楽興の時・音の絵

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映画

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■映画「オーケストラ!」
2010年4月19日(月) 渋谷・ル・シネマ1

 原題は「Le Concert」。封切り日に見た職場の先輩が面白かったというので観に行ったが、他のブログでは最後に涙したという感想もあるようだが、私見では、これは感動的な作品というより、かなり荒唐無稽なギャグ映画と言ったほうがよさそうだ。あらすじは以下のとおり。

 劇場清掃員として働く冴えない中年男アンドレイ・フィリポフ(アレクセイ・グシュコブ)は、かつてはロシア・ボリショイ交響楽団で主席を務めた天才指揮者だった。彼は、共産主義時代、“ユダヤ主義者と人民の敵”と称されたユダヤ系の演奏家たち全員の排斥を拒絶、名声の絶頂期に解雇されたのだった。ある日、清掃中にアンドレイは、1枚のFAXを目にする。それは、演奏を取りやめたサンフランシスコ交響楽団の代わりに、パリのプレイエルに出演するオーケストラを2週間以内に見つけたいという内容だった。その瞬間、彼は、かつての仲間を集めて偽のオーケストラを結成、ボリショイ交響楽団代表としてパリに乗り込むことを思いつく。アンドレイはまず、元チェロ奏者で今は救急車の運転手・サシャ・グロスマン(ドミトリー・ナザロフ)に話を持ちかける。サシャは呆気にとられるが、アンドレイの熱意に押され、気がつけばアンドレイを救急車に乗せて昔の仲間を訪ねていた。タクシー運転手、蚤の市業者、ポルノ映画の効果音担当……モスクワの片隅でかろうじて生計をたてている彼らのほとんどが、アンドレイの荒唐無稽な誘いを二つ返事で承諾する。演奏曲はチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲、ソリストは若手スター、アンヌ=マリー・ジャケ(メラニー・ロラン)を指名。問題のパスポートも、ジプシーのヴァイオリン奏者が24時間で全員の偽造品を調達し、遂に寄せ集めオーケストラはパリへと旅立っていった。到着早々、アンドレイのもとにアンヌ=マリーのマネージャー、ギレーヌ・ドゥ・ラ・リヴィエール(ミュウ=ミュウ)が現れ、彼とは旧知の仲らしい彼女は、アンヌ=マリーに話すつもりかと何かをきつく口止めする。コンサートを前に、夕食を共にするアンヌ=マリーとアンドレイ。そこでアンドレイは、究極のハーモニーに到達できたはずのレアというヴァイオリニストの悲しい運命を語り始めるのだった……。(Movie Walkerより)

 旧ソ連のユダヤ人排斥政策が作品の背景にあり、ブレジネフ政権下の1970年代末ごろに、楽員たちとヴァイオリンのソリストを守ろうとした指揮者が、当時のKGBによって失脚させられたという設定だ。こう書くと、旧ソ連の抑圧的な体制に対する政治批判の映画ということになるのだが、すでにソ連が崩壊して20年近く経っているわけだから、そこには現在のロシアの社会状況へのパロディもこめられている。たとえば、主人公アンドレイの妻は、ロシアのガス王の愛人のパーティから、ロシア連邦共産党の街頭政治集会まで、主催者の依頼を受けて「サクラ」をかき集めて送りこむ商売で生計を立てているという設定だが、そこに成金とマフィアが跋扈するロシアの社会状況がブラック・ジョークで描かれている。他方、主人公らはフランス語が達者だからという理由で、30年前に彼らを失脚させた当時のボリショイの支配人でKGBの手先だった人物イワン・ガヴリローフにマネージメント役を依頼し、この人物イワンはフランスに行きたいばかりに、それを喜んで引き受ける。だが、イワンは旧ソ連体制下の自分の行為を反省しているわけではなく、旧体制の復活と、フランス共産党との連帯の強化をくわだてている。このイワンの設定がブラック・ジョークだし、かつて「ソ連共産党の長女」とも言われたほどフランス共産党がソ連の強い影響下におかれ、第2次世界大戦終結直後から1980年ごろまでは2割以上の支持率を誇っていたが、1990年代初頭にソ連が崩壊して以降急速に支持を失い、いまや泡沫政党になってしまったことが風刺されている。この作品はフランス本国でヒットしたそうだが、このあたりにいまのフランスで共産党がどう見られているかの一端がうかがえる。

 もっとも、書くとネタバレになるので控えるが、しっとりと叙情的な場面もある。そこに登場するフランスで売出し中の若手ヴァイオリニスト、アンヌ=マリー・ジャケ役を演じているメラニー・ロランは、金髪の美女で、後半は彼女を見ているだけでも楽しい。彼女のマネジャー役であるギレーヌ役のミュウ=ミュウは、久々に観たが味がある。物語としても音楽的にも、最後のチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲の12分バージョンが見どころだが、物語としてはかなりベタな筋だ。また、途中でマーラー「巨人」の第3楽章が出てくるところが印象的。なお、エンドロールによれば、演奏場面を実際に担当しているのは、ボリショイをはじめとするロシアのオケではなく、どうもブダペスト交響楽団らしい。演奏は多少ゆるい。

【データ】
 監督:ラデュ・ミハイレアニュ
 脚本:ラデュ・ミハイレアニュ、アラン=ミシェル・ブラン
 脚本協力:マシュー・ロビンス
 音楽:アルマン・アマール
 製作:アラン・アタル
 撮影監督:ローラン・ダイアン
 美術:クリスチャン・ニクレスク
 衣装:ヴィオリカ・ペトロヴィッチ

 アンドレイ・フィリポフ:アレクセイ・グシュコフ
 サーシャ・グロスマン:ドミドリー・ナザロフ
 アンヌ=マリー・ジャケ:メラニー・ロラン
 オリヴィエ・デュプレシ:フランソワ・ベルレアン
 ギレーヌ・ドゥ・ラ・リヴィエール:ミュウ=ミュウ
 イワン・ガヴリローフ:ヴァレリー・バリノフ
 ジャン=ポール・カレル:リオネル・アベランスキ
 ヴィクトル・ヴィキッチ:アレクサンドル・コミッサロフ
 “トゥル・ノルマン”の店主:ラムジー・ベディア

 2009年、フランス、124分

閉じる コメント(6)

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「シャネル&ストラヴィンスキー」を見に行った際に
予告編を見て面白そうだなと思いました。
まあ「のだめカンタービレ」と同じく、クラシックに縁がない人にも
クラシックを身近に感じてもらえる映画としてはいいのかもしれませんね。
チャイコのvn協奏曲を映画館で12分見られるだけでも期待しています。

ちなみに「のだめ」のピアノはラン・ランが吹き替えしていましたが、
彼の演奏とは思えない平凡な演奏でがっくり。
映画自体はよかったのですが。

2010/4/20(火) 午後 5:57 [ 鉄平ちゃん ]

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> 鉄平ちゃん様。いささかドタバタのところはあるけれど、娯楽映画としては楽しめます。成金「ガス王」がクラシック好きで、下手くそなチェロを弾くという場面は爆笑しました。なぜ主人公の指揮者アンドレイ・フィリポフが交響曲や管弦楽曲でなく、協奏曲にこだわったのか、そこが次第に浮かび上がる趣向も面白いですね。

2010/4/20(火) 午後 10:40 [ dsch1963 ]

私も見てきましたがdschさんの記事が大変参考になりました。
フランスらしい皮肉タップ入りのギャグ映画という感じですね。それでも、最後は泣けてきました。やっぱり、チャイコのヴァイオリンコンチェルトのメロディーの力は大きいと感じました。

2010/4/28(水) 午前 0:52 [ sakurita1956 ]

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> sakurita1956様。貴ブログで過分の評価をいただき恐縮です。ネタバレになったとしたら申し訳ないのですが、ほんとに皮肉たっぷり、ギャグ満載の映画ですね。

ところで、今になって気づいたのは、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲が初演当時、音楽批評家のエドゥアルト・ハンスリックによって「悪臭を放つ音楽」と酷評されたという事実です。そのハンスリックは、本人は否定していたようですが、母方がユダヤ系の家系だったと言われています。この映画ではユダヤ人の母と子の関係が重要な柱になっていますが、ハンスリックの忌み嫌ったチャイコフスキーの作品がそのことと密接にかかわっているというのは、なんとも皮肉な設定ということに気づかされました。もしも監督がそこまで視野に入れていたのだとしたら、その入念さに脱帽するしかありません。

2010/4/29(木) 午前 2:47 [ dsch1963 ]

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ボクも観てきました。理屈ありで楽しめて(周到の準備と愛憎の入り混じった監督のロシア感がそこここに)、理屈なしで楽しめる映画だと思います。展開がベタという意味ではヴァイオリニストの素性を早い段階ではっきりさせてしまったので最後はああなるのかと想像していました。エンディングが少々唐突かと思っていましたが全体として、とても面白かったです。例の「安物のウォッカ」臭なるものは一方でスラヴ的だと書かれます。確かにご指摘の点で深いかもしれませんね。

2010/5/2(日) 午前 6:49 irigomi45

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> IRIGOMI45様。理屈ありで楽しめて、理屈抜きで楽しめるとは名言です。ベタな展開と上で書きましたが、それはエンタテインメント作品としてありかな、と思っています。

2010/5/2(日) 午前 8:23 [ dsch1963 ]


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