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■青年劇場第102回公演「島」
2010年9月4日(土)18時30分開演 紀伊国屋サザンシアター
青年劇場が堀田清美の「島」を上演した、その初日を観た。この「島」という作品は、1957年劇団民藝によって初演され、被爆者の実相を初めて描いた戯曲として反響を呼んだ作品ということで、同年第4回岸田國士戯曲賞を受賞している。あらすじは以下のとおり。
広島県呉市に近い瀬戸内海の島。栗原ゆうは次男の勉を戦争で亡くした後、長男の学と長女の史と共に暮らしている。1951年の3月下旬のある日、ゆうの家では川下きんや中学教師の毛利が集まり、村の清盛祭の話をしている。そこへ東京で働いている清水徳一が十何年ぶりに顔をみせる。徳一は、同級生だった学が広島で被爆した悲惨な体験をゆうやきんから聞かされる。彼らは地獄絵のような広島の光景を未だに細かく記憶し、忘れられずにいる。学は村の中学教師をしており、教え子の玲子、きんの息子の邦夫らに慕われている。自然が豊かでのどかな村の生活の背後には古い家の因習が厳然と存在し、玲子の家が裕福な旧家である一方、邦夫の家では海辺の魚雷を解体する仕事を請け負ってはお金を手にしている。戦争中の朝鮮で需要があるからであり、その斡旋をしているのが、ゆうの弟の大浦である。翌日、瀬戸内海を見下ろす禿げ山の上で、徳一と学は再会する。12年前は学の優秀さにかなわないと感じていた徳一だったが、今では学の方が東京で働く徳一をうらやましく思っている。島の暮らしを問題視する徳一と、被爆体験によって人間が生きようとする意志の力を知った学の考え方はことごとく対立する。2ヶ月後、学は造船会社への就職と玲子との結婚とを考え始めている。だが、家の格差があることや学が被爆者であることを知っている親達は二人の結婚を現実的に無理だろうと思っている。そんな中、魚雷の爆発で夫を亡くしたきんは大浦への恨みをぶつけ、父の死後不良になってしまった邦夫は包丁で刺そうとする事件が起きる。そして翌年の3月、事件の後、邦夫は失踪し、きんは白血病でふせっている。未だに症状が出る被爆の恐怖を誰もが感じ、清盛祭の賑やかさの中きんは息を引き取る。学もまた、自分の身体の変調に不安を覚えており、原爆の不幸を玲子にも一緒に背負わせたくないため、彼女を愛しているにもかかわらず結婚を断念するのだった。(国際交流基金「Perfoming Arts Network Japan」の「日本の現代演劇データベース」より)
作者の堀田清美(1922〜2009)は、1945年日立製作所亀有工場に入社し、「自立演劇運動」と呼ばれる職場の労働者たちによる演劇運動にかかわった後、いわゆるレッド・パージで解雇され、1954年12月に劇団民藝に入団、その後同劇団からも離れた。この作品は、堀田氏の生まれ故郷である広島県倉橋島(現・呉市)を舞台にしている。主人公の栗原学は、広島高等工業専門学校の学生だった当時、広島で被爆した後、出身地の島に帰って中学校教師をしているという設定。この主人公にはモデルがいて、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)代表委員の坪井直さん。実際のところ、堀田氏の弟と坪井さんとが幼なじみだったという。
作品は、第1幕で、日本の敗戦から6年しか経っておらず、島には封建的な上下関係が色濃く残る一方で、朝鮮戦争による「特需」がにわか景気をもたらしているという状況のなかで、被爆者への差別や原爆症の恐怖に苦しむ青年教師を中心にしつつ、彼を取り巻く青春群像を丹念に描いている。ドラマは第1幕の最後、魚雷の解体作業に失敗した爆発音が轟き、主人公の一家の近くに住む川下家の当主と長男が事故死するところから大きく展開する。第2幕では、主人公と元教え子のお嬢さんとの不器用といってもいいくらい純情な恋模様を縦軸に、そして、広島原爆投下の翌日に入市したため残留放射能の影響をうけた貧しい漁民の妻・川下きんの白血病発病とその死を横軸にして、被爆者たちの置かれた状況がリアルに形象化されている。幾多の困難や悲しみを乗りこえつつ、主人公は最後に、被爆者として生きぬく意欲をはっきりと口にする。
きわめて重厚な作品だ。上演時間も休憩をはさんで3時間半近くに及んだ。日本の戦後演劇史に残る戯曲であり、もとは劇団民藝のレパートリーだったが、堀田清美と劇団民藝との対立があって以降、アマチュア劇団の場合を除き、上演は事実上封印されてきた。青年劇場のアプローチに応えて、最晩年の堀田が上演を許可したため、今回の上演に至ったという。まずはこういう作品を再演したこと自体、高く評価されてよいだろう。初日は結構若い観客が多かったことが目を引いた。
藤井ごうの演出は、青春群像の部分をテンポ良く描き、この重厚な作品を決して暗くしてしまうことなく、まとめあげている。そのため、3時間半という上演時間の長さを忘れさせる求心力を、特に第2幕で発揮している。前半では、若い男優陣がいささか肩に力の入り過ぎている印象もあったが、ベテラン勢が舞台を引き締め、第2幕では高い集中力の発揮された舞台となった。
【データ】
作:堀田清美
演出:藤井ごう
栗原ゆう:上甲まち子
栗原学(ゆうの息子):清原達之
栗原史(ゆうの娘):崎山直子
大浦(ゆうの弟):吉村直
川下きん:藤木久美子
川下菊夫(きんの長男):鈴木匡史
川下邦夫(きんの次男):真喜志康壮
新谷正:岡山豊明
清水徳一:北直樹
毛利(中学図工教師):矢野貴大
山岡先生:渡辺尚彦
木戸玲子:伊藤めぐみ
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