楽興の時・音の絵

相変わらず猛烈に忙しくて、なかなか更新できません。orz

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■サイトウ・キネン・フェスティバル――R.シュトラウス「サロメ」
2010年8月30日(月)19時開演 まつもと市民芸術館

 信州の2日目は、レンタカーで上田市まで足を延ばし「無言館」「信濃デッサン館」に行った後、美ヶ原高原をドライブしてきた。「無言館」は、窪島誠一郎氏により、信濃デッサン館の分館として1997年に開館した美術館。第2次世界大戦中、志半ばで戦場に散った画学生たちの残した絵画や作品、イーゼルなどの愛用品を収蔵・展示している。2008年9月から、無言館第二展示館(「傷ついた画布のドーム」)がオープンした。「無言館」を訪ねるのは3回目だが、第二展示館ができてからは初めて。戦争で若い命を散らした画学生たちの遺作に接するたびに、粛然とした気持ちになる。「信濃デッサン館」は、以前に観たとき以降に内部を改修したようで、説明文が見やすくなっていた。その近くにある前山寺に参拝。ここの「くるみおはぎ」は美味しい。午後は山間の林道を抜けて美ヶ原まで登り、美ヶ原高原美術館を見学。松本に帰着し、夕食を「木曽屋」で済ませてから、まつもと市民芸術館へ足を運ぶ。

 今年のサイトウ・キネン・フェスティバルは、小澤征爾氏の健康問題があって、もともとオペラ公演の指揮は、イスラエル出身の若手指揮者オメール・メイア・ヴェルバーがつとめることになっていた。1981年生まれで、今年29歳、イスラエル歌劇場のレジデントとして経験を積んだ後、ベルリン州立歌劇場やミラノ・スカラ座でダニエル・バレンボイムのアシスタントをつとめており、2011/12年のシーズンから、スペインのバレンシア州立管弦楽団音楽監督に就任することになっている。そういう若い指揮者が抜擢されたことは喜ばしい。ヴェルバーの指揮は、全体に速めのテンポで勢いがよい。サイトウ・キネン・オーケストラは、さすがに名手ぞろいだけあって、公演を4回重ねてアンサンブルもまとまり、特に弦のクリアーの響きが見事。「7つのヴェールの踊り」では、渡辺克也のオーボエソロが冴える。しかしながら、全体として、R.シュトラウス作品にしては官能性、濃厚な艶やかさに欠ける気がした。ヴェルバーの指揮がやや一本調子なので、もう少しタメをきかせるようなところがあってもよかったのではないか。

 今回「サロメ」でタイトルロールをつとめたのはデボラ・ヴォイト。管理人の口の悪い友人が、デボラ・ヴォイト、ジェーン・イーグレン、アレッサンドラ・マークの3人を「世界三大ソプラノ」と呼んでいたことがある。「三大」とは体格がでかいという意味だった。そのヴォイトが、2006年のMET来日公演で「ワルキューレ」のジークリンデを歌ったとき、以前より随分スレンダーになっていたのに驚いた記憶がある。当時聞こえてきた話では、数カ月後に今回のプロダクションと同じシカゴ・リリック・オペラの「サロメ」を歌うことになっていたため、思い切って減量したということだった。その体型を今も維持しており、平均よりはふくよかだが、ビヤ樽からは脱却している。そうでなくてはサロメを演じるには厳しいだろう。ヴォイトの歌唱は、途中セーブモード気味のところや、ヴィブラート過多に思われるところもあり、そうした点に多少不満は残ったが、絶叫型ではなく、愛らしさも感じさせる歌い方だったことは好感をもった。最後のモノローグに山をもってきて、さすがにそこでは場内をひきつけた。

 他の歌手は総じて水準が高かった。ヨハナーンのアラン・ヘルドは、パワーを前面に押し出すが、なおかつ格調のある歌唱。ヘロデ役のキム・ペグリーは、京劇のようなメイク、孔雀の羽根でつくった冠をまとい、演技面で野卑な感じを出しながらも、歌い方は下品にならず一線を守る。ヘロディアスのジェーン・ヘンシェルは、威風堂々たるベテランの風格で、存在感が際立つ。また、ナラボート役の代役で登場したショーン・パニカーというスリランカ系米国人は、端正で伸びやかな歌声が心地よく、予想外によかった。

 女性演出家フランチェスカ・ザンベロの演出は、大きな読み替えはしておらず、オーソドックスなもの。彼女は、時代設定なども特に新しくしていないが、演出ノートに「現代人が《サロメ》の中に見出すのは、鋭く洞察された、ある崩壊した家庭の姿だろう。義理の娘、養父、実母という三角関係は、私たちが日々、日常生活の中で目にしている情景である」としたためており、時代設定を特に新しくしていないが、この作品のもつ普遍性を表現しようとしたのだろう。以前マリインスキー劇場の「リング」来日公演の装置を扱っていたジョージ・シーピン(ツィーピンと表記していたように思う)が担当した舞台装置は、それなりにモダンな印象を与える。舞台中央に半透明のロートのような装置がこしらえられ、そこを「ジョーズ」に出てくるサメ除けの檻のようなゴンドラが上下して、ヨハナーンの幽閉されている地下牢との間を行き来する。ゴンドラ以外の装置が基本的に動かないが、照明の色と当て方によって舞台の印象が変幻自在に変わる。

 演出上目をひく個所もいくつかあった。一瞬だがヨハナーンがサロメを抱きすくめるような動作をとり、この二人が通じ合った局面があったかのような印象を与えたことは、とくに注目されよう。「7つのヴェールの踊り」ではヴォイトも踊るが、それ以外に6人のダンサーが舞うという趣向を採用。この場面で面白かったのは、ヘロディアスの所作が結構細かく付けられ、サロメを触ろうとするヘロデの前に立ちはだかったり、ヘロデのもちだす宝石箱を見て、それを我が物にしようとそっと隠したりするなど、ヘロディアスの嫌らしさが巧みに表現されていたことだ。また、最後にサロメを殺すのは、首切り人ラーマンという設定にしているのも注目した。ただ、全体を通じてのコンセプトは必ずしも明瞭ではないように思われた。

 たいへん気になったのは、客席に空席が目立ったこと。小澤征爾氏が振らないとなると、チケットの売れ行きが落ちるという苦労があったようだ。もっとも、こちらは夏休みの予定の決まるのが遅れても、この公演に接することができるという恩恵を蒙ったわけだが…。それに、若い指揮者に活躍の場が与えられたのは大いに喜ぶべきことだろう。ただ、オーケストラコンサートも下野竜也に交代し、ご自身は一昔前のCM「オー人事」の印象が強いチャイコフスキー「弦楽セレナード」第1楽章しか振らないことになったと聞く。どこの世界も「脱オザワ」はなかなか難しく、一朝一夕ではいかないということだろうか。

 終演後、浅間温泉の宿に戻り、源泉かけ流しの湯でゆっくりと一日の疲れを癒す。翌日(3日目)は、レンタカーで中山道和田宿(長和町)と平出遺跡(塩尻市)を訪ねてから松本に戻り、帰京した。

【データ】
 演出:フランチェスカ・サンベロ
 再演演出:クリスティアン・ラス
 装置:ジョージ・シーピン
 衣裳:タティアナ・ノギノヴァ
 照明:リック・フィッシャー
 振付:ジェーン・コンフォート

 サロメ:デボラ・ヴォイト
 ヘロディアス:ジェーン・ヘンシェル
 ヘロデ:キム・ペグリー
 ヨハナーン:アラン・ヘルド
 ナラボート:ショーン・パニカー(ディミトリ・ピタスの代役)
 ヘロディアスの小姓:キャサリン・ティア
 5人のユダヤ人1:デニス・ピーターソン
 5人のユダヤ人2:マーセル・ベクマン
 5人のユダヤ人3:マシュー・オニール
 5人のユダヤ人4:アーロン・ペグラム
 5人のユダヤ人5:清水宏樹(スティーヴン・ヒュームズの代役)
 兵士1:山下浩司
 兵士2:デニズ・ビシュニャ(スティーヴン・ヒュームズの代役)
 ナザレ人1:青山貴
 ナザレ人2:大槻孝志
 カッパドキア人:町英和
 奴隷:志田雄啓
 ナーマン(首切り人):マークアーサー・ジョンソン
 ダンサー:ヤエル・レヴィティン・サバン/東京シティ・バレエ団

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松本まで聴きに行かれたとはうらやましいです。
夏のこの時期は本当に忙しくって、
ザルツブルグに行っただの、バイロイトに行っただのと、
みなさんの話をうらやましく聞くしかありません。
せめて松本ぐらい、とは思ってはいるんですけどね。
でも集客に苦労していたのですか。
「脱オザワ」は難しいとは、そんなにうまいことを言わないでも(笑)。

2010/9/4(土) 午後 0:24 [ 鉄平ちゃん ]

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> 鉄平ちゃん様。佐渡に2泊3日もいいじゃないですか。こちらも仕事の都合上、夏休みが細切れになったため、せめて涼しいところで音楽でもと考え、SKFの「サロメ」の席が残っていたので、思い切って足を運ぶことにしました。ただ、松本は日中35℃を超え、避暑にはなりませんでした。

最後につまらないことを書きましたが、小澤征爾さんの体調回復と引き続くご活躍は期待しています。その点はくれぐれも誤解の無きよう。(笑)

2010/9/4(土) 午後 5:55 [ dsch1963 ]

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こんにちは。
ごぶさたいたしてしまいました。

ヴォイトは「ダイエット以前」の方が声に透明感があったように感じました。
指揮者の余裕の無さはあったものの、器楽的にみるとなかなかの水準であり、むしろ演奏会形式が良かったかもと、思い起こしております。
小澤さんは過去「エレクトラ」の録音で大失敗の実績があり、サロメなどもってのほかと思っていたら若手に変更になったので鑑賞しにいってしまいました。
昨年の戦争レクイエムは小澤さんの音楽センスと作品が一致してたいへんすばらしかっただけに、今後はとにかく「できるもの」をお願いしたいところです。
失礼いたしました。

2010/9/4(土) 午後 7:29 [ - ]

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小澤氏の「エレクトラ」といえば、ベーレンス、ルートヴィヒ、セクンデという豪華キャストによるライヴ盤ですね。拙者は「東京のオペラの森」で、R.カーセン演出、ポラスキ、バルツァ、ゴーキーというキャストで振ったのを聴きましたが、歌手は良かったものの、オケのアンサンブルが荒れていた記憶があります。「サロメ」でも、ジェシー・ノーマンが標題役をつとめたCDがありましたが、これは率直に言ってミスキャストでした。
ご指摘のように小澤氏は、センスの合う作品とそうでない作品との落差が大きいことは否定できないように思います。興味深いコメント、ありがとうございました。

2010/9/6(月) 午後 10:19 [ dsch1963 ]


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