵の元の姿を復元する私は、同情どころでないもっと激しい熱い気持ちがこみ上げてきた。
昔に学ぶことなく、今の科学や情報を疑いもなく信じる現代日本に警鐘を鳴らす人にまで、無知と無視の暴力が及んでいる。これだけはどうにかやめさせなければ。
そのために、私はいろんな意味でもっともっと強くなりたい。

開く コメント(0)

ずっと屏風の話ですみません。
ちょっと発見したのでお話したいのです。
それが例え室内を見せることになろうとも・・・(;^_^A

今、メンテナンスのために大きな屏風をダイニングに立てています。
けっこうな迫力です。
イメージ 1

ちょうど図のような感じで置いています。
玄関から入ると屏風が目に入り、右手奥の畳敷きの部屋へ視線が行くようになっています。
イメージ 2

実は屏風の後ろにキッチンがあります。
屏風がなかったときは、ドアを開けると、どどっとキッチンの生活感が目に飛び込んでくる感じでした。
それがどうも気になっていたので、屏風を置いたときに隠れてラッキーと思ったのでした。

玄関を上がって奥に進むと、こんな感じです。うしろに換気扇のフードが見えます。
イメージ 3

これではキッチンが使えないではないか、と思われるかもしれませんが、今回気が付いたのが屏風のすぐれた機能。
屏風の右端を開くと、ちょうどドアのように開いて、すんなりとキッチンへと入れるのです。
イメージ 4
図にすると、こんな風になります。
イメージ 5

つまり、単なる間仕切りとしか思っていなかった屏風には、その空間を二つに区切る機能だけでなく、その二つの空間をつなぐドアの機能もついていた、ことが分かったのです。
そのドアは、左の部屋へのドアも兼ねています。
イメージ 6
再び閉めるとこうなります。
この目線の隠れ方も、実は奥の部屋から見るといい具合です。
イメージ 7

私はこのド派手な感じが好きなので、気に入ってそのまま飾っていますが、もし屏風がもっとシンプルなデザインであれば、現代のマンションで、現代の人々がこのくらい大きな屏風を飾っても、充分機能を果たすんだなぁ、と改めてその機能の素晴らしさに感じ入ったのでした。
もし、必要なければ畳んで、端に寄せられます。厚さは10cmくらいです。

いつもは鑑賞の対象としてべたべた触って面白い目線を探っていますが、その前に道具としてべたべた触ることも大切なのが、やってみて初めて分かりました。でも、これって考えてみれば当たり前のことです。
これこそが、日本美術と言われてしまっている作品たちの本当の姿なのです。

開く コメント(2)

全59ページ

[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8] [9] [10] [11]

[ 次のページ ]


.


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事