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※今回はクリスマス特大号でお贈りします(^^;
【第二十七話・奈落の底】
”鬼童衆”の謎を探る”柳生千種”一行は乗り込んだ彼らの里で、
一族を実質的に束ねる男”氷室蘭堂”に引き合わされたが、
話しも進まぬ内に床が割れ、奈落の底へと落とされたのだった。 「うぅ・・・・・」 一行が気付くとそこは薄暗い部屋の中だった、
どうやら得物も武装解除されて丸腰でもある。
「地下牢でしょうか?」
鉄格子越しに差し込んだ回廊に灯る松明の明かりを頼りに、
壁を探っていた”新八郎”がつぶやいた。
「岩盤をくり貫いてあるのう、こりゃわしの張り手でも破れんわい。」
お手上げといった表情で”轟天竜”が肩をすくめた。
「打つ手無しか、ところであの”氷室”って野郎
何か訳のわからねぇ言い回ししてやがったな?」
「この国の政(まつりごと)に深く関わって来た連中だ、
我らが深入りするのは禁忌と言いたいのだろうな?」
「何だか気に入らねぇな、自分達が裏の将軍家とでも言いたげだぜ。」
仏頂面の”春秋”と冷静な”千種”が喋っていた時であった、
”新八郎”がそっと口に指を当てると二人を制した。
”千種”たちが鉄格子を見やると二つの人影が佇んでいる、
それは人間体の姿の怪忍獣”百獣王仁丸”と”鳳凰丸”であった。
「出ろ。」 扉の鍵を開けた”王仁丸”が”千種”たちに命じた。
「我らをどうする積りだ? 処刑するのか?」
”千種”が低く問い掛けると”鳳凰丸”の口から思ってもいない言葉が飛び出した。
「この先を折れずに真っすぐ行くと外に出る、
貴様らの得物は出口に置いてある、黙ってここを出て行け。」
今まで戦った相手からの意外な行為に訝る(いぶかる)一堂だったが・・・
「貴様たちが花畑で命を救ったのは我ら兄弟の子供たちだった、
借りは一旦返す、しかし次に遭う時は容赦しない。」
”王仁丸”が憮然とした表情で言い放つと、
「フンっ、相変わらずの余裕だな? 減らず口叩いてると後悔するぜ。」
不敵に笑った”春秋”が負けじと言い返すと一堂は出口に向かって歩き出した。
「幾分上って来ていますな?」
かなり広いと思われる地下回廊をひた歩き、幾つかの横道を通り過ぎた頃
”新八郎”がそうつぶやくと、やがて前方に光が見えてきた。
「お、やっと出口か、 ちょっと待った手前に何やら部屋があるぞい?」
”轟天竜”が指差したのは、天窓から明るい日が差す座敷牢とも呼べる部屋であり、
中には誰かが囚われの状態になっている様であった。
「誰じゃ?、取りあえずの用は無いぞ。」
中から答えたのは初老ながら威厳の有る人物である。
「あぁ、貴方は!? 何故貴方がこんな場所に居られるのです。」
格子戸越しの顔を見て”千種”は驚いた、
その人物はかつて”柳生俊益”と共に江戸城に登城した折りに見掛けた
大老”井伊直弼”にそっくりだったからである。
「その方は確か柳生の? お主こそ何ゆえここに・・・・・」
”千種”がこれまでの経由を説明すると”井伊大老”が少し間を置いてから口を開いた。
「”鬼童衆”と井伊家の関係を話す事はこの国の根幹に関わる、
あまり話したくないのだが、あくまでも私の独り言として聞いてくれまいか。」
”井伊大老”が語ったのは・・・・・
遥か大昔、遠く東の海に在った”無有大陸”が海に沈んだ後、
かつて井伊家が治めていた遠江の井伊谷(いいのや)の近隣、
そこに”無有”の生き残りが暮らしていて少なからず親交があった事。
”井伊直政”が彦根に城を構える以前に、
”神宮寺鬼童”を筆頭とした一部の”無有人”たちが里を抜け、
その後、彼らが”鬼童衆”と名乗り近江の深山に里を築いた事。
”井伊大老”の話を聞いていた一堂だったが、
”千種”がある事に気付いた様に目を見開いて問い詰めた。
「”井伊様”! 貴方がここに居ると言う事は江戸に居る大老は一体?」
「うむ、お主の想像通りじゃろう、
ここに幽閉されているのはわしと”鬼童衆”との因縁、
わしはここで余生を終えるだろうがこれ以上の詮索は許して欲しい、
わしに語れるのはここまでじゃ、このまま立ち去るがよい。」
”井伊大老”はそれだけ語ると座敷牢の奥へと行き、
背中を向けて座り込み二度と振り向かなかった。
「お嬢、ここは取りあえず外に出ましょう。」
まだまだ聞き足りない思いだったが、
袖を引く”新八郎”に促され”千種”は渋々ながら引き下がった。
やがて一行が行き止まりに突き当たると、
「どこかにからくりが有る筈です。」
そう言うや”新八郎”があちこち探ると、
たちまち目の前の岩壁が横に滑ってぽっかりと出口が開いた。
彼らの目の前に開けたのは夕暮れに霞む水平線であった。
「何だ、海まで出たのか?」
そのまま歩く一行が岩壁を伝って行くと一軒の寺院の境内にたどり着いた。
それを見た”新八郎”が叫んだ。 「ここは・・・・・竹生島!?」
一行がたどり着いたのは琵琶湖の湖北に浮かぶ
”竹生島”に建つ厳金山・宝厳寺だったのである。
柳生の庄に戻った”千種”は”柳生俊益”に報告すると、
江戸に向かって急ぎ旅立って行った。
その後、”新八郎”を頭とした裏柳生の手の物たちが竹生島や近江の深山に立ち入ったが、
既に手が打たれたのか入り口は消え失せて二度と近づくのは適わなかったのであった。
とある古寺に向かっていた。
酒徳利を肩にぶら下げた”主税”が酔っ払いの様にそぞろ歩いて行くと、
やがて件の古寺が見えてくる、
その古寺こそ岡っ引きの”新三”から報告のあった
軍学者”楠 正雪”が主催する”安政塾”の移設先なのである。
「あそこが”安政塾”かい、随分と辺鄙(へんぴ)な場所に引っ越しやがったな?」
すると突然 「おい、遊び人風情がこんな場所に何の用だ。」
”主税”が振り返るとそこには”安政塾”の師範”金山半兵衛”が懐手で立っている。
「いえね、巷で噂の”安政塾”さんに雇って貰おうかなと来た次第で。」
(流石は一芸の達人だ、気配すら感じなかったぜ・・・)
”主税”が心の中で舌打ちをするとワザと惚けて答えた。
「ほぅ、お前遊び人のなりをしているが別の意味で腕がたちそうだな?」
そう言うやいなや”金山”が電光石火の如く間合いを詰め腰の大刀の抜き打ちを放った。
「おっと、瓶が割れるじゃねぇか勿体ねえ!」
徳利を守る様に間一髪で避けた”主税”がおどける。
その時、ブ〜ンとうなりを上げて空を駆ける黒雲が近づき、
それが地面に人型を作ると浮き上がる様に黒装束の男が現れた。
「金山殿、そいつは中町奉行所の町方に間違い無い、
ここは私の子供達に任せてくれるかな?骨も残さず片付けてやるよ。」
「おぉ、蟲助か後は頼むぞ。」 大刀を収めた”金山”が踵を返すと、
古寺に向かって去っていく。
「折角、天下の剛剣と死合えたってぇのにとんだ横槍が入ったもんだ、
手前ぇだな、塾生清水の死体を蟲に食らわせた野郎は?
まぁいいや 俺らが相手になってやるぜ!」
蟲助が両手を天にかざすと、唸りを上げて再び湧き上がった黒雲が
大きな渦を巻いて”主税”に襲い掛かっていった。 【第二十八話に続く】
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水主町主税〔かこまち ちから〕(第六代・江戸中町奉行)
柳生千種〔やぎゅう ちぐさ〕 (尾張柳生の剣士で男装の麗人)
夏冬春秋〔かとう はるあき〕(柳生別働隊・通称”紅蓮隊”の剣士)
轟天竜〔ごうてんりゅう〕 (春秋と同じく元力士の”紅蓮隊士”)
六反新八郎〔ろくたん しんぱちろう〕(柳生家家臣”裏柳生”(諜報方))
千音寺の新三〔せんのんじのしんざ〕(主税と旧知の岡っ引き)
百獣王仁丸〔ももんじわにまる〕 (”鬼童衆”の怪忍獣のひとり)
百獣鳳凰丸 〔ももんじ たかまる〕 (”鬼童衆”の怪忍獣のひとり)
甚目寺蟲助〔じもくじ ちゅうすけ〕(”鬼童衆”の怪忍・蟲使い)
氷室蘭堂〔ひむろらんどう〕(”鬼童衆”を束ねる男)
柳生俊益(やぎゅうとします)(京の守護職・柳生家十三代目当主)
この物語はフィクションです、実在の人物とは関係有りません。
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影奉行シリーズ
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〔第陸話〕
柳生別働隊・通称”紅蓮隊”の隊長”名無し”の召集に応じて、
集まったのは”紅蓮七傑”(ぐれんしちけつ)と呼ばれる隊士達であった。
元々は京の守護職”柳生俊益”が、
京の街で己が強さを持て余し、やくざな生活を送る者、
裏街道を歩む者の中から見出し集めてきた連中である。
己の腕試しで殴りこんで来た”加藤玄明”(夏冬春秋)や、
”轟天竜”などを含めた隊士も幾人かは居る中、
この七人は特に抜きん出た存在で、その実力に甲乙付け難く、
剣の腕はもちろん飛び道具や暗器(暗殺道具)など、
異能の才に長けた者達だった。
しかし、いずれも京の都に吹き溜まり、京に生き、
京の治安を憂える気概は持ち合わせている。
それゆえ”俊益”の都を護る言葉に呼応したのであろう。
”紅蓮隊”は”名無し”が現れる以前、
柳生家の腹心で剣豪で知られる仲居堂家や、
刀鍛冶の千手院家から徴用し、
実力第一主義で彼らを統率した組織であった。
今夜の賄いは詰所の厨房係”幌延”が作った鱧を使った献立である。
「鰻も良いがやはりこいつが京の夏の味だわい。」
元・根来衆でいかつい体躯の”犬童”がかぶりを振ってうなった。
「滋養に優れた食材だしな、薬味は柚子か?」
長崎で医学を修めた蘭学医くずれの”藪雨”がしたり顔でつぶやく。
「この柚子は水尾で採れた青玉だろうな、俺には分かるぜ。」
普段は賭け将棋指しの通称”と金”と呼ばれる”駒形”が
”襤褸”に向かって指摘すると。
「さすが”と金”、保津で生まれ育っただけありますね?」
元某藩・衣文方(えもんがた)だった通称”襤褸”と渾名(あだな)される
”幌延”がにっこり笑った。
「隊長も京の出身では無いと聞いてますが、鱧はイケますかね?」
女の身なりと毒婦の色気を漂わせる”白浪”が科を作って尋ねると。
「うん、うまいが・・・鱧と言うのは小骨が少々口にザラつくもんだな・・・・・」
「確かに、京都人以外には分からぬ妙味でありますな?」
隊長”名無し”の言葉に音も無く笑ったのは
盲目の琵琶法師”法乙”であった。
「ところで”雲猿”も皆と一緒に食わぬでござるか?」
一堂が和やかに食す中、”武羅将”が独り言の様につぶやくと。
「私はここで結構・・・」
縁の下で控えた元忍びの”雲猿”が兵糧丸(ひょうろうがん)を口に含みながら答えた。
「やれやれ、忍びと言うのは因果な生き物だわい。」
”引導坊”がため息混じりに肩をすくめると皆が苦笑した。
「ところで隊長、皆を集めたのは只の会食と言う訳ではありますまい?」
”藪医”が”名無し”に向かって問い掛けた。
「うむ、お館様(柳生俊益)からのご依頼だ。」
”名無し”が箸を置くと改めて皆に向かって口を開いたのだった。
〔第伍話に戻る〕 ⇔ 〔第漆話に続く〕
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この物語はフィクションです、実在の人物等一切関係ありません。
隊長”名無し” 〔柳生別働隊/紅蓮隊隊長〕
”千手院 武羅将”(せんじゅいん むらまさ) 〔隊長補佐、紅蓮隊のNo.3〕
”幌延 左馬ノ介”(ほろのべ さまのすけ) 〔紅蓮七傑/通称”襤褸”(ぼろ)〕
”犬童 坊太郎”(いんどう ぼうたろう) 〔紅蓮七傑/通称”引導坊”(いんどうぼう)〕
”藪雨 胤春”(やぶさめ いんしゅん) 〔紅蓮七傑/通称”藪医”(やぶい)〕
”駒形 磐石”(こまがた いわお) 〔紅蓮七傑/通称”と金”(ときん)〕
”白浪 叉平次”(しらなみ さへいじ) 〔紅蓮七傑/通称”お役者”〕
”法乙”(ほういつ) 〔紅蓮七傑/通称”楽師”(がくし)〕
”雲猿”(くもざる) 〔紅蓮七傑/元・黒脛巾組(くろはばきくみ)の忍び〕
”柳生 俊益”(やぎゅう とします) 〔幕府京都守護方/柳生家第14代当主〕
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〔第伍話〕
「ちょっと出掛けてくる。」
そう言うと”名無し”は観ていた京の地図を畳んだ。
「夜の賄いは鱧(ハモ)を捌きますよ、食べていかれますか?」
”襤褸”(ぼろ)がニョロニョロ動く鱧を捕まえる動作をしながら尋ねた。
「ハモ・・・か? 初めて聞く名だな、
じゃ、楽しみにしてるぞ。」
”襤褸”に向かって微笑んだ”名無し”がいよいよ出掛けようとすると。
「隊長、早速鬼退治ですか?それがしもお供するでござる。」
付いて行こうとした”武羅将”だったが”名無し”がそれを制した。
「いや、例の場所で少々ぶらっとしてくるだけだ。」
「それより”武羅将”、お前は皆を集めておいてくれ、一緒にハモとやらを食おう。」
「はっ、所用で不在中の副隊長を除いて召集を掛けておきまする。」
「久しぶりに賑やかになりそうですな?
それじゃ、余分に鱧を仕入れておきますかね。」
”名無し”の言葉を受けて”武羅将”と”襤褸”がうなづいた。
”名無し”が出掛けた後、隊士につなぎを取る為の”武羅将”と、
鱧を仕入れに出掛ける”襤褸”がしばらくの間並んで歩いて行くと。
「隊長補佐、隊長は何処に行かれたんですか?」
「恐らく、”六道珍皇寺”(りくどうちんのうじ)でござろうな?」
「それって、平安期に昼は宮廷、夜は黄泉の国の閻魔宮で役人を務めたと言う
”小野篁”(おののたかむら)があの世から黄泉返って来た井戸がある?」
「左様、元はと言えばそれがしと隊長が居候している”故汲庵”の庵主と
お館様が”六道の辻”を訪れた際に突如として天空が割れ、
そこから現れた一匹の妖怪がお館様達に襲い掛かったのだが・・・」
「妖怪!? そりゃえらい事ですな?」
「妖怪はお館様を護衛していた手練れを次々に倒してしまい、
いよいよと言う時に天空の裂け目から降って来たのが隊長だった。」
「えぇ!? 隊長が黄泉返って来たって事ですか。」
「まぁ聞け、隊長に気付いた妖怪が向かって来たが一瞬の居合いで斬り捨ててしまわれた。」
「実は隊長は自分が何者なのか?何処から来たのか?
一切の記憶が無かったそうなのだ。」
「間を置かず天空の裂け目は閉じてしまったが、
自分らの危機を救ってくれた異国の風体をした剣士を捨て置けず、
お館様が後見人となった。」
「それからは隊長をいたく気に入られた庵主が自分の庵に住まわせた
と、まぁこういう訳なのでござるな。」
「成る程、隊長が”名無し”なのが合点がいきました、しかし不思議な御人ですな? 我らとは強さも違うがどこか雰囲気も違う。」
「左様、強さで順位が決まる我が”紅蓮隊”でも
先の隊長すら遅れを取る実力、
しかし何処で身に着けたか?既に隊長の資質も備えられていた。」
「いつか記憶が戻られるその時が、何か怖い気もするでござるよ。」
野暮用から戻った”名無し”と、召集に応じて一堂に会した”紅蓮隊士”が
”襤褸”の作った鱧料理に舌鼓を打ちながら夜は更けていった。
〔第肆話に戻る〕 ⇔ 〔第陸話につづく〕
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この物語はフィクションです、実在の人物等一切関係ありません
隊長”名無し” 〔柳生別働隊/通称”紅蓮隊”隊長〕
”千手院武羅将”(せんじゅいんむらまさ) 〔紅蓮隊のNo.3で隊長補佐〕
”幌延左馬ノ介”(ほろのべさまのすけ) 〔紅蓮隊士/通称”襤褸”(ぼろ)〕
”烏丸中将”(からすまちゅうじょう) 〔現・左大臣職ながら殆ど世捨て人で故汲庵を囲んでいる〕
”柳生俊益”(やぎゅうとします) 〔幕府京都守護職/柳生家第14代当主〕
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【第二十六話・鬼童の掟】
”鬼童衆”の住処を探る”柳生千種”と裏柳生の”新八郎”、
同行した”柳生別働隊”、通称・紅蓮隊士の”春秋””轟天竜”一行は、
”鬼童衆”の怪忍獣”百獣鳳凰丸”との一戦の後、
潜入した隠れ里で誤って毒草を口にした里の子供を救うも、
気が付けば多くの”鬼童衆”に囲まれてしまったのであった。
「キサマラ、ソノコタチカラハナレロ!!」
大勢の里の住人らしき者たちの先頭を切って
怪忍獣の姿のままの”百獣鳳凰丸”が”千種”らに怒鳴った。
「くっ!!」武器に手を掛けジリジリと後ずさる”千種”たち。
一触即発の緊張の中、
”千種”らに救われた少女が”鳳凰丸”に近づいて行くと、
「この人たちが”けん坊”を助けてくれたのよ。」
「むっ!?」 事情を察した”鳳凰丸”が術を納めると、
やがて徐々に人間の姿に変わっていった。
「貴様らには”氷室”様に会ってもらおう、付いて来い。」
”鳳凰丸”の言葉に、里の住人たちは少女たちを連れて散って行った。
「お嬢、どうします?」
「”氷室”と言えば奴らの上役、向こうから合わせると言うのだ
これは願っても無い事、行くぞ”新八郎”。」
”千種”と”新八郎”の会話に”轟天竜”がニタリと笑って腕をさすり。
「奴らの出かた次第によっちゃワシの張り手がうなるだけじゃわい。」
”鳳凰丸”の後を付いて行くと、ここがあの千尋の崖の上なのか?
と思うほど意外と広い田畑と点在する家など村の中を抜け、
やがて一際大きな屋敷にたどり着いた。
「ほぉ〜、鬼ヶ島らしく豪奢な屋敷じゃないか?」
地味な外観をぐるっと見渡して”春秋”が皮肉った。
屋敷の一室に一行を案内すると、
ここで待つ様に話して”鳳凰丸”が立ち去った。
「お嬢、武装解除もしないで連れて来るとは舐められてますな?」
”新八郎”が囁くと”千種”が平然と答えた。
「奴らの懐の中でもあるが、我らを逃がさぬ自信の表れだ油断するな。」
しばらく後に、鉄紺の着物・袴に、
黒い革の陣羽織を羽織った長身痩躯の人物が入ってくると、
一同を見渡して重々しく口を開いた。
「貴様ら、公儀隠密とつるみ、我らの事を探りに来たのであろう?」
”氷室”の質問に質問で返す”千種”。
「聞きたいのはこちらの方だ、
お主は隠密が今際の際に残した”鬼童衆”の人別帳に載っていた
”氷室蘭堂”だな? お前たちの企みは何だ? なぜ人を殺める?」
「我らはこの世の意識の外に住み、過去から連綿と関わって来た者、
あえて貴様らが知る必要は無いのだ、すまぬがここを知られた以上 は帰す訳にはいかぬ。」
”氷室”が言い終えるや否や、突然”千種”たちの足元の床が割れ、
一行は奈落の闇へと落ちて行った・・・・・
【第二十七話に続く】
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柳生千種〔やぎゅう ちぐさ〕 (尾張柳生の剣士で男装の麗人)
夏冬春秋〔かとう はるあき〕(柳生別働隊・通称”紅蓮隊”の剣士)
轟天竜〔ごうてんりゅう〕 (春秋と同じく元力士の”紅蓮隊士”)
六反新八郎〔ろくたん しんぱちろう〕(柳生家家臣”裏柳生”(諜報方))
百獣鳳凰丸 〔ももんじ たかまる〕 (”鬼童衆”の怪忍獣のひとり)
氷室蘭堂〔ひむろらんどう〕(”鬼童衆”を束ねる男)
この物語はフィクションです、実在の人物とは関係有りません。
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〔第肆話〕
”明安教団”の使者”不破州”の依頼を受けた
京都の守護職を務める藩主”柳生俊益”は、
早速”柳生別働隊”、通称”紅蓮隊”の隊長”名無し”に
京の外れ”羅城門”に棲むという鬼の討伐を命じたのであった。
”不破州”が帰った後、”名無し”が”紅蓮隊”の詰め所に入った所に、
所用を済ませた”武羅将”(むらまさ)が戻ってきた。
「隊長、柳生の庄の”春秋”に新しく打った刀を送ってきたでござるよ。」
「奴の剣技にぴったりで我ながら久々に会心の出来でござる!」
「”千手院隊長補佐”(武羅将)の仰るのも御尤もですがね、
斬れりゃいいってもんじゃありませんよ。」
自画自賛気味の”武羅将”の横に口を挟む様に現れたのは、
紅蓮隊員のひとり”幌延左馬ノ介”であった。
「隊長補佐に打って貰った菜切り包丁、あれは切れ過ぎていけません、
切れ過ぎて叉、吸い付くようにくっ付いて離れないから実に扱い辛い。」
”幌延”は、本を糺せば某藩の衣文方(えもんがた)出身と言う変り種だ。
衣文方とは現代で言う藩主のスタイリストに当たり
登城する際や、その他行事の装束の着用指導する役である。
しかし当の本人は着ている物にはトンと無頓着であり、
よれよれの上っ張りに襞の消えた袴履きと言う有様で、
正に「紺屋の白袴」を地で行く人物であった。
そのせいか苗字を捩って”襤褸”(ボロ)とあだ名されているが、
意外と料理の道にも精通しており詰め所では厨房係を任されていた。
鷹揚とした気質なれど、剣の腕で順列の決まる、
完全実力主義の”紅蓮隊”では紅蓮七傑の一人でもある。
そんな二人のやり取りに目もくれず
”名無し”は詰め所の棚から資料を取り出して広げ出した。
「京の地図でござりますな、
お館様の呼び出しとは何だったんでござりますか?」
”名無し”が羅城門の場所を丸で囲ったのを見て”武羅将”が尋ねた。
「鬼退治に行けとの仰せだ、ちょっと見てくるか・・・・・」
”名無し”はそうつぶやくと思案気に虚空を見上げた。
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この物語はフィクションです、実在の人物等一切関係ありません
隊長”名無し” 〔柳生別働隊/紅蓮隊隊長〕
”千手院武羅将”(せんじゅいんむらまさ) 〔紅蓮隊のNo.3で隊長補佐〕
”幌延左馬ノ介”(ほろのべさまのすけ) 〔紅蓮隊士/通称”襤褸”(ぼろ)〕
”柳生俊益”(やぎゅうとします) 〔柳生家第十四代当主で幕府京都守護方〕
”不破州”(ふわす) 〔明安教団(めいあんきょうだん)の僧〕
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