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気がつくと、私は多呂左右衛門さんの家にいた。 私は、掻巻(かいまき)をかけてもらって、部屋の中で横になっていたらしい。 目の粗い畳の上で、そのまま横になっていたが、畳は暖かく心地よかった。 多呂左右衛門さんが、箱膳(はこぜん)にのせて、食事を運んできてくれた。 そして掻巻を羽織らせて、座布団を置き、座らせてくれながら話し始めた。 お腹がすいたじゃろう、食べながら話を聞きなされ。 私は、空腹なのに気がついて、素直に箸をとって食べ始める。 おほうとうのような、うどんのようなものだった。 暖かくて、とても美味しい。 味噌の味がする。懐かしい味だった。 お前さんは、今、野夢の世界におるのじゃよ。 普通の人間は、ここに来ることはできん。 ここに来たというのは、なにか理由があったのじゃろう。 心当たりはあるのかね。 そうか、ここがノームの世界なのか。
でも、まったく心当たりなんてなかった。 これから私は、どうなるのだろう? |
第1章.野夢との出会い
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日本のノームのお話です。お話ですから、実在の組織や人とは関係ありません、と言うことにしておいてください。
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私は夢の中で、うつらうつらしていた。 幼いころ、父の背で揺られながら眠りについた時のように、暖かく気持ちがよい。 時々、意識がもどり、山の中を誰かに背負われて、どこかに行く途中だと気がつく。 これもまた夢の続きらしく、世界は巨大な森になったような感覚が消えない。 何だか朝目覚めた時は、森の開けた場所から、明るい青空が見ていたようだが、今は周囲の色があせて見え、背中の方から寒さが伝わってくる。 気がつくと、チラホラと雪が舞い始めていた。 どこかへ帰る途中なのだと言う意識だけはしっかりとしていた。 何も心配することはない。 背負われている背中から伝わってくる暖かさと、規則正しい歩みが心地よい。
私はまた幼い頃の夢に戻っていた。 |
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目を開けると、そこに心配そうに覗き込んでいるお爺さんがいた。 私が目覚めたのに気がつくと、嬉しそうに微笑んで、話しかけてきた。 大丈夫かい? 私は、ぼんやりとしながら、うなずいたのだと思う。 お爺さんも、満足そうにうなずいている。 野夢の多呂左右衛門さんとの出会いは、こうして始まった。 多呂左右衛門さんは、こわばった身体を、優しくさすってくれて、私は次第に意識がはっきりとしてきた。 気分は悪くないのだが、何かがおかしい。 私は、笹の繁みに横たわっていたのだが、笹にしては大き過ぎる。 身体の下に感じていた枯れ葉を見ると、それも見たこともない大きさだった。 そこに普通の十倍はあろうかと思われる蟻が歩いている。 私は、何もかも巨大な森の中にいるのだ!
どうやら私は、まだ夢の中で、目覚めていないらしい。 |
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私は夢をみていたのだろうか? 冷たい冬の林の中で、横たわっている。 そう感じつつ、寒さを感じることもなく、とても平穏な気持ちで、夜明け前の透明な時を意識していた。 周囲に大勢の人の気配がする。 ゆっくり行列を作って、私の周りを歩き回っているようだ。 静かな鐘の音が低く響いている。 私の意識は、また遠のいていった。
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本当の闇を見たのは、いつのことだったのだろう。 今は夜でも空は明るく、足下が見えない闇と出会うことはなかった。 樹々の合間に星空が見えても、その光は道を照らしてはくれない。 いつの間にか、私は道を見失い、林の中をさまよっていた。 闇とともに寒さが身体へ忍び込んでくる。 震えながら、私は歩く。 どこへ向かっているのか、どこへ行くのか? 自分が何でここにいるのか? 何をしたいのか? 何も分からないまま、ただ歩き続ける。 突然、足下から地面が消え、私は闇の中を落ちた。
一瞬、身体が自由になり、宙を舞う感覚だけ鮮明に覚えている。 私は意識ごと闇の中に落ちて行った。 |





