【ドリームG王国】 野球は巨人、小説は自己流、

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お正月供2017

 お正月Ⅱ 2017
 
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 今年も園井家に正月がやって来た。例によって当たり前のことである。
 園井新太郎は六十八歳になる。幸い子供にも恵まれ長男の幸太郎と下に三人の妹が居る。それぞれ世帯を持ち子供も居る。新太郎からみれば孫が十二人も居ることになる。それは孫だから可愛いが、なにせ数が多すぎる。昨年は孫達が暴れ大事してひと悶着があった。
 庭は荒らされ大事にして盆栽は壊され置物まで破壊され、ついに堪忍袋の緒が切れる羽目になり孫を叱ったら娘達が反旗を翻し、散々な正月になった。
 それも長男の幸太郎夫婦の計らいでなんとか仲直り出来た苦い思い出である。
 
 「母さん。まもなく正月だが心配で堪らないんだよ」
 「あなた何を弱気な事を、幸太郎や娘達が実家に来るのを楽しみにしているのよ。喜んで迎えてやらないと」
 「分っては居るが総勢二十人も来るんだぞ。母さんだって料理の下準備をし、出来上がるまで三日も掛かったんじゃないか。体力的にも大変だろうに」
 「そりゃあ大変だけど子供達や孫が喜んでくれるなら、どうって事ないわよ」
 「そうかい、私も手伝ってやりたいが家庭の事は母さんに任せっきりで何も出来やしないし心苦しいんだよ」
 「いいのよ。気持ちだけで」
 「どうだい。いっその事デリバリーサービスに依頼したら」
 「冗談でしょ。それでは母の味を楽しみに来る子供達がガッカリするわよ」
 「しかしなぁ、そうだ。こうなったら正月に旅行しようよ。別府なんかどうだい」
 「逃げる気なの? まったく分ってないわね。あと三日で正月なのよ。予約なんか取れる訳ないでしょ」
 
 と、言うわけで。もはや二十人の敵を向い撃ちしかなさそうだ。
 しかし新太郎は妻に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。こうなった娘達に料理の下準備を頼もうと、まず長女の麻美に電話してみた。
 「駄目よ。暮れはすることが山ほどあって大変なのよ」
 次に二女の夏美に電話した。
 「それがね。下の子が熱を出して手を離せないのよ」
 仕方なく三女の亜樹美に電話する。
 「もっと早く行ってくれれば都合つけたのに無理、無理」
 予想通り空振りに終わった。
 まったく! どいつもこいつも勝手な理由を付けて。少しは協力しろよと一人で腹を立ててしまった。だからと言って長男の嫁さんに声を掛けるのは気が引ける。
 それに気づいた妻の恵子が釘を刺す。
 「あのね、幸太郎ところの藍子さんに電話しては駄目よ。今年は用事が重なり手伝いに行けないと電話を頂いているんだから」
 
それでも正月の二日、予定通り新年会が始まった。この園田家は都内に家はあるが足立区西新井にある。どちらかと言うと東京の田舎のよう場所だ。近くには西新井大師があり関東三大大師のひとつだ。逆方向に進むと荒川が流れ土手添えは区民の憩いの場所でもある。園田家の敷地は広く百坪以上ある。先祖代々受け継いだ土地で新太郎は園田家の十一代目に当たるそうだ。土地が広いだけに庭は立派である。
妻はなに一つ文句を言わず二十人分と新太郎夫妻を入れて二十二人の料理を作り上げた。誠に頭が下がる。結局、新太郎は何も出来ずに終わった。
「今年も良い年でありましように。おめでとうカンパーイ」
昨年は乾杯と同時に孫達は大暴れした記憶が残っている。しかし今年は誰も別人のようおとなしい。
娘達の旦那も気を使って毎年来てくれる。聞いた処に依ると翌日は旦那の実家で新年会するそうだ。逆に娘達が旦那の実家に気を使う番だ。娘達はキチンと妻の役目を果たしているのか心配だ。そんな処へ長女の旦那がお酌をしに来た。
「お義父さん。おめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
「いやいやありがとう。義雄くんも至らない娘で迷惑かけているんじゃないか」
「そんな事はありませんよ。良くやってくれています。ただ年々口喧しくなりましたがね」
「はっはは、それは私も同じ。亭主関白なんて今は通用しないが家内に上手くコントロールされているよ」
「そんなもんですよね。しかし女房を立てて置けば家庭は円満ですからね」
「いや立派だよ。なかなか出来る事じゃないよ。麻美も幸せ者だ」
他愛もない会話だったが新太郎は安心した。親としては娘が結婚しても死ぬまで自分の娘である。家庭円満である事が最大の喜びであり、もし離婚して家庭崩壊なんて事になったら心配で死んでも死にきれないと悩むのも親というもの。
 
 リビングの隣にある和室の伏間を取り外しと二十畳になるが総勢二十二人ともなれば狭く感じる。今年の孫達は昨年と違い暴れ出し者が居ない。昨年のキツイ一言が効いたようだ。孫達全員にお年玉を配った。昨年は八万だったが今年から二人の孫が中学生になりお年玉を値上げした。大変な出費だが子供達や孫が喜んでくれれば報われる。
妻の恵子も嬉しそうに娘達と語り合っている。毎年当たり前のよう、こうして新年会を迎えるが、これも妻の頑張りがあるからだろう。本当に妻には感謝する。
しかし孫達は拍子抜けするほど穏やかだ。昨年は端正込めて作った庭を破壊されたものだが、これだけ大人しいと心配になる。まさか「お爺ちゃんは怒ると怖いんだから」なんて言い聞かせてはいなんだろうなと苦笑する新太郎であった。
これでは孫が大きくなったら、爺ちゃん所に行ってもつまらないからと、遊びに来なくなるも知れないと悩むほどだ。
 
宴会も終盤を迎え、女どもは一斉に食べ終わった皿を下げ洗い、後片付けを始めた。そろそろ帰り支度を始める娘達の家族達。新太郎は昨年の反省を込めプレゼントを用意していた。勿論、年賀はそれぞれ頂いたが親は御馳走が最高のおもてなしと考え特に土産を持たした事がない。何が良い物かと考えた末、娘達の旦那三人と長男の嫁さんにプレゼントする事に決めた。しかし何をプレゼントすれば良いか悩んだところ、最近は便利なものがある。ネットショップで調べて買えば何でも揃う。思いついたのは昨年の暮。本来なら翌日に届くものだがネーム入りなので一週間を要した。それでぎりぎり昨日届いたばかりだ。娘の旦那三人はワインだ。勿論安物では意味がないと木箱入りで、しかも最大のミソは瓶に直接彫ったネーム入りと気の利いた品物である。最近のネットショップは坊さん以外なんでも用意してあると言うから驚きだ。
例に依って〆の挨拶は長男の幸太郎が行うことになっている。
「今年も良き正月を迎える事が出来ました。それもこれも父と母の努力があったからこそ。ありがとうございました」
話が終わると新太郎は用意して置いたプレゼントを出した。
「こうしてみんなが集まってくれるのは親として大変喜ばしい事であります。娘達や幸太郎が暖かい家庭を築けるのも旦那や嫁さんのおかげです。そこで今日は親から感謝の気持ちとして用意させて頂きました。どうか受け取って下さい。
 
妻の恵子にも知らせて居なかった大人全員が驚きの表情を浮かべる。
「それでは伴侶の皆様方だけですが娘と息子が世話になっているお礼です」
男性には名前入りのワイン。長男の妻には電動ネイルケア/ネイルシャイナーセットと化粧品セットだった。四人は思いがけないプレゼントに涙を浮かべる者もいた。特に長男の嫁は驚いた。
「お義父さん、有難う御座います。本当に嬉しいです。これって爪を磨くものですよね。嬉しいわ。爪を磨くのは若い子の特権だと思っていたのに夢のようです」
長男や娘達は何も貰っていないが伴侶への心遣いが余程嬉しかったのか感激していた。二女の夏美が驚きの声をあげた。
 「お父さん。電動ネイルケアって知って買ったの? 驚いたわ。お母さんなら分らない事もないけど」
 「夏美、父を古い人間と思っちゃいけないよ。私だってパソコンは使える。ネットで調べて買ったんだよ」
 「え〜〜お父さんがネットショップで調べたんだ。いゃあ、お見逸れしまたぁ」
 みんな大笑いした。すると長女の麻美が笑顔でこう言った。
「嗚呼、先を越されたわ。実は私達兄妹夫婦で相談して決めたんだけどプレゼントがあります」
えっと新太郎と恵子は顔を見合わせた。
「たいしたものではないけど今年結婚四十年でしょう。ルビー婚というらしいけど、今まで何も出来ず御免なさい。今回はお二人に別府温泉で日頃の疲れを癒して来て下さい。勿論往復グリーン車です。奮発したんだからぁ」と笑う。
「えっ驚いたなぁ、昨年の暮れ家内に別府温泉の話をして居た所だよ」
「そうなのよ。嬉しいわ。だって新婚旅行に行った思い出の地だもの」
そう言いながら二人は目にいっぱい涙を溜めていた。
孫達はみんな泣いているので心配したのか喧嘩したと思ったようだ。
「どうしてみんな泣いているの? 喧嘩しては駄目ですよ」
子供は泣く事は悲しいからだと思っているらしい。
「違うのよ。圭太、人は悲しい時、辛い時じゃなくても嬉しくって泣く事もあるの、それを嬉し涙というのよ」
 するとみんなはドッと笑った。昨年は大騒ぎした新年会だったけど今年は心に残る新年会となった。みんなが帰りはまた二人になった。恵子は何故か寂しそうだ。
 「母さん、そうガッカリするなよ。また会えるさ。そうそう母さんにもプレゼンがある。幸太郎の嫁さんと同じ物で悪いが」
 「まぁ驚いた。貴方からレゼント貰うのって結婚してから初めてじゃない?」  
  そうかなぁと年甲斐もなく幸太郎は子供のように照れていた。
 
 了
 

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お正月 2016

お正月 2016
{これは昨年の掲載で続編として「お正月2017」を次回掲載します}

 園井家にも正月はやってきた。当たり前であるが何事もなく無事に新年を迎えられた事は喜ばしい。園井家の主、新太郎は正月恒例の新年会が二日に行われる為、準備に追われていた。新太郎夫婦にとっては一年で一番嬉しいと言っても過言ではない。


 新太郎には妻と、長男とその嫁、それと嫁いで行った娘が三人いる。
 共に子供がおり長男には男一人と女が二人、長女も同じく男一人女二人、次女には男二人、娘二人、末娘の三女には女二人だ。
 なんと孫だけで十二人も居る。勿論嬉しいが問題もある。
 長男の幸太郎家族は歩いて数分の所にあるマンションで暮らしている。
 他の娘達も車で一時間圏内に住んで居る。電車で四時間―五時間ならそう毎年集まれないが嬉しい限りだ。
 新太郎は七年前に現役を引退して、六十七歳を迎えていた。もう立派なお爺ちゃんだ。
 普段は妻の典子と二人暮らしで、静かな日々を送っている。
 それが今、嵐の前の静けさだ。なにせ息子娘夫婦だけで八人、孫が十二人合計二十人訪れるのだ。それはもう想像を絶する賑やかさになる。


 孫が可愛いのは当然だが、しかし桁が違う。上は小学六年生から下は二歳までと、わんぱく盛りで親の注意なんか聞くわけがない。
 それとお年玉だ。例え二歳だろうとあげない訳には行かない。
 なにせ十二人の孫だ。年齢により金額は違うがざっと単純計算しても八万円前後になる。
来年は二人が中学に進学する予定だ。そうなると金額も更に膨らむ。それでも新太郎は可愛い孫の為に喜んで配って来た。 


 妻の典子は大晦日から、元旦も休む間もなく料理作りに追われている。
 新太郎とてノホホンとしていられない。テーブルを並べ座布団、座る場所のセッテングなど。
 長男と嫁は早めに来て毎年手伝ってくれる。流石は長男と新太郎は頼もしく思っている。
 なにせやんちゃな孫だ。注意したって聞く年ではない。割れ物や瀬戸物などを次々と片付ける。庭には盆栽や特に大事な瀬戸物の置物など置いてあり、入れないように柵を設けた。退職した当時は孫も数人で穏やかな正月だったが、今はもう戦争だ。
 運命の二日の昼が来た。いよいよ園井家の平穏な静けさは戦場と化する。


 第一陣の敵が来襲、いやいや訪れて来た。まず長女家族軍団だ。総勢五人が訪れた。
「おじいちゃ〜ん。おめでとう。お年玉ちょうだい」
 いきなり来た。慌てた長女の夫が子供をたしなめる。
「コラァいきなりそんな事を言うものじゃない。まったくすみません。お父さん」
 そして敵襲、第二陣三陣が来襲、もうガヤガヤと人の声が聞こえないほど五月蝿くなる。妻の典子は自分の娘達に号令をかける。
『さあ貴女達、迎撃ミサイルでここを死守するのよ』とは言わないが
「さあ貴女達、料理が間に合わないのよ。手伝って」
 洋間のリビング十二畳に和室の伏間を取り外して、二十畳の宴会場に変身する。
 そして全員が揃った。ここで新太郎恒例の新年の挨拶が始まる。
 ちびっ子達は、今のところ親に引き止められ、競馬のゲートに入った状態だ。
 ゲートが開いた途端、歯止め効かない戦場となる。
「まずは、こうしてみんな元気に揃い、新年を迎えられたことに感謝して、それぞれの家族が、今年も良い年である事を祈りましょう」
 続いて長男の幸太郎が、なみなみと注がれたビールグラスを高くあげて
「お父さん、お母さん。おめでとう。そしてみなさんおめでとうカンパ〜〜イ」
 ちびっ子達もジュースで乾杯した。しかし一人が転んでジュースを隣の子に溢してしまった。


 すると怒った子が逆にジュースを頭から掛ける。
 それを見た他の子供たちが真似をすると、もう戦闘開始となった。
 新太郎も自分の子供なら怒れるが、連れ添えがいる孫にはつい遠慮する。
 それを良い事にちびっ子達は暴れまわり、もう和室の畳はビショビショだ。
 しかしそれだけでは終わらなかった。なんと庭に繰り出すと柵をなんなく破壊ついには新太郎の大事な瀬戸物の置物(七福神)と盆栽を壊してしまった。
 特にこの七福神の置物は会社に勤めていた時に頂いた社長賞の品だ。更に長年かけて育てた盆栽が破壊された。
 先程まで笑顔を振りまいていた新太郎の顔色が変わり、顔がピクピクと痙攣し必死に堪えている。
 だが娘達は子供を叱るかと思ったら、知らぬ顔をして姉妹同士で世間話に花を咲かせる。
 それから十五分ほど過ぎただろうか、孫達は庭で好き放題、まだ誰も止めに入ろうとしない。
 流石に温厚な新太郎も限界を超えた。ついに爆発してしまった。

「こらあ! お前たち許さんぞ!なんて事をしてくれるんだ」

 と、怒鳴りつけてしまった。さすがのチビッ子ギャング達も凍りついてしまった。
「あなた、何もそんなに怒らなくても……」
 妻の典子が嗜めたのだが。
 慌てた長男の妻が申し訳ありませんと平謝りした。だが実の娘達は違った。新太郎も分かっては居た。それで収めようとしのだが、なんと長女を始め二女三女が一斉に新太郎に牙を剥いた。子供が怒られて我が子を叱ると思ったら、父の怒りに反旗を翻した。
「お父さん! なによ! 孫に当たることないでしょ。正月早々に冗談じゃないわ」
 新太郎は静めかけた怒りを、今度は娘達に向けた。
「馬鹿者! お前達の躾はどうなっているのだ。良い悪いくらい教えておけ!」
 もう新年会どころじゃなかった。娘の夫たちは新太郎に頭を下げオロオロと妻をなだめたのだが、三人の娘達の怒りは収まらない。


 ついには自分の夫の静止を振り切り子供を連れて帰ってしまった。
 長男の幸太郎もどうして良いか分からない状態だ。自分の子供の非礼は認めても、妹とは言え連れ添えの夫が目の前に居れば責める訳にも行かない。
新年会始まって以来の無残なものになった。
 長男夫婦だけは新太郎の怒りを鎮め帰っていた。
 「嗚呼、やってしまった。母さん俺はどうすればいいんだ」
 「貴方の気持ちは分かりますよ。あの庭の七福神の置物、大事になさっていたものね」
 とは、言いつつも典子は貴方が悪いとか子供達が悪いとは言わない。
 これは彼女なりのポリシーでどちらかの味方に付いても上手く行かない、と中立の立場を取っている。
 偏れば誰も相談しなくなると、双方の捌け口役に徹している。
 自分が産んで育てた子だもの、一時的な怒りが合っても何時かは分かってくれる。
 だが血の繋がらない長男の嫁には特に気を使った。あの時、孫達を怒鳴ったのだから肝を冷したことだろう。真っ先に謝ってくれた。こっちが申し訳ないほど。だから長男を通して化粧品セットを送った。娘達の夫には我儘な娘ですが末永く宜しくお願い致しますと洋酒を添えて手紙を渡した。 


 それから数ヶ月が過ぎて、三月三日ひな祭りの日が近づいて来た。
 女の孫だけで八人も居るし祝ってやりたかった。
 あれ以来、娘達から電話一本もない。代わりに娘の夫達が度々お詫びの電話は来たが。娘達からは連絡なし。 いつもなら例年通りにお祝いするのだが、新太郎も気まずくて連絡をしない。
 本当は孫たちが可愛くてしょうがない新次郎だ。しかし娘達は子供を叱ることを知らない。いや叱ろうとしないのだ。新太郎はそれに怒ったのだ。
 我が娘ながら情けなくてしょうがない。孫が可愛いのは知っているはずだ。その可愛い孫に怒鳴った。
 好きで怒鳴った訳ではない。度が過ぎた行為に叱らない娘達に腹が立ったのだ。
 しかし幼くても、やってはいけない事がある。子供を叱るどころか親に牙を剥く娘達にはショックが大きかった。


 今年のひな祭りには誰も来ないと新太郎は諦めていた。
 ところが末娘の夫は仕事の都合で来られないが、ほかはみんなやって来た。
 ひな祭りの準備も料理も何もしていないが、なんと娘達や長男の妻がいつものように父母に挨拶して、それぞれ買って来た材料で料理を作り始めた。
 そのチビッ子ギャング達は、一斉に庭の掃除を始めたではないか。
 新太郎と典子はその変貌ぶりに、唖然として見ていた。
 そして料理の準備が整い、父と母を上座に座らせた。
「お父さん、お母さん正月はごめんなさい。反省しています。子供達もこの通りちゃんと躾ましたので、今後ともよろしくお願いします」
 と頭を下げたが、気まずい新太郎は妻と顔を合わせ返答に困った。
 いったい娘達に何が起こったのかと後で聞いた話によると、長男の幸太郎が妹達の家をそれぞれ周り、冷静に考えろと叱ったそうだ。


 「俺もあの時もっと早く止めるべきだった。勿論俺だって反省しているし責任も感じている。それで他人の家に行き子供が悪さをしたら叱るだろう。実家だからと甘えてたんじゃないのか」
 「そうね、判っている。仏さまみたいな父だって怒るんだとね。自分の子供可愛いさに父を攻めてしまって……」

 「喧嘩別れして仲直りする切っ掛けがなくて困っていた所なの、私達が親になったのに親の心を忘れていたのね」

 もっともだと、娘達の夫も兄に賛同したのだった。
 それから娘達は初めて夫達から聞かされた。母から頂いた手紙を見せた。
 「母さん、いつの間に……やっぱり母は偉大だわ。内助の功の鏡ね。お母さんには叶わない」

 優しい父だって人の子、どんなに大事にしていた置物か、会社勤めしていた時に一番貢献した社員に贈られる品物の置物だった。

 それだけに庭に置くと存在感があった。つまり新太郎の長年会社に貢献した証であり誇りとも思う一品だったのだ。


 七福神の置物の価値は分からないが、有能な社員と認められた証の置物だった。
 それを切々と幸太郎に聞かされ、さすが身勝手な娘達も目が覚めたらしい。
 それから娘達はことの他、親孝行するようになったと云う。
 孫たちも驚くほど素直になり新太郎は嬉しくて涙した。
「母さん、俺達の子育ては間違ってなかったようだね。特に長男の幸太郎は出来た人間だ。考えて見れば置物が壊れたおかげで分かち合う事が出来た。あれは会社時代の俺の勲章だったが、壊れて意味があったのかもな」
「ええ、これからは貴方の誇りは私が守ってあげますよ。子供や孫がこんなに集まってくれるのが何よりも私達の誇りよ。そして貴方の勲章なのよ」
 


 了


 

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年忘れイヴ小説

クリスマスのイヴ約束



  昨年のイヴは紗江子と一緒に、眼下にはキラキラとネオンが輝くレストランで食事をした。福岡市内では一番高い高層ビルで、若い者達には人気のレストランだ。
 俺達は交際して一年少しだったが、二人の気持ちは既に決まっていた。そして将来の夢を語り合った。紗江子は小柄だがキュートで、黒いロングヘアが魅力的だ。
 俺は平凡なサラリーマンで特に自慢出来る事もないが強いて言うなら、真面目だけが取り柄だ。そして今年もまたイヴを迎えて、俺は昨年紗江子とイヴの夜を楽しんだ高層ビルを見上げていた。本来なら今年も一緒にイヴ迎える筈だった。でも紗江子は俺の側には居ない。紗江子が俺の前から突然姿を消したのは三ヶ月前の秋が訪れる頃だった。
 「ねぇ裕樹、私と一緒にいて幸せ?」
 「なにを言っている。幸せに決まっているじゃないか」
  「そう、ありがとう。私も」
 恋人同士にはよくある他愛もない会話だった。でも紗江子はその後、暗い表情を浮かべる日が多くなった。俺は気になり、一体どうしたのと訊いて見たが、なんでもないと下を向いてしまうばかりだ。最近は特に酷い、何故か暗い表情が多くなってはいたが、翌日から紗江子とは連絡が取れなくなってしまった。携帯も通じないし住んでいたマンションも引っ越してしまっていた。それも家族もろ共消えた。 


  紗江子に嫌われたのか? 俺は嫌われるような事をしたのか? いくら考えても思い当たる事が浮かばない。両親とはまだ会った事はないが、いずれ挨拶するつもりだった。しかし何故家族まで居なくなるのか? いくら探しても依然として彼女は行方不明のまま。俺は傷心のまま時を過ごすしかなかった。
  紗江子と一緒に居た時は街も輝いて見えたのに、紗枝子の居ない街は、まるで廃墟のように感じる。でもひとつだけ希望があった。俺達は今夜のイヴを約束していたんだ。
 昨年のイヴの夜を過ごした、このビルの最上階にあるレストランで今年も一緒に食事をしようと約束していた。そんな事を思い浮かべながら俺はレストランヘと向かった。
  たぶん紗江子が来ないのは分かっては居るが、約束は約束だ。一途に望みに賭けるしかないのだ。エレベーターに乗ると数組のカップルが嬉しそうに腕を組んでいる。まるで俺に当て付けるかのように。
  俺だけが一人だ。たまらず下を向いてしまう自分が情けない。ただ虚しさが残る。


  二人の予約席は昨年と同じ窓側のネオンが一番綺麗に見える場所だ。
 「お一人様ですか?」
 「いや予約してある桜井ですが、連れは遅れて来ますから」
  来るはずはないが、そう言うしかなかった。
  やがて紗江子と約束した八時になった。係りの者がオーダーをとりに来る。
 来ないはずの紗江子の分の料理とシャンパンを頼んだ。何組かの客達はメリークリスマスと言って乾杯を始めている。俺は窓際から街のネオンを眺めシャンパングラスを持ったまま、ガラス映るに自分の情けない姿を見ていた。その時だった。若い女性から声を掛けられた。
  「こんばんは、桜井裕樹さんですよね」
  「あっハイ、あれ? 貴女は確か紗江子の友人の……」
  「ハイ 松崎香織です。覚えていて頂き嬉しいですわ」
  「あの〜どうして此処を?」
  「実は、紗江子の事で伺ったのですが、紗江子が貴方の前から姿を消した事について」
  「知っているのですか、紗江子の行方を」
  「お話が長くなりますが、ちょっと掛けて宜しいですか」
  「あぁどうぞ。それで」 
  香織は紗江子とは高校時代から親友だ。何度か紗江子と三人でドライブに出掛けた事もある。今は東京の会社に勤めているらしい。福岡には仕事ついでに紗江子に頼まれてやって来たそうだ。俺は驚いた。そして最初に思い浮かべた事は……別れ話なら自分の口で言えばよいのに友人を使う事もないだろうと内心、気分を悪くした。
  「突然ごめんなさい。私の口から言う前にこれを読んで頂けますか」
  それは紗江子から手紙だった。俺は手紙を読むうちに涙が込み上げて来た。 


  『祐樹さん突然、貴方の前から姿を消して御免なさい。何度本当の事を言おうかと迷ったけど言えなかったの。今、私は東京のある医大病院に居ます。病名は乳癌です。大好きな祐樹さんが今の私の姿を見たら百年の恋もいっぺんに冷めてしまうと思います。髪の毛も抜けてね……私は今、病魔と闘っています。私もイヴを楽しみにしていました。でも今年は間に合いそうにありません。今は家族も東京で私を看病してくれています。病院の先生は癌の権威でもあり、必ず治してあげると約束してくれました。私それを信じ頑張っています。
 祐樹さんに心配掛けまいとした私の行動は逆に貴方を傷つけたかも知れません。私の事は忘れて健康な人と幸せになって欲しいと、自分に言い聞かせもしました……でも、でも祐樹さんが私の事を忘れずに約束のレストランで待っていてくれるならと思い、友人に頼み手紙を持たせました。貴方がレストランに居なかったら私は諦めます。もし貴方が友人から渡された手紙を読んでくれたなら嬉しいです。そして私はまた、元どおりの健康な体になったら、お会い出来ると嬉しいです。あと一年いや半年待ってくれますか?』 


  俺が読み終えると香織は、ニコリと笑ってこう言った。
  「失礼ながら貴方の涙を見て、わたし安心しました。紗江子の女心を分かって頂けますか?」
  「知らなかった。紗江子がそんな病で苦しんでいるなんて。本当は恨みもしました。でも紗江子は本当に治るのでしょうか。それが心配です」
  「大丈夫ですよ。貴方が紗江子を想ってくれればきっと治りますよ」
  香織は傷心しきった俺の背後に回り、泣きじゃくる子供をなだめるように肩に優しく手を置いた。俺は彼女に伝言を頼んだ。俺は何年でも待っている。そしてまたこのレストランで紗江子の笑顔を見たいと。あんなに霞んで見えた夜の街がなぜか急に華やかに見えた。失望からちょっとは光が見えた瞬間だった。 


  そして年が明け、桜の咲く時期がやって来た。
 あれから三ヶ月が過ぎた。紗江子は未だに癌と戦っている。好きな人に哀れな姿は見せたくないと云う。それでも俺は逢いたかった。無視してでも東京に行くべきだと何度思ったことか。しかし紗江子の女心が分からない訳でも無い。結局は逢いたい気持ちを抑えて、彼女の回復を願っていた。
  香織の会社は東京に本社があり、地元の福岡市内にも支店がある関係で数ヶ月に一度、福岡に来て俺に定期的に紗江子の様子を伝えてくれる。
 「紗江子は頑張っていますが、でも病魔に冒された姿を見せたくないと言っています」
  と、決まって判を押したように繰り返しだけだった。
  香織は連絡係りとして懸命に俺に伝えてくれた。そんな日々が続くうちに、とうとう一年が経とうとしていた頃、紗江子と過ごしたイヴの日から三度目のイヴが迫っていた。香織から話したい事があると連絡を受けた。もしかして病気が悪化したのかと思いつつ、約束した福岡駅近くにある喫茶店に向かった。すでに香織は席に座っていた。俺に気づくとゆっくりと頷いた。


  「お久し振りです」
 彼女はニコリともせず頭を下げた。
  「いいえ、こちらこそいつも連絡を頂き感謝しています。で、紗江子の病状は?」
  だが彼女はなかなか下げた頭を上げようとしない。
  「ごめんなさい。紗江子は一生懸命頑張りました……でも神様は微笑んでくれませんでした」
  「えっ!? どういう事ですか? まさか……」
 香織の眼には涙が溢れていた。そして何も応えなかった。俺は全てを覚った。
  「そんな! そんな事ってあるんですか。俺はずっと紗江子を待っていたのに。やっぱり無理しても逢いに行くべきだった」
  「本当にごめんなさい。紗江子も貴方に逢いたいと何度も泣いて私を困らせました。でも決まって紗枝子はこう言うのです。『やっぱり駄目こんな姿見せたくない。髪は抜け骨と皮のような身体、でもでも逢いたい』そんな言葉の繰り返しなんです。分かってやって下さい。紗江子は貴方の前でも美しい女性でありたかったのです」
 俺は店の中に居る客が見つめるのを知りながら、嗚咽を漏らす事が止められなかった。
 香織は人前にもはばからず、俺の顔を抱き寄せて一緒に泣いてくれた。まるで母のように。


  翌日、俺は香織と一緒に東京に向かった。なんでも紗江子の両親が俺の為に葬儀の日を遅らせてくれたらしい両親は紗江子が病室で綴った日記を見て、二人の仲を知って紗江子の望みを叶えてやりたかったのだろう。告別式に飾られた写真は、あのロングヘアで微笑む姿だった。とうとう病姿の紗江子は見る事は出来なかった。でも俺の心の中では永久に美しい紗江子が存在している。
 「紗江子、とうとう合う事が出来なかったね。生きてもう一度二人で楽しみたかった。悔しかっただろうね、寂しかっただろうね。荼毘にふされた後の遺骨と対面いるとは思わなかった。でも大丈夫、紗江子は永遠に美しいままの姿が俺の記憶に残っているから」
  紗江子の両親は、合わせず申し訳ないと詫びた。美しいまま……女心とはそういうものなのかと改めて思い知らされた。


  あれから十年の歳月が流れたが、今でもあのレストランはイヴの予約は半年も前から申し込まないと予約が取れないほどの人気だ。俺達家族は、イヴの夜は毎年ここで過ごし、そして来年の予約取って帰るのが恒例となっている。
  「メリークリスマス!」
 俺の前の席には妻が座って、妻の隣には五歳の息子が座り、俺の隣には三歳になる娘が座っている。俺の妻……恥ずかしながら紗江子の遺言? により紗江子の友人こと松崎香織と結婚した。紗江子が香織に言ったそうだ。『私が病魔に倒れたら香織に祐樹さん頼むわね』と香織は傷心しきった俺を献身的に支えてくれた。次第に心が惹かれて行くのは自然だったのかも。何よりも誰とも知らない女と結婚するよりも、紗江子は親友の香織ならと安心したのだろうか? 


 だが実は多少違っていたらしい。紗江子は俺がどうして見舞いに来てくれないのかと香織に訴えたとか。香織は三人でドライブした頃から俺が好きになっていたらしい。
 しか親友の彼を奪う訳にも行かず、そんな時に紗江子は病に倒れたのだ。
  そんな事とは知らず紗江子と俺の仲に割って入ったのだろうか? 紗江子の遺言もシナリオなのか? だが良い方に解釈するとこうなる。
 紗江子を失った彼を見捨てる事は出来ない。それなら自分が救ってあげたい。親友なのだから当然……ただ変わりすぎた紗江子も逢いたくても、こんな姿を見せたくないのは本当の事だろう。


 香織は最良の方法を取った事になる。でも香織が少し細工したシナリオ通りになったのだろうか。しかしそれは単なる風の噂であって、なんの確証もないし問いただす理由もない。今は幸せなのだから。そんな香織は時折、含み笑いする事がある。それが意味するものは? 俺は永遠に知る事はないだろう。
    ただ俺達家族は毎年、紗江子の命日に墓参りに行くのが恒例となっている。
   「紗江子、本来は君と一緒に向かえるクリスマスイヴの夜だったのに寂しいよ。でも君の願い通り俺達は幸せに暮らし居るよ。君と過ごした日々は決して忘れない。安らかにお休み、そしてありがとう」 


 了




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冬の光

先月バス旅行に行きました
カニ食べ放題に目がくらみつい。
紅葉とイルミネーションを観るツアーでしたが
なにせ前日、こともあろうか11月に雪が降るとは
そんな訳で足利フラワーパークのイルミネーション
をご覧ください。
因みに夜6時30分の気温2℃寒すぎました。
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巨人久し振りの快勝

久し振りに安心して見られる試合でした。
まさにギャレットデー
3打席連続ホームラン7打点の荒稼ぎ
菅野でもマイコラスでも勝てなかったのに内海で勝ってしまいしました。
もっとも9点の援護があれば誰でも勝てます(笑)
しかし喜んでいられません。首位の広島との差8ゲーム
2位以下は借金という情けない。
写真がないのが残念です。

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