夢見る者達の天国 (美作古書店支店)

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平凡な日々を平凡に生きる。
出来るだけ危険を避けて通りましょう。出来るだけトラブルに巻き込まれないようにしましょう。そんな風に習って僕らは小学校を卒業した。中学校に入ってからは他人の出し抜き方と権力の使い方を学び。高校で出来損ないの世界で僕らは生きているんだって事に気付いた。
『戦争が終わって武器を一斉に投げ出して戦争を悪に仕立て上げた功績によって僕らの世界は出来たんだ』そんな風に習ったような気がする。
漠然と将来の夢を語れば、それなりの会社に入って、それなりに出世して、それなりの給料と、それなりの家庭を作れればな、なんて夢のない夢を語ったあの日。
親友に馬鹿にされても何を馬鹿にされたのか分からなかったあの日。


二日酔いの頭をどう痛ませないようにするか苦慮しながら風呂場へと向う。ぬるいシャワーを浴びて、冷たい水を飲み干す。若干頭の痛みが引いたような気がした。リビングには友人達の残骸がゴロゴロと転がっていて昨日の『飲み会』と言う戦場の悲惨さを物語っている。勝手知ったる他人の何とやら。俺は自分の持ち物を回収すると、とっととこの惨事の現場から逃げ出す事にした。
8階建てのマンション、エレベーターで2階まで降り、エントランスを通って外に出る。蝉の大合唱と胡散臭いまでに青い空が頭上に広がっていて思わず溜め息を吐いた。
人気のない昼下がりのオフィス街。名も知れない下請け会社の門の日陰にホームレスが避暑している。ハエなんかがぶんぶん飛び回ってるんだけど、払おうともしない。生きているのか死んでいるのかさっぱり分からない。ま、この国みたいなものさ。そんなモノを横目で見ながらなるべく振動の無いようにして部屋に向う。

なんて言うか、事故だったんだよ。そうとも思わないと納得できない。

美少女が居た。多分、俺と同じ年齢くらい。長袖の白いブラウスと制服のチェック柄スカート。ここら辺の学校じゃないみたい。汗一つかかずにそんな服装で炎天下の午後を歩いている。そして金に近い茶髪のロングヘアと抜き身の刀。
「へ?−刀」思わず声を漏らす。だが、俺の声は聞こえなかったのか、美少女は俺の先約50mほどの十字路を横切っていった。
誰しも好奇心ってあるよな?少なからず、俺にもある。ただ、こんな時って冷静に考えたら見なかった事にするのが一番なのにな。その時の俺は何をトチ狂ったのか少女の後を追ってしまった。50mを全力疾走し、少女の消えた方向に向き直る。と、同時に何かが俺の前に転がってきた。サッカーボールくらいの大きさの手頃なボール。ただ、それには人の顔に良く似た凹凸が有った。飛んできた方向を見る。背広姿の男が俯き、空に向かってシャンパンシャワーをしているように見えた。
いや、違うな。それは、それ自身が空に向って血飛沫を上げているのだ。では、俺の足元に転がっているもの、それは何だ?ズキズキと疼く頭で足元のそれを凝視する。
こんな時、人間は言葉を忘れてしまうんだよ。それは白髪交じりのおっさんの顔で、目は驚愕に見開かれていた。俺は何も出来ないまま立ち尽くす。おっさんの顔から視線を逸らせない。
少女の居るべき方向から足音が聞こえる。無論、こちらに向ってだ。足音が止まり、視界に影と靴を確認した。俺は何も出来ないまま立ち尽くしている。
「ねぇ、あなた。」奇妙に凛とした声が聞こえた。俺の金縛りが解け、声の主を確認すべく顔を上げる。声の主は言うまでも無く先程の少女で、白いブラウスは返り血で赤い斑点で埋め尽くされいた。
「あ・・・あ・・・あう・・・」返事をしようと思っても声が出ない。少女は不思議そうに俺を見ると「ねぇ、どうかしたの?」と尋ねた。どうもこうもあったもんじゃない、目の前に出来上がったばかりの生首があるんだ。
「あ・・・ん・・・ああ」俺は目を瞑り、頭を振る。シェイクされた頭は痛みで満たされる。目を開けると、少女は不思議そうな顔をしたままで俺の前に立っていた。
「あなた、男の子よね?」少女は俺を覗き込んだ。
「あ・・・ああ・・・男の子です」俺はそういうのが精一杯だった。
「残念ね。女だったら贄の儀は終わりだったのに」非常に残念そうな顔をして少女はおれを爪先から頭の天辺まで見た。
「あ、あの。この人」俺は足元に転がる生首を指差した。
「ん?ああ、ソレ?もう人じゃないわよ」面倒臭そうに少女はそれを蹴った。ゴッと音がしてそれは跳ねる事無く地面に落下する。それから俺に向き直って「この辺で女の集まる場所って何処にあるの?」と何事も無かったかのように尋ねた。
「え・・・えぇと、この先にあるカフェとか?」俺は道の先を指差した。
「そう、それじゃあね」踵を返すと少女は俺の指差した方向に向って歩き出す。
「え?ちょっと待てよ。おい、コレ」俺は何が何だ分からずに少女を追う。
「何?」少女は立ち止まると俺の目を凝視した。
「あのおっさんはどうするんだよ?」俺は死体を指差し少女を睨み返す。
「処理班が処理するわ」俺を奇人でも見る目で見て、再び歩き出す。
「あ、ちょっと待てって」俺は少女の肩を掴む。少女は一瞬で俺の間合いに踏み込むと俺の喉元に鮮血に染まった刀を突きつけた。
「あのね、あたし忙しいのよ?」俺は何も居えず立ち尽くす。溜め息を吐き「面倒ね、次で最後だからあなたを斬れないの」と本当にだるそうに言うと、ゆっくりと俺から離れた。暑さの所為か、ヤバさの所為か、全身の毛穴からどっと汗が噴出した。それから先は記憶にない。クルマの音と、大人数が走り回る音、それから鼓動の音。そんなものが入り混じって、混濁とした世界に滲んでいった。

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初めてお邪魔します
記事紹介でやって参りました!
何か楽しそうにお暮らしとお見受けしましたが・・・?
言葉にリズムがあるからですね〜きっと!

2008/5/3(土) 午前 3:16 絃玉


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