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「八丈島・明日葉・ゲルマニウム」で書きます。
もうかれこれ12年ほども前のことになりますが・・・そう役人を辞めたあとのことです。
旧友が急に来て「八丈島に行こうや」と誘ってきた。
はて?急に何故八丈島か?面食らっている私に彼が言うには、以前昼のテレビの番組で有名な司会者が八丈島の明日葉にはゲルマニウムが含まれている。どこかの薬科大学の教授が明日葉の分析データを見せて説明していたとのこと。
気にもかけていなかったのだが、最近になって何かおかしいと思い出した。そう思うとどうしても現地に行って確認したくなった。地質屋の端くれとして私も興味があるだろうと声をかけたのだという。彼の気まぐれに付き合って入られないが、八丈島・明日葉・ゲルマニウム・・・興味を注がれるテーマではある。
確かに「明日葉」には普通の植物にはない成分を持つ素晴らしい植物であること重々承知していたが、ゲルマニウムが入っているとは・・・これいかに?
切り口から出る黄色の液の成分が良いはずだが・・・ゲルマニウム?
彼も私も旧知の仲でかつ共に地学を勉強した間柄。早速地質図を引っ張り出し、八丈島を見たところ、互いに目を合わせ「これは嘘臭いな?」と直感した。それでも万が一可能性は否定できない。自然というものは人間が長年のうちに積み上げてきた経験と実績で得た知識を瞬時に打ち砕くことがよくある。
百聞は一見にしかず。現地確認が事実を証明する。万が一があるのかもしれない。
そんな理由で八丈島行きとなったわけです。もう一人の温泉好きの友人を誘って3人で
八丈島。色気もなく下戸もいる「三匹の侍」ならぬ「三匹の初老」は旅立ったのです。
季節は二月(確か・・・。厚着だった記憶がある。) 福岡ー羽田ー八丈島と飛行機を乗り継いで着いた空港。少しは暖かいだろうと思っていたが意外に寒かった。
バスで街中まで行ってレンタカーを借り、遅い昼食をとった。明日葉を練り込んだ蕎麦だったと思う。ここでしか食べれない蕎麦かもしれない。
初日は車で島巡り。温泉に入り湧水を探した訪ねる。物見遊山の気分で。
車で走ればぐるりと一周できる。
水平線の彼方、沈む夕日の美しさに三人ともしばし言葉を忘れた。
翌朝、一番に役場に向かった。以前テレビで・・・と切り出したところ、対応に出た職員が「又か」という表情を見せた。
名刺を差し出すと、「わざわざ九州からですか・・・。あれのために。」少し複雑な表情でそう言うので、「観光を兼ねてですよ。」と返すなり、職員は「大変だったんですよ。あの放送の後から、電話の問い合わせで職員も明日葉生産業者もてんてこ舞いでした。」
職員の話によると、当初は役場も生産業者も事実ならと喜んだらしい。それではと明日葉の成分にゲルマニウムが含まれるか分析依頼をし、水を調べ、土質を調べたがゲルマニウムのゲの字も出てこない。サンプルが足りないのだろうと再度やり直すが結果は同じことの繰り返し。そこまでは良かったが、全国からの問い合わせが殺到したとのこと役場と生産業者に寝ずの対応が続いたとのこと。
「個人的には・・・」と職員は続けた。「全国の新聞に嘘ですよ。」と広告を載せたいくらいだと言った。今でも問い合わせがちょくちょくあるとのことであった。
人と時間と費用となかには罵倒・・・踏んだり蹴ったりだ。
それではあの放送は何だったのだろうか・・・。職員は自分からは言えないと言った。
確証がないからとのことであった。無責任な発言はもうこりごりであるし、まがりにも役人である。賢明な判断だと思った。
役場を出てから「やっぱりな!」と地質屋の友が言った。
「どういうこと?」温泉好きの彼が聞き返した。
「地質学的には八丈島ではゲルマニウムのゲも可能性としてないということよ。」
私に確認を求めるように両眼を大きく見開いた。
「そうだな。薬学の大学の教授も嵌められたんだろうな。業者に・・多分・・・。」
そう私が言うと 、
「やっぱり、どういうことかまだわからんが・・・?」温泉好きの彼はまだ納得しない。
「結論から言うとだな・・・。」地質屋が切り出した。
結論から言うと、地質学的には八丈島のような玄武岩や安山岩系で成り立つ地層にはゲルマニウムなどのような金属元素は存在しない可能性が非常に高いということである。
99.9999・・・・%の確立でそうである。けれでも万が一、億が一の可能性があるかもしれない。ゲルマニウムは金属の一種である。明日葉が如何に優れた植物でも土壌や水に含まれない金属を自らの能力で作り出せるわけはない。
とりわけゲルマニウムなどの金属は世界的にも偏在性があって鉄などとは違う。
と言って、国内ではまったく存在しないのかと言うとそうでもない。知る限りでは北海道の夕張で石炭層の上層?に微量なゲルマニウムを確認した報告がある。
それと地域によっては湧水にゲルマニウムが微量に含まれている水も有るとか無いとか・・・その可能性は否定できないが肯定もできない。
最近はやたらゲルマニウムが流行っている。少し前に読んだ本にはサルノコシカケ、朝鮮人参などにもゲルマニウムが含有するそうである。自然物の中にはそのようなこともあるかもしれない。その最低条件としては土壌などにゲルマニウムが含まれていることだ。
どんな植物でも自ら金属を作り蓄えると言った植物は未だかって聞いたことが無い。
地質屋が言っていた。ほうれん草には鉄分が豊富に含まれる。確かにそうだ。普通の土壌で育つほうれん草は土壌中の鉄分を吸収するから鉄分を含むわけだ。
そこで鉄を含まない水栽培で鉄を含まない栄養素を与え育ったほうれん草の成分を分析した時に鉄分が含まれているだろうか・・・?
話が八丈島から離れていった。元に戻そう。
温泉好きの彼も納得したみたいであった。
「それじゃ、放送の中身は・・・・何となく見えてきた感じがする。」温泉屋も話の流れが理解できたようだった。そういった後、
「それじゃ、薬学の先生も番組スタッフもそのことを知らなかったんだろうね?」
多分薬学の教授は地質学など知らないだろう。スッタフも同じだろう。けれどもそんなデマに振り回されて消費者や八丈島の関係者がどれだけの迷惑を被ったか。影響力のある報道機関であるだけに厳粛に受け止めてほしい。
明日葉と言う植物はそのような成分がなくても素晴らしい植物で食することで大いに役立っている。今東京では明日葉を使ったジュースなどをその場で作って販売している店があると聞いている。時間に追われてまともに食事を取ることのできない人には評判が良いらしい。10年を過ぎて明日葉もやっと本領発揮と言ったところだろう。と言って生産を優先するために有害性のある農薬などを使用していないことを願う。
ことの顛末が判ったのは翌日。
明日葉の生産業者に会って話をしたところ、最有力な情報として得た内容はこうであった。
伊豆大島にも明日葉があり、その大島に東京の業者が明日葉園を設けたそうである。
業者が何をしたか、明日葉を育てながらゲルマニウムイオンの入った水をセッセとあげたらしい。そして育った明日葉を成分分析に回した結果・・・。ゲルマニウムの検出に至ったということらしい。分析を行った機関がその薬科大学かどうかは判らない。知る必要もない。
どこの分析機関で結果を出しても似たり寄ったりの結果が出たはずだ。社会的に信用力のある分析機関であれば尚更信憑性は高い。著名な先生がマスメディアを通じてそれを発表すれば・・・・。
ところで、この内容が事実の場合、その事業者の目的はなんだったんだろう?明日葉を使って一儲けしたのだろうか?儲けたと言えば八丈島の生産業者ではないんだろうか。
「明日葉」=「八丈島」と思える。
役場の職員は一喜一憂しながら疲れに疲れ徒労に終わった。
薬学の先生はいまだに明日葉にはゲルマニウムがあり・・・などと講義・講演しているのだろうか。それを信じている人たちは数多くいるんだろうか。放送局は訂正したのだろうか。そしてあの業者はまだ儲けまくっているのだろうか。
明日葉は今日摘んでも明日には葉が出ている。それほど生命力の強い植物で、古来から八丈島の人たちには貴重な食材である。
明日葉に限らず、国内には古来から地域地域に根付く素晴らしい食材がある。長い間継承されてきた確かなものだ。大切に継承していく必要がある。
100年、200年で出来上がったものではない。もっともっと長い年月を経て継続して使われてきたもの、そんなものが確かなものと思う。
目先に振り回されない、確信もない言葉に振り回されない。そして確かなものを選択していく眼を持つことが大切な時代になってきた。
肩苦しい話になってきた。
八丈島を書き綴るとまだまだ長いものになる。思い出し思い出し書いているので少しは記憶違いなこともあるかもしれないが、簡単に歴史などに触れておこう。
一番良いのは私がここで書くよりも現地に行くこと。
歴史的には縄文・弥生期の石器や土器が確認されている。本土から海上遠く離れた孤島に縄文・弥生期の形跡があることは驚きで、それぞれの時代にこの孤島に移ってきたのか、それとも地殻変動で孤島として残ったのか考えるだけで想像を絶する。
日本的な歴史観で判断しているが、それは適切なのだろうか?
秦の始皇帝時代のかの有名な徐福伝説もある。徐福さんは国内どこに言っても引っ張りだこである。本当の徐福さんがどんな人物であったかは知らないが、日本では人気のある人物である。
日本史で八丈島が出てくるのは源為朝や戦国期の宇喜多秀家の島流しであろうか?そこまでは載っていなかったか?
いずれにしても島流しにあった人たちは最初のころは政治犯が多かったことだろう。政治犯は本土に住み、教養もあったはずだ。島民は歓迎したと思う。
技術・文化・素養・本土の話、どれをとっても目新しいものばかりであったと思う。
それが江戸期に入って刑事犯が多く送られるようになった。なかには功労者もいただろう。そのような人たちは手厚く葬ってあるようだ。
ご赦免舟の来航を待ちわびた人、来るのを拒む島民もいたのかもしれない。
展望台から海を眺めるとなぜか悲哀を感じる。
有名な織物に黄八丈がある。黄ばかりではなく、黒とかもあったように記憶している。
元々は草木で手をかけて染め上げていたのだろうが、最近ではほとんどが化学染料を使っていることらしい。値段もそれなりだけに残念な気がする。
名物は明日葉やアロエ、パッションフルーツといったものから島焼酎、例のクサヤなどがある。明日葉入れた食品、握り寿司は山葵ではなく洋芥子だった。不思議と合う。
日本で始めて牛乳会社がここで乳牛を始めたとか、明治だったか森永だったかそれともほかのメーカーだったか定かでない。
最も素晴らしいのは自然だ。空と海と山と汚染のない水。そこで出来る食物はやはり安心して食べることが出来る。商品化されたものは添加物があるのかもしれないが・・・。
そして島民の心遣いは島を離れがたい気持ちであった。
次に来る機会があればもう少し時間がほしい。時間があれば新しい発見があるかもしれない。
ゲルマニウムと明日葉に始まった八丈島の2泊3日の三匹の初老達の旅は終わった。
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