楽興の時・音の絵

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■東京室内歌劇場第42期第128回定期公演――フランチェスコ・カヴァッリ:オペラ「ラ・カリスト」
2010年12月4日(土)18時開演 渋谷区文化総合センター大和田さくらホール

 渋谷のランドマーク、セルリアンタワーの南側に、11月にオープンしたばかりの文化施設に初訪問。やけに長ったらしい名称になったのは、元大和田小学校跡地で「大和田」の地名を残すべきという区民アンケートの結果と、「桜丘」の「さくら」からホールの名前を採ったからだそうだ。今回は行けなかったけれど、最上階にはプラネタリウムができた。2001年に東急文化会館の解体で「五島プラネタリウム」が閉館して以来、9年ぶりに渋谷にプラネタリウムができたということで、テレビの情報番組などでも話題になっていた。

 そのホールで、17世紀のヴェネツィアの作曲フランチェスコ・カヴァッリ(1602〜1676)のオペラ「ラ・カリスト」が日本初演されるというのは、きわめてふさわしいような気がする。ジョーヴェ(ゼウス)に愛されたニンフである主人公カリストが、ジョーヴェの妻ジュノーネの怒りにふれて熊に姿を変えられてしまうが、最後はジョーヴェの力で天空に昇って夜空を彩る星(大熊座と小熊座)になるという物語だからだ。羊飼いのエンディミオーネが、望遠鏡で天体観測するのが好きというキャラクターというのも、うまく合っている。

 管理人にとってバロック・オペラは、日常的な守備範囲の外(今までいくつかの公演は見ているが)にあり、カヴァッリの「ラ・カリスト」もルネ・ヤーコプス指揮によるDVDが出ているようだが、見たことがない。しかし、予備知識がほとんどなくても、じゅうぶん楽しめる公演だった。バロック・オペラといえば、最後は王様の徳を讃えるというパターンのものが多いが、この作品は趣を異にする。神話を素材にした物語とはいえ、男と女の恋愛と嫉妬を描いた作品であり、結構セクシュアルな歌詞も登場したりして、ヴェネツィアでは大衆劇的に上演されたようだ。それだけに、350年前の作品という古さを感じさせない。

 そうした成果をもたらした功績は、指揮者の濱田芳通の力に負うところがきわめて大きいだろう。ルネ・ヤーコプスの薫陶をうけ、自らリコーダー、コルネット奏者として世界的に活躍している。その彼が主宰する古楽アンサンブル「アントネッロ」をリードして、全編すみずみに血の通った生き生きと活力のある音楽を引き出していた。第1幕の最後では、パーカッションのシンコペーションのリズムに乗せて、濱田自身がコルネットを吹き、ジャズの即興演奏のようにノリの良い音楽を聴かせるなど、アイデアと工夫も満載で楽しい。パーカッショニストは技能賞ものだ。

 歌手もそれぞれ健闘し、充実していたのではないだろうか。とくに、ディアーナ役の野々下由香里の格調高く安定した歌唱が見事。BCJの公演などではおなじみの歌手だが、演技力もあるし、舞台姿が堂々としていて美しいのも吉。エンディミオーネ役のカウンターテナー彌勒忠史も、斯界の第一人者だけあって、伸びやかな歌声でひきつける。カリストの末吉朋子は、若干音程の下がるところがあったが、透明感のある歌声がよく、ひたむきな感じが出ていた。その他の歌手もそれぞれ個性を発揮して面白かった。サディリーノの島田道生は「島田夫妻」というオペラ漫才をテレビで見たことはあったが、ちゃんとした仕事をしていた。

 伊藤隆浩の演出については、これまではあまり良いと思ったことがなかった。昔見た「バヤゼット」の時は交通整理しているだけだったし、今年2月の「アーサー王」の説明過剰な演出については、拙ブログで批判的に書いたことがある(http://blogs.yahoo.co.jp/dsch1963/35585433.html)。
 しかし、今回はかなりセクシュアルな要素もある大衆劇としての性格が、それなりに分かりやすく伝わってきた。例えば、ジョーヴェがディアーナに化けてカリストに迫るところを「二人羽織」にも似た「人形振り」のようにして見せるのは、悪くないアイデアだ。女性を象徴する盾をもった黙役と、男性を象徴する矛をもった黙役のからみなども、ご愛嬌の範囲だろう。簡素な舞台装置で今日性をも感じさせながら、照明を効果的に使って美しい舞台に仕上げていた。

【データ】
 指揮:濱田芳通
 演出:伊藤隆浩
 演奏:アントネッロ(古楽アンサンブル)

 自然/パーネ:藤牧正光
 永遠/ディアーナ:野々下由香里
 運命/ジュノーネ:菅野真貴子
 カリスト:末吉明子
 ジョーヴェ:岡元敦司
 メルクーリオ:谷川佳幸
 エンディミオーネ:彌勒忠史
 リンフェーア:加藤千春
 サディリーノ:島田道生
 シルヴァーノ:大澤恒夫
 怒り:岡庭矢宵
 怒り:前川朋子
 熊:宮澤光太朗
 助演:新井健士、野口唯一、工藤真加、辰巳啓子

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