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■マリインスキー・オペラ公演――リヒャルト・シュトラウス「影のない女」
2011年2月13日(日)14時開演 東京文化会館大ホール
R.シュトラウスが作家のフーゴー・フォン・ホフマンスタールとの共同作業でつくりあげ、1919年に初演された「影のない女」。国内ではめったに上演される機会のない作品だが、昨年5月に新国立劇場で上演されたのに続き、ワレリー・ゲルギエフ率いるマリインスキー・オペラの日本公演の演目の一つになった。率直に言って、作品の筋書きそのものはあまり共感しにくいが、実演に接する機会が少ないので、出かけることにした。本当は翌日のベルリオーズ「トロイアの人々」の日本初演(演奏会形式)も聴きたかったが、どうしてもスケジュールの都合がつかず、今回の日本公演では「影のない女」だけを観に行くことになる。
正直なところ、期待値が必ずしも高くない舞台だったのに比して、意外にも結構楽しめた。ジョナサン・ケントの演出は、皇帝と皇后の澄む天上の世界は紗幕を下ろして幻想的に描きだす一方で、バラク家のほうは雑然とした現代の零細な染物工場という装置で、きわめてリアルな場面を設定している。天上の世界では、舞台の真ん中やや下手に大きな木のセットがつりさげられる。これにたいして人間界は、洗濯機や乾燥機などが所狭しとならんでおり、生活感がにじみ出ている。この天上界と人間界との対比が鮮明で、分かりやすい演出になっている。これまで苦手意識をもっていた「影のない女」だが、変な読み替えをせず、適切に現代化を図ったと言えるのではないだろうか。細かいことだが、照明は皇后に影をつけないよう、かなり工夫されていたように思われる。
歌手は、女声陣が総じて割に良かった。とくに、皇后役のエレーナ・ネベラが伸びやかな声、情感のこもった表現で好演。ヴィジュアル的にもスレンダーな美人で吉。バラクの妻のエカテリーナ・ポポワも、声量が豊かで、倦怠期の主婦の雰囲気を演技面でもよく出している。乳母のエレーナ・ヴィトマンは、ヒール役というべき役どころを表出し、なかなかの存在感がある。これにたいして男声陣のほうは、バラクのエデム・ウメーロフはまずまず。だが、皇帝のオレグ・バラショフは高音がさっぱり出ず、大ブレーキ。どうも風邪でもひいていたのか、「体調不良」という理由で、第2幕から前日にも歌っていたヴィクター・リュツクに交代した。
ゲルギエフ指揮のマリインスキー歌劇場管弦楽団は、R.シュトラウスの繊細なオーケストレーションを表現するには、いささかバリバリ鳴り過ぎという印象もある。第3幕第3場で石にさせられそうになった皇帝が救われるところなどは、ド迫力の演奏だった。
【データ】
指揮:ワレリー・ゲルギエフ
演出:ジョナサン・ケント
舞台美術:ポール・ブラウン
照明:ティム・ミッチェル
映像:スヴェン・オーテル、ニーナ・ダン
振付:デニ・セイヤーズ
皇帝:オレグ・バラショフ(第1幕)、ヴィクター・リュツク(第2・3幕)
皇后:エレーナ・ネベラ
乳母:エレーナ・ヴィトマン
バラク:エデム・ウメーロフ
バラクの妻:エカテリーナ・ポポワ
王の使者:ニコライ・プチーリン
宮殿の門衛:オクサナ・シローワ
鷹の声:タチアナ・クラフツォーワ
天上からの声:エカテリーナ・クラピヴィナ
青年の幻影:アレクサンダー・ティムチェンコ
バラクの兄弟たち:ワシーリー・ゴルシコフ
アンドレイ・スペホフ
ニコライ・カメンスキー
3人の召使:スヴェトラーナ・チュクリノーワ
エレーナ・ジェレズニャコーワ
ユリア・マトーチキナ
児童合唱:杉並児童合唱団(合唱指導:津嶋麻子)
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