楽興の時・音の絵

相変わらず猛烈に忙しくて、なかなか更新できません。orz

全体表示

[ リスト ]

■映画「実録・連合赤軍―あさま山荘への道程」
2008年4月5日(土)テアトル新宿

 初めに誤解のないように断っておくが、評者は「連合赤軍」を含むいわゆる「新左翼」には何のシンパシーもない。むしろ、1970年代後半以降の日本で、フランスやイタリア、ドイツ程度にも、社会への若者の異議申し立てが起こらない状況をもたらした大きな要因は「連合赤軍事件」であり、「中核」「革労協」対「革マル」などの「内ゲバ」殺人事件だったと考える。さらに、さかのぼれば「新左翼」諸セクトが中国の「文革」とも共鳴しつつ採用した「武装闘争」「暴力革命」路線が、ふつうの若者を異議申し立ての運動から遠ざける要因となったことも否定できないと考えている。

 したがって、この作品への評者の関心も、シンパシーやノスタルジーでは当然ありえず、主として二つに絞られる。一つは、一連の凄惨なリンチ殺人事件がどのように描かれているのか、もう一つは「あさま山荘事件」の最中に犯人たちと管理人の妻との様子がどう描かれているのかということであって、結局のところ、極限状況での人間の生きざまについての関心である。

 従来「連合赤軍事件」を扱った映画といえば、彼・彼女らに寄り添った視点からの作品として立松和平原作・高橋伴明監督の「光の雨」(2001年)があり、対照的に徹底して権力側からの視点にたった作品として佐々淳行原作・原田眞人監督の「突入せよ!あさま山荘事件」(2002年)があった。先の関心からいえば、「危機管理」を飯のタネにする佐々オヤジの鼻白む自慢話ばかりで長野県警からさえ総スカンを食ったという後者は論外だった(警察の「泳がせ」政策の面もあったわけだし)。他方、前者もリンチ事件についてはそれなりに描いていたものの、森恒夫をモデルとした役に山本太郎をキャスティングしたため、いささか噴飯物の仕上がりだったし、「あさま山荘事件」をはじめ全体に坂口弘の手記に依拠したことから、彼の冷静沈着さばかり強調され、疑問の残る作品だった。若松孝二監督といえば「赤軍―PFLP」などの作品で当時から「新左翼」へのシンパシーを露骨に表明してきた。その意味で作品のスタンスは初めから見えている。だが、過去の二作品を超える「実録」的再現がなされているかどうかには興味があった。

 その点でいえば、この作品全体の半分近くを占める山岳アジトでの「軍事訓練」とその最中に「総括」の名でおこなわれた凄惨なリンチ殺人の実態が、まさに「実録」として周到に描かれていることは認めておきたい。なかでも、遠山美枝子(坂井真紀)が自分への「総括」として自分の顔を殴るよう強要される場面は凄まじく、その後の特殊メイクも駆使した腫れあがり歪みきった表情には戦慄を覚える。同時に、部下たちに「スターリン主義とのたたかい」「プチブル主義との思想闘争」を口実に「総括」と称してリンチをくわえるリーダー格の森恒夫(地曳豪)と永田洋子(並木愛枝)こそが、実はもっとも「スターリニスト的」であり、かつ「プチブル的」(嫌な言葉!)であるというパラドックスが鮮やかに浮き彫りになってくるところも興味深く見た。東京都内のラブホテルでの森・永田の関係を示す短いカットの挿入は秀逸。「やらなければやられる」という極限状態での集団心理が「粛清」行動を拡大していった状況が、まさしく1930〜40年代のスターリン体制下のソ連と相似形だったことも浮かび上がってくる。

 にもかかわらず、おそらくは坂口弘手記に多くを依拠していることから、もう一方の「あさま山荘事件」の場面をはじめとして、彼が相対的に冷静な存在として描かれるという構図は、この作品の場合も免れておらず、そこにリアリティの弱さを感じる。坂口弘手記(全3冊)は昔読んだことがあるが、そこから自己弁護の部分を慎重に剥ぎとっていく作業が必要ではないのか。この作品が「あさま山荘事件」のところになると、描き方がとたんに「連合赤軍」の坂口や坂東らの自己中心的ヒロイズムにべったり寄り添ったものになるため、画面からも緊張感がなくなっていくことは否定しようがない。結論的にいって、加藤三兄弟の一番下の「勇気が無かった」という科白ですませられる問題なのか。

 演技は、関西弁が関西弁になっていない塩見孝也役は困ったものだが、坂井真紀、地曳剛、並木愛枝をはじめ、中心的な登場人物に扮した役者たちの迫真の演技は、それとして評価しておきたい。特に、永田洋子に扮する並木のキツネ目の眼光は鬼気迫るものがある。犯人たちに監禁される「あさま山荘」管理人の妻に扮した奥貫薫は「三丁目の夕日」「カーテンコール」に続いて、不幸を背負った女性を演じたら天下一品だと、いつもながら感心する。

 余談を一つ。評者は学生時代からヘルメットにマスク姿の人にはなるだけ近づかないようにしているが、映画館の中に帽子と眼鏡とマスクという観客が何人かいて、一瞬ギョッとした。この時期、花粉症の人とセクトの人とは見分けがつきにくい。

【データ】
 監督・製作:若松孝二
 音楽:ジム・オルーク
 ナレーション:原田芳雄

 遠山美枝子:坂井真紀
 森恒夫:地曳豪
 坂口弘:ARATA
 坂東國男:大西信満
 植垣康博:中泉英雄
 青砥幹夫:伊達建士
 重信房子:伴杏里
 永田洋子:並木愛枝
 さらぎ徳二:佐野史郎
 あさま山荘の管理人:奥貫薫

閉じる コメント(4)

私はまだこの映画を見ていませんが、この文章は大変参考になりました。クラシックには全く疎いのですが、面白い映画があったら教えてください。今まで、訪問者履歴を消していましたが、表示しておくことにします。

2008/4/8(火) 午前 0:46 亜蘭澄士

顔アイコン

亜蘭澄士さん、ようこそお越しくださいました。拙者は観る映画の傾向が思いっきり偏っているので、参考になるとは思えませんが、これからもよろしくお願いいたします。

2008/4/9(水) 午前 1:51 [ dsch1963 ]

新たなブログをつくりました。邦画専門です。連赤についての記事をTBさせてください。

2009/5/24(日) 午後 0:52 亜蘭澄士

顔アイコン

> 亜蘭澄士様。ご訪問&トラバ、ありがとうございました。こちらは最近、あまり映画を観にいっていないのですが、貴兄の新しいブログを興味深く拝読しました。ひきつづきよろしくお願いいたします。

2009/5/24(日) 午後 7:24 [ dsch1963 ]

開く トラックバック(1)


.
dsch1963
dsch1963
男性 / O型
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

過去の記事一覧

標準グループ

よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

ふるさと納税サイト『さとふる』
お米、お肉などの好きなお礼品を選べる
毎日人気ランキング更新中!
ふるさと納税サイト『さとふる』
11/30まで5周年記念キャンペーン中!
Amazonギフト券1000円分当たる!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事