楽興の時・音の絵

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■演劇集団円公演「シーンズ・フロム・ザ・ビッグ・ピクチュアー」
2010年10月1日(金)18時30分開演 紀伊国屋ホール

 会場に着いてパンフレットを読むまで、この舞台のタイトルを「シーズン・フロム・ザ・ビッグ・ピクチュアー」だと思い込んでいた。実際は「シーズン」ではなくて「シーンズ」(Scene=場面の複数形)だそうだ。オーウェン・マカファーティは1961年、北アイルランド生まれ。昨年新国立劇場で上演された「シュート・ザ・クロウ」は、この人の作品で、当時このブログに記事を書いた(http://blogs.yahoo.co.jp/dsch1963/31775153.html)。また、今年春に鵜山仁演出で文学座の若手男優2人が出演した「モジョ・ミキボー」(残念ながら未見)など、マカファーティ作品は日本でも最近にわかに注目を集めている。作品の紹介はつぎのとおり。

 北アイルランドの首都ベルファストのある夏の一日。登場人物はそこに住む21人の老若男女。食肉会社の秘書、ドラッグストア経営者、パブの常連客に麻薬の密売人、主婦、無職の若者などの一日が日常の空気と佇まいのなか、まるで点描画のように描かれてゆく。町の十数カ所で浮かび上がる三角関係、子どもの喪失、犯罪に狂気、父子の和解、葬式と出産などの複数のシーンを往還しているうちに、町に生きる人々の人生のパノラマが見えてくる。生と死に挟まれた人生の様々な悲哀。劇はいわば大きなジグソーパズルに小片をはめ込むように進行してゆく。(公演チラシより)

 アイルランドの貧乏な架空の小さな町の1日を舞台に、その1日を41のシーンで切り取り、20人以上のキャストが登場する。全編2時間半程度で41の場面だから、一つの場面が3〜4分程度で矢継ぎ早に転換しながら進行していく。映画ではよくある手法だが、演劇ではあまり見慣れないやり方かもしれない。最初は相互の人間関係がよく分からないが、次第にそれぞれの場面に出てくる人物の関係が浮き彫りになってくる。

 作品の翻訳にあたった演劇集団円の文芸・演出部の芦沢みどりさんが公演パンフレットに、ソーントン・ワイルダーの「わが町」と対比する形で「痛々しい『わが町』」という一文を寄せている。作品紹介としては、これに付け加えることは何もないくらい良くまとまっている。ごく一部だけ引用させていただこう。
「20世紀初頭にアメリカの田舎町で信仰に支えられながら生真面目な生活を営んでいた人々と比べて、マカファーティの描いた21世紀初頭のベルファスト住民の生活は、なんとすさんで荒廃していることか。町の主産業である食肉工場は経営が傾き、街路をうろつく若者は麻薬に走り、ヤクの売人が跋扈し、商店は荒らされる。この100年の間に人間が劣化したというより(それも多少はあるかもしれないが)、人間の生きる条件が激変してしまったのだろう」

 まったくこのとおりの感想を抱く舞台だが、振り返ってみれば、これは時差9時間の遠いアイルランドの話ではなく、派遣切りが相次ぎ、子どもへの虐待や「消えた高齢者」問題が連日話題になり、合成麻薬の関わった有名人の事件が茶の間を賑わす極東の島国もさほど変わらないことに気づかされる。自分や自分の家族がいつ事件の被害者(あるいは加害者)になるかも分からない社会――。登場人物たちの多くに、観客は自分の一断面を見いだすのではないだろうか。にもかかわらず、ただ暗いだけの作品に終わっていないのは、ネタバレになるので書かないが、ラストの多少幻想的な場面のせいばかりではない。危ういながらも、つましく生きている市井の人々にたいして、作者マカファーティの視線があくまでもあたたかいからだろう。見終わって、描いている世界は随分違うのだが、なぜか、吉野源三郎氏の古典的名著『君たちはどう生きるか』(岩波文庫)の「人間分子の関係 網の目の法則」を思い出した。

 初日だが、出演者のアンサンブルがまとまっていて弛緩するところがなく、「演劇集団円」の面々の実力の高さをいつもながら痛感する。平光琢也の演出は、弧をなした古いコンクリートの壁のなかに何カ所か扉ができていて、そこからの人の出し入れと、机やテーブルやレジ台など若干の道具だけで、小さなドラッグストア、パブ、食肉会社のオフィス、子どものいない夫婦の家の茶の間、等々に変化させる。その手法は、けっして無理を感じさせず鮮やかだ。ワイルダーの「わが町」と違って「進行係」はいないのだが、存在感がなさそうでしっかりある、有川博の演じる老人――1日じゅう町を散歩したり、公園で本を読んだり、パブに顔を見せてビールを飲んだりしている――が、「進行係」のような役回りとも言えようか。

【データ】
 作:オーウェン・マカファーティ
 訳:芦沢みどり
 演出:平光琢也

 フランク・コイン:有川博
 ベティー・レノン:高林由紀子
 サミー・レノン:松井範雄
 ボビー・トーベット:廣田行生
 シャンクス・オニール:石田登星
 シャロン・ローザー:秦由香里
 テレサ・ブラック:唐沢潤
 デイヴ・ブラック:上杉陽一
 ジョー・ハインズ:加藤圭
 メイヴ・ハインズ:高橋理恵子
 ヘレン・ウッズ:入江純
 ロビー・ミュリン:小川剛生
 コニー・ディーン:梶原美樹
 ハリー・ファガティー:本多新也
 ポール・ファガティー:小林親弘
 スパイロ・ジョンストン:寺尾たかひろ
 ラット・ジョイス:戎哲史
 マギー・リトル:山根舞
 スウィズ・マードック:玉置祐也
 バップ・トーベット:山内基寛
 クーパー・ジョーンズ:清田智彦


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