|
■国立劇場第186回文楽公演・夜の部「天変斯止嵐后晴」
2009年9月5日(土)18時30分開演 国立劇場小劇場
シェイクスピアの「テンペスト」を文楽に翻案した作品。標題は「天変斯止嵐后晴」と書いて「てんぺすとあらしのちはれ」と読ませるらしい。1992年に大阪近鉄アート館、続いて東京パナソニック・グローブ座で上演され、7月に大阪の国立文楽劇場で17年ぶりに再演されていた。それが9月の東京・国立劇場文楽公演「夜の部」に登場したので、初日を観た。チケットをとってから、この日は東京交響楽団のシベリウス「テンペスト」演奏会とぶつかっていることに気づいたが、これは「後の祭り」で仕方がない。あらすじは以下のとおり。
嵐で流された一艘の御座船。船に乗っていた筑紫大領一行は南海の孤島に漂着します。筑紫大領らは森をさまよい、一行とはぐれた大領の息・春太郎は島の娘・美登里と出会い、恋に落ちます。しかし、すべての出来事は、大領によって国を追われた阿蘇左衛門の壮大な復讐だった。妖精や魔法が登場する不思議な世界で物語が展開するロマンス劇「テンペスト」――このシェイクスピア最後の大作を、舞台を中世日本に置き換えて浄瑠璃に翻案し、平成4年に初演された「天変斯止嵐后晴」が、装いも新たに9月文楽公演に登場します。(公演チラシより)
登場人物の複雑なシェイクスピアの原作から、かなり人物を整理しているが、話の筋書き自体は、舞台を日本に置き換えている以外は、そんなに大きく変更しているわけではない。ちなみに、原作の役名と「文楽版」の役名とは、次のような対照になっている。
アロンゾー=筑紫大領秋実
プロスペロー=阿蘇左衛門藤則
アントーニオ=刑部景隆
ファーディナンド=春太郎
ゴンザーロー=日田権左衛門
キャリバン=泥亀丸
ステファノー=茶坊主珍才
ミランダ=美登里
エアリアル=英里彦
つまり、アロンゾーの弟セバスティアンや、貴族のエードリアンとフランシスコー、道化のトリンキュローを省略していることが分かる。
魔法や妖精の登場する作品世界を文楽にどう置き換えるのかが見ものだが、エアリアル=英里彦の人形をひらひらと宙に舞わせ、そこではハープのグリッサンドのような奏法で琴を弾かせて、軽やかな飛び交う様子を表現する。人間国宝・鶴澤清治がつけた文楽三味線の音曲も、古典作品の場合に比べて半音階などを多用し、イリュージョンを感じさせ、西洋風のテイストをなかなか巧みに表現する。近松などの古典作品の場合のような深い感動が得られるわけではないが、新しいジャンルに挑戦した意欲作として、面白く見ることができた。夜の部ということもあってか、通常の文楽公演よりも若いカップルなどの観客が多かった。こういう人たちが、古典作品も見にくるようになってくれればと思う。
【データ】
作:シェイクスピア「テンペスト(あらし)」より
脚本・演出:山田庄市
作曲:鶴澤清治
作調:望月太明蔵
《第1・暴風雨》
竹澤宗助、野澤喜一朗、鶴澤清志郎(琴)、鶴澤清馗、鶴澤清𠀋、豊澤龍爾、鶴澤寛太郎
《第2・窟の中》《第3・浜辺》
竹本千歳大夫
鶴澤清介、鶴澤清志郎(琴)
《第4・森の中》《第5・元の窟の中》
豊竹呂勢大夫
鶴澤清治、鶴澤清志郎(琴)
《第6・元の森の中》
泥亀丸、大領:竹本文字久大夫
珍才、英理彦、権左衛門:豊竹咲甫大夫
刑部:竹本相子大夫
竹澤宗助、鶴澤清志郎(琴・ツレ)、鶴澤清馗(ツレ)、鶴澤清𠀋(琴・ツレ)
《第7・元の窟の中》
左衛門:竹本千歳大夫
大領、泥亀丸:竹本文字久大夫
美登里、英里彦:豊竹呂勢大夫
春太郎、珍才、権左衛門:竹本相子大夫
竹澤宗助、鶴澤清志郎(琴・ツレ)、鶴澤清馗、鶴澤清𠀋、鶴澤清公
阿蘇左衛門藤則:吉田玉女
美登里:桐竹勘十郎
英里彦:吉田簑二郎
泥亀丸:吉田文司
筑紫大領秋実:吉田玉也
日田権左衛門:吉田勘市
刑部景隆:吉田玉佳
春太郎:吉田和生
茶坊主珍才:吉田勘緑
妖精:大ぜい
|