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■藤原歌劇団公演――フランシス・プーランク「カルメル会修道女の対話」
2010年2月7日(日)15時開演 東京文化会館大ホール
フランシス・プーランク(1899〜1963)の「カルメル会修道女の対話」は、何度聴いてもやりきれない思いの残る作品だ。フランス革命がロベスピエールらによる「恐怖政治」へと展開するなかで、1792年9月に追放処分となった「カルメル会修道院」の女性たちが、コンピエーニュ市内に隠れ住んで修道院時代と同様の祈りの生活を続けていたが、1794年6月に告発されて逮捕され、革命裁判所によって死刑宣告されて、1794年7月17日に16人が一斉に処刑された。この悲劇的な歴史上の事件を素材にしたオペラだからだ。
この歴史上の事件をふまえつつ、ドイツの女性作家ゲルトルート・フォン・ル・フォール(1876〜1971)が1931年、ブランシュ・ド・ラ・フォルスという架空の女性を主人公に設定し、小説『断頭台の最後の女』を発表した。さらに、この小説の仏語訳を読んだフランスの作家ジョルジョ・ベルナノス(1888〜1948)が、第2次世界大戦後の1947〜48年、小説に大胆な加工をくわえて戯曲化した。しかし、ベルナノスは、映画用台本として書いたこの戯曲が上演されるのを見ないまま世を去り、残された作品は結局のところ演劇作品として独訳され、1951年にチューリヒで初演されて成功を収める。そして、プーランクは、ミラノのリコルディ出版社から、この戯曲をオペラの題材として提示され、1953年8月から1956年6月までの2年10カ月をかけて完成させた。こうして複雑な経過をたどったが、もともとフランス革命下のジャコバン独裁時代に起きた悲劇的実話をもとにした作品だけに、気の滅入る作品であることは否定しようがない。プーランクの宗教曲といえば「スターバト・マーテル」「グローリア」など荘厳で美しい合唱曲が多いと思うが、管理人はカトリックの信仰の境地がよく理解できていないうえに、フランス革命の時期にカトリック教会がアンシャン・レジームの主要な柱だったことを考えると、カルメル会修道女たちの悲劇に過度の思い入れをする気持ちは、どうしても起こってこないのだ。
この作品を実演で見るのは2度目。1度目は昨年の新国立劇場オペラ研修所の公演で観たが、今回は藤原歌劇団による公演。藤原歌劇団といえば、イタリア・オペラの印象が強いが、これまでもマスネの作品などフランス・オペラもそれなりにとりあげているので、期待も抱きながら見に行った。
演奏自体は、全体になかなか健闘していたのではないだろうか。フランスの指揮者アラン・ギンガルは、これまでも藤原歌劇団とは3回共演していて、今回は4度目になるそうだが、作品を掌中に収めていて、特段の面白みはないが、東フィルを手堅くまとめている。東フィルは、響きの薄さは否めないが、重たくならず透明感があった点は評価しておきたい。
歌手では、女性歌手陣がフランス語の発音に苦労していた様子はうかがえるものの、ベテラン・若手ともそれぞれ持ち味を発揮した。最も印象に残ったのは、若手の方では、コンスタンスを演じた大貫裕子は今回藤原歌劇団の公演としてはデビューだったそうだが、抜けのよい高音と正確な歌唱が光るとともに、演技でもコケットな面をだしていた。彼女が1年半前、東京室内歌劇場「夜長姫と耳男」で素晴らしい歌唱を聴かせていたことを思い出した。主役の佐藤亜希子も若手ソプラノで、今回のブランシュ役は大抜擢ということだろう。表現がやや勢いに任せている感なきにしもあらずだが、声はよく飛んできている。ベテランの方では、クロワシー修道院長を演じた郡愛子は、オペラの舞台で久々に見たような気がするが、死の恐怖を乗り越えることができず苦悩する院長の姿を歌・演技の両面で豊かな表現力をもって描いている。他方、後任のリドワーヌ修道院長を演じた本宮寛子は、低い音のところで声量がやや足りないきらいはあるものの、気品のある格調高い歌声で、とくに第3幕第3場での凛とした歌唱は説得力があった。マザー・マリーの牧野真由美も深みのある歌唱だ。男声陣では、司祭の所谷直生の声がよく飛んできていた。
松本重孝の演出は、オーソドックスなものだが、決して古臭い感じはしない。冒頭のド・ラ・フォルス侯爵の書斎の場面がずいぶん歴史主義的、写実的だったが、その後は取りたてて変わったことをしてはいないものの、柱のようにも見える4本の黒い布をうまく活用して場面転換していた。暗転で作品の流れが止まることなく、手際のよい舞台回しになっていたのは良かった。最後の断頭台の場面は、舞台奥にギロチンの図をシルエットでだしていたが、効果音にあわせて、舞台上に一列に並んだ修道女たちが「サルヴェ・レジーナ」を合唱で歌いながら、ひとりまたひとりと倒れていくという象徴的なやり方を採用していた。最後に現れたブランシュが倒れて、彼女たちの姿に照明があてられると十字架のように見えるというのが、演出家が幕切れに見せたかった絵柄なのだろう。
あまり上演機会のない作品を、きちんとまとまった舞台にしていて、まずは楽しめる舞台になっていたのではないだろうか。
【データ】
指揮:アラン・ギンガル
演出:松本重孝
ド・ラ・フォルス侯爵:三浦克次
ブランシュ・ド・ラ・フォルス:佐藤亜希子
騎士フォルス:小山陽二郎
クロワシー修道院長:郡愛子
リドワーヌ修道院長:本宮寛子
マザー・マリー:牧野真由美
コンスタンス修道女:大貫裕子
マザー・ジャンヌ:二渡加津子
マティルド修道女:松浦麗
司祭:所谷直生
第1の人民委員:川久保博史
第2の人民委員:清水良一
ジャヴリノ(医師):柿沼伸美
役人:羽渕浩樹
ティエリー(従僕)/看守:坂本伸司
マザー・ジェラール:家田紀子
クレール修道女:吉村恵
アントワーヌ修道女:立川かずさ
カトリーヌ修道女:清水理恵
フェリシティ修道女:村瀬美和
ジェルトリュード修道女:安達さおり
アリース修道女:宮本彩音
ヴァランティーヌ修道女:渡辺ローザ
アン修道女:吉田郁恵
マルタ修道女:山崎知子
シャルレ修道女:但馬由香
合唱:藤原歌劇団合唱部
助演:大西啓善、鈴木光
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
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4階席からでしたので、同じ衣装の修道女の違いに戸惑うことも多くありましたが(読まれると違うと思われるかもしれませんが)同じような感想を持ちました。
クロワシー院長は、双眼鏡から観ても爪の話とか、結構、怖かったです(笑)。
2010/2/8(月) 午前 6:14
> IRIGOMI45様。貴兄の記事も拝読しましたが、たしかに共通する感想でした。(笑)
2010/2/9(火) 午前 1:36 [ dsch1963 ]
こんばんは。私も日曜日の公演を見に行きました。
二十世紀オペラの中で極めつけに好きな作品なのですが、
昨年のオペラ研修所の公演を見に行けませんでしたので
今回はじめて実演に接しました。
ラストの場面は何度も映像で見たり、CDで聴いたりしていたのですが、
生の舞台ではさらに衝撃的で、もう涙が止まりませんでした。
演出も独唱も合唱も気合いが入っていましたが、
オケには不満を持ちました。
管楽器は外しまくり、アンサンブルも狂いまくり。
弦もぼやけるところが多くて、
ちゃんと練習してきたのか?と問い詰めたい気分でした。
それでも、音楽の力のほうが勝って聴かせていたのが
さすがでしたけど。
2010/2/9(火) 午前 2:06 [ 鉄平ちゃん ]
> 鉄平ちゃん様。はじめまして。コメントありがとうございます。拙者は、プーランクの音楽は割と好きなのですが、この作品の世界観にはちょっとついていけないところがあって、あまり聴きこんでいません。貴兄のオケへの不満は、なるほどと思って拝読しました。
2010/2/9(火) 午前 3:22 [ dsch1963 ]