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■新国立劇場オペラ公演――W.A.モーツァルト「フィガロの結婚」
2010年10月19日(火)18時30分開演 新国立劇場オペラパレス
アンドレアス・ホモキ演出の「フィガロの結婚」といえば、2003年のノヴォラツスキー芸術監督就任最初の公演で、生き生きとした舞台が鮮烈な印象を残したことを思い出す。それ以来、05年、07年と再演を重ね、今回が4演目となる。このホモキ演出は、白を基調にした抽象的な舞台で、四角い閉じられた空間に、出演者も白と黒を基調にした衣裳をまとい、次第に矩形の空間が解体していくというもの。伯爵やその夫人といった「上流」の人々も、その使用人であるフィガロやスザンナといった「庶民」も、人間としては共通の感情をもち変わらぬ存在であることを印象づけ、既存の支配秩序が次第に崩れていくことを象徴的に表現する。プレミエの時の鮮烈な印象が薄れてくるのはやむを得ないが、よくまとまった好演出と言ってよいだろう。
今回の公演では、新国立劇場初登場となった外国人女性歌手の充実が印象に残った。伯爵夫人役のミルト・パパタナシュは、ギリシア出身のすらりとした美人で、透明感のあるしっとりした歌唱。伯爵夫人のアリアはとりわけ説得力があった。スザンナ役のエレナ・ゴルシュノヴァも明るい声質、しっかりした歌唱で、この役のキャラクターに合っている。ケルビーノのミヒャエラ・ゼーリンガーは、割にグラマーな女性なので、この役にしては色っぽすぎる印象(昔のトロヤノスのケルビーノを思い出した)もなくはないが、声がよく飛んできて安定している。この3人の充実ぶりは、第2幕などでとりわけ目を引いた。
男声陣では、アルマヴィーヴァ伯爵役のロレンツォ・レガッツォは、07年公演ではフィガロを演じていたが、この演出に慣れているだけに演技もきびきびしているし、堅実な歌唱を聴かせる。フィガロ役のアレクサンダー・ヴィノグラードフは、新国立で以前「カルメン」のエスカミーリョを演じたイケメン。声質が明らかにバスなので、フィガロにしてはドスがきき過ぎという感じがあるが、この演出では逆に若頭的なイメージが強調されて、それはそれで面白かった。ただ、日本人歌手は、マルチェッリーナ役の森山京子、バルバリーナ役の九嶋香奈枝は健闘していたが、男声陣は表現が硬すぎたり、逆に軽すぎたりするなどして不満が残った。
今回の公演では、ドイツ・ドレスデン出身の若手、ミヒャエル・ギュットラーが指揮を担当。ドイツのクラーゲンフェルト州立歌劇場の首席指揮者や、マリインスキー劇場常任客演指揮者などを歴任した後、今年11月にはウィーン国立歌劇場に「リゴレット」でデビュー予定という。だが、この人の指揮は、よく言えば中庸をいくが、悪く言えば平板な印象をぬぐえなかった。また、歌手の歌いたいテンポと合わず、オケが後付けになるようなところが散見されたのは問題だろう。
ところで、新国立劇場は、銚子にある倉庫が手狭になり、過去の公演の装置を廃棄せざるを得なくなっていることが問題になっている。「リング」のセットはすでに廃棄されたという報道があった。管理人は冒頭に書いたように、ホモキ演出のこの舞台は評価しているのだが、装置が四角い箱と段ボールと箪笥だけなので、再演しやすいのかもしれないということに思い到ってしまった。
【データ】
指揮:ミヒャエル・ギュットラー
演出:アンドレアス・ホモキ
美術:フランク・フィリップ・シュレスマン
衣裳:メヒトヒルト・ザイベル
照明:フランク・エヴァン
再演演出:三浦安浩
舞台監督:佐藤公紀
アルマヴィーヴァ伯爵:ロレンツァ・レガッツォ
伯爵夫人:ミルト・パパタナシュ
フィガロ:アレクサンダー・ヴィノグラードフ
スザンナ:エレナ・ゴルシュノヴァ
ケルビーノ:ミヒャエラ・ゼーリンガー
マルチェッリーナ:森山京子
バルトロ:佐藤泰弘
バジリオ:大野光彦
ドン・クルツィオ:加茂下稔
アントーニオ:志村文彦
バルバリーナ:九嶋香奈枝
合唱指揮:三澤洋史
合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
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