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■映画「ラストゲーム―最後の早慶戦」
2008年10月12日(日)シネ・アミューズ
休日に映画館を梯子して、8月に封切られた神山征二郎監督「ラストゲーム―最後の早慶戦」と、9月封切の新藤兼人監督「石内尋常高等小學校―花は散れども」の2作品を観てきた。いくつかの共通点がある。ともに戦争シーンを直接扱ってはないが、戦争の時代が影を落としている作品だ。それだけではなく、両作品とも怪優柄本明が主演していること。李鳳宇のシネカノンが配給元ということもある。そこでまとめて記事にしていたが、友人から2本一緒の記事は読みにくいとの意見があり、10月19日に修正して切り離したことをご容赦いただきたい。「ラストゲーム―最後の早慶戦」のあらすじは以下のとおり。
昭和18年。戦争が激化する中、練習に励む早稲田大学野球部の若者たち。六大学野球はすでに解散が決定しており、来るべき学徒出陣に備えるように圧力がかけられていた。そんな中、顧問の飛田のもと選手たちは、出陣のその日まで野球を続けると誓っていた。部員の戸田は父親から厳しく詰られながらも、兵隊に志願した兄の言葉を胸に、合宿生活を続けていた。そんなある日、慶應の小泉が飛田のもとに早慶戦を申し込みにやってくる…。太平洋戦争のさ中、野球は敵国アメリカの国技だという理由で六大学野球は解散を余儀なくされる。そして、学業優先で徴兵を猶予されていた学生たちも戦争に駆り出される、学徒出陣はすぐそこに控えていた―。そんな時、戦場に赴く前の最後の願いとして行われた“出陣学徒壮行早慶戦”の、実現までの紆余曲折が描かれる。(goo映画より)
1943年、アジア・太平洋戦争の戦局が深刻化し、大学生にたいする徴兵猶予が取り消され「学徒出陣」と至る過程で、10月16日、早稲田大学戸塚球場で戦時下最後の早慶戦(慶応から見ると「慶早戦」)が開催されたという実話をもとにした作品。関西人にとって「早慶戦」は、エンタツ・アチャコの漫才のネタ程度の認識しかなく、この話自体もディテールはよく知らなかった。今回の神山作品は、史実をふまえつつ、早大野球部の青春群像にスポットを当てながら、落ち着いた筆致のドラマに仕立てている。
作品冒頭に出てくる「野球、生きてわが家(ホーム)に還るスポーツ。」という一文が効いている。主人公に同野球部メンバーの戸田順治をすえ、彼の兄は野球を断念して職業軍人となり戦死するという設定にして、家族の苦悩に光を当てる。同時に、早大野球部の顧問として「敵性スポーツ」扱いされる野球の存続に尽くそうとする飛田穂洲、その早大にたいして早慶戦の開催を申し出る慶応義塾塾長の小泉信三、軍部や政府からにらまれることを苦慮して早慶戦の開催になかなか応じない早稲田大学総長の田中穂積という3人を配し、戦争という不条理のなかで、それでも部員たちに「思い出をつくってやろう」とするおとなたちの苦闘が描かれる。早大といえば、在野精神旺盛な学風だったはずだが、歴史学者の津田左右吉、政治学者の大山郁夫らの学説が政府・軍部や右翼勢力に睨まれるなかで、当局がかえって事を荒立てたくないとする対応をよぎなくされたことは、考えさせられる事実だった。しかしながら、教育者として筋を曲げない彼らの対応を飛田穂洲が支持しており、その立場から田中総長に試合開催の許可を迫る場面は圧巻だ。そして、10対1で終わった試合の後、慶応の応援席から「都の西北」の歌がわきおこり、早稲田の応援席から「若き血に燃ゆるもの」の歌がわきおこったというエピソードも感銘深い。映画はその後、10月21日の雨の神宮外苑での「出陣学徒壮行会」のシーンを交え、さらに特攻機の撃墜などの実写フィルムを短く挿入し、説明的でなく「出征学徒」となった野球部員たちの多くがたどった運命を映しだしている。
豪放磊落で頑固一徹といった飛田を演じる柄本明、これにたいしてリベラルな人格者小泉を演じる石坂浩二が好演。また、戸田の兄が戦死し、その葬儀の場面で「靖国は母たれ」と建前を押し付けようとする山本圭扮する父親に対して、「私はそんなに立派な母親にはなれません」と言い切る母親役の富司純子には鬼気迫るものがあり、泣かせる名演だ。それから、オヤジ目線でいえば、野球部合宿所のまかないをしているトモ子さんを演じる「就活女優」原田佳奈も清楚な感じでなかなか良いが、戸田の妹に扮する尾高杏奈のセーラー服&モンペ姿が萌える。どこかで見た娘だと思ったら、佐々部清監督「出口のない海」でも市川海老蔵扮する主人公=出陣学徒の妹役でモンペを履いていた。
【データ】
監督:神山征二郎
製作:李鳳宇、ほか
プロデュース:奥山和由
主題歌:鬼束ちひろ
音楽:和田薫
撮影監督:阪本善尚
脚本:古田求
戸田順治:渡辺大
飛田穂洲:柄本明
小泉信三:石坂浩二
黒川哲巳:柄本佑
田中穂積:藤田まこと
戸田しず江:富司純子
若杉トモ子:原田佳奈
相沢陽一:和田光司
近藤宏:脇崎智史
阪井隆信:片山享
桐原真二:中村俊太
外岡太一郎:宮川一朗太
平井政明:三波豊和
戸田栄達:山本圭
日本映画・2008年・96分
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