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只管にエンジンの鼓動とエグゾーストノート、そして路面に集中する。
コーナーに差掛かると身体が反応する……悪い方へ。
こんなところで事故の後遺症か。嘆息する。そして、ヘルメットの中の表情は屹度苦悶の表情だろう。
事故するまでは平気だった速度も、今は2、3割減となっている。コーナーに関しては半分以下だろう。
彼の時よりも良いバイクで、彼の時よりも良いタイヤで、彼の時よりも良い路面の筈なのに。
此れがトラウマか。
駐車場にバイクを停めると、ヘルメットを芝生に投げ付けた。アスファルトの路面に叩き付ける事の出来ない自分に、失望しながら。
革のジャケットから潰れたタバコの箱を取り出すと、中で折れ曲がったタバコを咥えて火を点ける。
身体にはキズ一つ無かったのに。精神的にキズを負ったと言うのか、俺は!
タバコを吸い終えると、ヘルメットを拾い上げ、キズが付かなかっただろうか、と一通り見る。ああ、こんな”みみっちい“事を考えてるから、いけないのだ。もっと、思い切り良く出来れば。
何時だって人は自分と戦い続けている。己との戦いが人生を織り成していくのだ。
俺は。
俺は自分に負け続けているのだろうか。
ヘルメットを被り、グローブを着け、バイクに跨がる。キィを回しセルを押しバイクを始動させる。
もう一度。
もう一度、試してみよう。
此の儘、負け続けるわけにはいかない。彼の時、転倒したのは己の未熟も在ったかもしれない。
が、視界の悪い、初めて通る道で、下見も碌にしていなかったではないか。何度も往復した道で、彼の時と同じ様に転ぶとは思えない。バイクも彼の時廃車にしてしまったバイクではない。
ならば。
意を決すると、俺はアクセルを開きバイクを進めた。
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