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■こまつ座第92回公演「化粧」
2011年1月8日(土)19時開演 紀伊国屋ホール
井上ひさしの「化粧」といえば、木村光一演出、渡辺美佐子の一人芝居による地人会の舞台で知られていたが、昨年の座・高円寺での公演が通算647回をもってファイナルになった。そして、公演主体がこまつ座に戻り、新たにその主役に抜擢されたのが、文学座の看板女優・平淑恵。「養命酒」CMの印象が強いが、テレビドラマ「大岡越前」の妻・雪絵役、宇津宮雅代、酒井和歌子に続く3代目として21年にわたってつとめたことで知られ、文学座では杉村春子の後を継いで「女の一生」おけい役もつとめてきた。演劇界のリリーフ・エースとでも言ったところか。その初日を観た。作品のあらすじは以下のとおり。
さびれた芝居小屋の淋しい楽屋。その楽屋に遠くから客入れの演歌が流れ込んでくるやいなや、大衆演劇女座長、五月洋子は、座員一同に檄を飛ばし始める。開演前の歌唱支度の最中も、口上や十八番の出し物、母もの芝居「伊三郎別れ旅」の稽古に余念がない。その慌ただしい楽屋に、洋子をたずねてくる人がいた。それは彼女が泣く泣く昔捨てたはずの一人息子と名乗る人物であった。息子との再会と「伊三郎別れ旅」の話が重なり合って……。(公演チラシより)
「大衆演劇女座長、五月洋子が見たのは現実なのか?それとも夢なのか?」というチラシのコピーが、この作品の特徴を端的に示している。そもそも芝居は、フィクションであり、イリュージョンとも言えるのだが、この舞台は一見単純で分かりやすいように見えて、実は入れ子の構造のようになっていて、観客を単に楽しませるだけではすまない周到なドラマ的たくらみに満ちている。五月洋子の持ちネタである「伊三郎別れ旅」と、息子との再会という話が重なっているだけではない。実は、彼女の楽屋でのモノローグと並行して、彼女のいる芝居小屋の楽屋が解体工事で次第に崩されていくという展開になっている。つまり、五月洋子がその境遇を語っているのは公演の合間の楽屋ではなくて、すでに解体されている劇場の一角で、まったく周囲に誰もいない状況で語っているように見えてくるのだ。そこからは、仕事に賭けたがゆえに、息子を捨てざるをえなくなった一人の女のはらんだ「狂気」が浮き彫りになってくる。くすっくすっと笑わせながらも(「♪ねんねん猫のケツに〜、蟹が這いこんだ〜」の子守唄は面白すぎる)、次第に人間の孤独と狂気が露わになってくるという、なんとも怖ろしい芝居。そこには、自ら孤児院暮らしの体験をもつ作者井上ひさしの、母親に対する複雑な思いが現れていることも間違いないだろう。
管理人は残念ながら、木村光一演出、渡辺美佐子の一人芝居による「化粧」を見ていないので、それとの比較ができないのだが、従来は品のいい役どころの多かった平淑恵という女優が新境地を切りひらいた舞台として、1時間20分のあいだ、息をのむようにして観た。このあと1月16日の東京公演千秋楽をへて、東北、近畿、九州の演劇鑑賞会の公演で、4月末まで旅回りとなるらしい。
【データ】
作:井上ひさし
演出:鵜山仁
美術:堀尾幸男
照明:中川隆一
音響:秦大介
衣裳:前田文子
所作指導:沢竜二
五月洋子:平淑恵
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