楽興の時・音の絵

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■東京二期会オペラ劇場公演――モーツァルト「フィガロの結婚」
2011年4月30日(土)14時開演 東京文化会館大ホール

 東京二期会・宮本亜門演出の「フィガロの結婚」は、2002年初演、06年再演に続き、今回で3演めになる。筆者にとっては06年に見て以来2回目。意外というと失礼かもしれないが、宮本亜門の「フィガロ」は基本的に奇を衒わないオーソドックスな演出だ。

 「フィガロ」の場合、ジャン=ピエール・ポネルの往年の舞台のように階級対立の側面を強調する演出(20世紀のニューヨークに舞台を移したピーター・セラーズ演出などもそれに含まれよう)がある一方で、男女間の微妙な感情の機微を重視する演出もよく見られる。この宮本演出は明らかに後者だろう。たとえば、第1幕で、アルマヴィーヴァ伯爵とバジリオがそれぞれスザンナに横恋慕する場面などは、二人の男性に両方から引っ張られて苦悶するスザンナを強調するし、第3幕でスザンナが伯爵を誘惑する素振りを見せるところも積極的だ。そうした所作がよくついていて、かつその出入りが自然できびきびしている。こうした人の動かし方の巧さは、演劇・ミュージカル畑で活躍している宮本亜門ならではと言ってよいだろう。

 歌手もなかなか粒が揃っていて良かった。なかでも白眉は、伯爵夫人を演じた澤畑恵美さん。もともとこの人の伯爵夫人を見たくて、この日のチケットを取ったのだが、第2幕の「愛の神様、手をさしのべてください」でも、第3幕の「どこにあるのかしら、甘く」でも、伯爵の愛を取り戻すことを切望する女の情感をドラマティックに、しかし決して表現過剰にならず、格調高く歌い上げている。スザンナの菊地美奈は、伸びやかな歌声を聴かせ、くりくりとよく動く目の表現が上手で、さわやかさと華やかさを兼ね備える。さらにこの日の収穫は、ケルビーノ役の杣友惠子だろう。ズボン役で男の子の衣裳を身につけると、新庄剛志になんとなく似ているのはご愛嬌だが、ルックスもよいし、声量が豊かで安定している。男声陣も、アルマヴィーヴァ伯爵の鹿又透、フィガロの久保和範らが、いずれもきちんと歌いこなしながら、演技面でもきびきびとよく動いていた。全体として、アンサンブル・オペラの良さがよく出ていた。

 評価の分かれるのは、デニス・ラッセル・デイヴィスの指揮ではないだろうか。全体として丁寧な音楽づくりをしていることは分かるのだが、テンポ設定は最近にしてはかなり珍しいくらい遅めのテンポを採用。それが、伯爵夫人の歌をしっとり聴かせるようなところでは良い方に作用するが、第2幕のフィナーレの7重唱のような事態が目まぐるしく展開するところでは、もう少しテンポを速めないと、作品そのもののもつ躍動感を殺してしまうことになりはしまいか。

【データ】
 指揮:デニス・ラッセル・デイヴィス
 演出:宮本亜門
 装置:ニール・パテル
 衣裳:前田文子
 照明:大島祐夫
 振付:麻咲梨乃

 アルマヴィーヴァ伯爵:鹿又透
 伯爵夫人:澤畑恵美
 ケルビーノ:杣友惠子
 フィガロ:久保和範
 スザンナ:菊地美奈
 バルトロ:池田直樹
 マルチェリーナ:清水香澄
 バジリオ:吉田伸昭
 ドン・クルツィオ:渡邉公威
 アントニオ:境信博
 バルバリーナ:砂田恵美
 花娘1:盛田麻央
 花娘2:長谷川忍

 フォルテピアノ:デニス・ラッセル・デイヴィス
 合唱:二期会合唱団
 管弦楽:東京フィルハーモニー管弦楽団

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