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■新国立劇場公演「ヘンリー6世・第2部――敗北と混乱」
2009年10月28日(水)18時30分開演 新国立劇場中劇場
「ヘンリー6世」3部作の第2部。あらすじは以下のとおり。
ロンドン、王宮。フランスから、王ヘンリー(浦井健治)の名代としてマーガレット(中嶋朋子)との婚儀を済ませたサフォーク(村井国夫)が帰国する。屈辱的な和議の条件を嘆くグロスター(中嶋しゅう)はサフォークの忠誠を疑うが、今や枢機卿となったボーフォート(勝部演之)はサマセット(水野龍司)らとともにグロスター失墜を企む。一方ヨーク(渡辺 徹)と彼を支持するソールズベリー(菅野菜保之)、ウォリック(上杉祥三)親子はグロスター側に立つ。権力闘争の幕が切って落とされるなか、ヨークは一人残り王位への野望を口にする。グロスターの妻エリナー(久野綾希子)はマーガレットへの競争心と夫を王位へとの野心から呪術師を呼び祈祷を行うが、ヨークに反逆罪で捕らえられ流刑に処される。グロスターも摂政職を追われ、さらにサフォークが送った刺客により暗殺される。しかし徳高い人柄が愛されていたグロスターの死を憤る民衆とともに、ソールズベリー、ウォリックが王のもとに押し寄せ、王はマーガレットの懇願にもかかわらずサフォーク追放を言い渡す。サフォークはフランスへ渡る途上、海賊たちに惨殺される。一方、王位を狙うヨークはアイルランド遠征に赴くが、不在の間にジャック・ケード(立川三貴)という暴徒に反乱を起こさせ、ロンドンに向かって進撃させる。しかし、クリフォード卿(鈴木慎平)らの説得により反逆は未然に防がれ、ケードも敗走し殺害される。そこへヨークが大軍を率いて帰国、武力を背景にサマセット追放を要求するが、聞き入れられないため王一派を非難し、公然と王位を要求する。ここでヘンリー王らランカスター家とヨーク家との対立が決定的となり、セント・オールバンズでの戦いの火蓋が切って落とされ、薔薇戦争が始まる。(新国立劇場ホームページから)
英仏「百年戦争」が終わって「薔薇戦争」へ移行していく時期が「ヘンリー6世・第2部」の描く時代である。第1部の感想のなかで、時代背景の状況説明に一定の分量が割かれている前半は「骨が折れる」と書いた。これにたいして第2部は、第1部を前提としつつ、第3部「薔薇戦争」への橋渡しという位置にあるため、物語が大きく動き出し、ドラマとしては一段と面白くなってくる。第2部前半の中心人物は、王ヘンリー6世の摂政・グロスター公だろう。学問に明け暮れ、権力者としては力量に欠けるヘンリー王にたいして(おそらく性的にも)強い不満を抱く王妃マーガレットと、彼女にとりいって深い仲になるサフォーク公。このどす黒い関係の男女は、グロスターの存在を疎んじ、追い落としを企てる。さらに、当初グロスターにくみする立場をとったヨーク公らも、彼の存在が自らの権勢拡大に役立たないと気づくや、追い落とす側にまわる。このあたりの駆け引きが切実だ。妻が罠にかけられ「四面楚歌」の状況に陥りながら、最期まで職責をまっとうしようと矜持を保ち続けるグロスター公。彼には民衆の支持があったこともわかりやすく描かれている。この場面では、変なたとえで恐縮だが、かつて自民党でおこなわれた「三木おろし」を思い出してしまった。
もう一人、第2部で興味深い登場人物は、民衆の支持を背景に叛乱的な暴動をおこすジャック・ケードだろう。彼の主張はアナーキーで、平等主義的だ。実はヨーク公が背後で糸を引いているという経過はあるにせよ、こういう人物が民衆の支持を獲得している時代だったという15世紀の一断面が浮かび上がる。考えてみれば、ヨーロッパ中世社会を動揺させたジャックリーの叛乱(1358年)やワット=タイラーの叛乱(1381年)はそれ以前の14世紀のことだった。シェイクスピア自身は、公演パンフレット所収の狩野良規氏(青山学院大学教授)の論文「シェイクスピアの見たヘンリー6世」によると「共和制」という発想は持っておらず、「強力な王権を背景に安定した国家を築くことを希求していた」とされる。だが、最近彼の40作目と目されるようになってきた「サー・トーマス・モア」で、あの「ユートピア」の著者を好意的に描いたように、ある種のユートピア思想への共感をもっていたこともうかがえる。そのことが、ジャック・ケードの描き方に反映しているのかもしれない。
そのこともあってか、俳優陣では、第2部の場合、グロスター役のヴェテラン中嶋しゅうの抑制の効いた演技と、ジャック・ケード役の立川三貴(←昔テレビで怪人二十面相をやっていた人)のハイ・テンションの怪演が目をひいた。フランスから王家に嫁いだ王妃マーガレットに扮した中嶋朋子は、正直に言うと「北の国から」の蛍のころから苦手な女優なのだが、権勢欲にとりつかれた嫌味たっぷりの王妃にはうまくはまっていた気がする。グロスターの妻で野心家のエリナー・コバムを演じた久野綾希子は、年増の色気を存分に発揮しつつ、なかでもモノローグでの心情の吐露にはひきつけられた。チョイ役で面白いのは、偽不具者シンコックスに扮した吉村直と、その妻・那須佐代子(←ファンです)のいかにも怪しい演技。また、いかがわしい祈祷をおこなう巫女に扮したソニンも、第1部のジャンヌ・ダルクに続いて、エキセントリックでイッテしまっている感じがよく出ている。
第3部は29日に見られないので、31日夜に見る予定。いよいよ楽しみだ。
【データ】
作:ウィリアム・シェイクスピア
翻訳:小田島雄志
演出:鵜山仁
王ヘンリー6世:浦井健治
グロスター公:中嶋しゅう
枢機卿ボーフォート・ウィンチェスター司教:勝部演之
ヨーク公:渡辺徹
エドワード:今井朋彦
ジョージ:前田一世
リチャード:岡本健一
サマセット公:水野龍司
サフォーク公:村井国夫
バッキンガム公:関戸将志
クリフォード卿:鈴木慎平
クリフォード卿の息子:浅野雅博
ソールズベリー伯:菅野菜保之
ウォリック伯:上杉祥三
セイ卿:鈴木瑞穂
騎士ハンフリー・スタフォード:篠原正志
騎士ウィリアム・スタフォード:清原達之
騎士ジョン・スタンレー:木下浩之
ヴォクス:小田悟
ウォーター・フィットモア:木場勝己
艦隊長:石橋徹郎
船長:松角洋平
ジョン・ヒューム:小長谷勝彦
ロジャー・ボリングブルック:金内喜久夫
トマス・ホーナー:石橋徹郎
ピーター:前田一世
チャタムの書記:古河耕史
シンコックス:吉村直
ジャック・ケード:立川三貴
ジョージ・ベヴィス:小長谷勝彦
肉屋ディック:青木和宣
織物屋スミス:渕野俊太
マイケル:松角洋平
アレグザンダー・アイデン:城全能成
二人の殺し屋:川辺邦弘、津村雅之
王妃マーガレット:中嶋朋子
エリナー・コバム:久野綾希子
マージャリー・ジャーデーン:ソニン
シンコックスの妻:那須佐代子
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