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■映画「君の涙ドナウに流れ――ハンガリー1956」
2007年11月23日(金・祝) シネカノン有楽町2丁目
この作品は、1956年10月以降の「ハンガリー事件」と、同年12月のメルボルン五輪の水球試合で終了間際にソ連選手がハンガリー選手の顔面を殴打して試合中止になった「メルボルンの流血戦」という二つの史実を巧みに織り合わせている。その史実をふまえつつ、民主化運動に身を投じた女子学生ヴィキ(カタ・ドボー)と水球選手カルチ(イヴァーン・フェニェー)との高まる愛情と、その悲劇的な結末をドラマティックに描き出す。
「ハンガリー事件」といえば、1956年の「スターリン批判」をうけて、ソ連の傀儡政権となっていた勤労者党政府に抗して市民たちが立ち上がった民主化運動に対し、ソ連が武力鎮圧した結果、流血の大惨事となった事件であり、改革派のナジ・イムレ首相が放逐され、ソ連と通じたカーダール第一書記らの新政府が市民を徹底した弾圧した経過は、文献などで知っていた。しかし、この作品を見て、ブダペストで学生たち開始した平和的なデモに対し、国営放送局を警備していた兵士の銃撃をきっかけに「内戦」に突入したことなど、その詳細で複雑な経過について認識を新たにできた。とりわけブダペストの「市街戦」の描写は手間をかけてつくられ、まさしく「戦争映画」の大迫力だ。そのことによって、覇権主義大国ソ連の凄まじい暴力性や、市民の中にも内通者をつくりだすハンガリー権力機関の卑劣さが見事に浮かび上がる。
同時に、パンフレットで国際政治学者の浅井信雄氏も解説するように、大国の裏切りがソ連だけのものでないこともさらりと描かれる。ハンガリーの市民は米軍の介入を期待するが、アメリカは「スエズ動乱」との見合いで手出しを控える。そのことはキッシンジャー・元米国務長官も後年、著書『外交』のなかで認めている。映画では抵抗した学生たちの「(米国は)ハンガリーの犠牲者が増えるほどソ連非難が強まって好都合」といった台詞も登場する。もっとも、米軍が介入すれば「第3次世界大戦」になりかねない面もあっただろうから、事は単純でないはずだが…。
プロデューサーは「ランボー」「ダイ・ハード3」「ターミネーター3」などを送り出したアンドリュー・G・ヴァイナだが、彼は「メルボルンの流血戦」の日に12歳で故国を後にした亡命ハンガリー人だそうだから、まさに執念の一作と言えるだろう。監督はクリスティナ・ゴダという女性。戦闘シーンと水球試合のシーンをいずれも迫力満点の映像で描きだす手腕は見事。ハリウッドでも活躍する若手女優のカタ・ドボーが、最後まで抵抗の意志を貫き通すジャンヌ・ダルクさながらの女性活動家をひたむきに演じている。
*なお、この映画館は完全指定席だが、チケット売り場の手際がよくないので、上映時間よりかなり早めにいくことがおすすめ。
【データ】
制作:アンドリュー・G・ヴァイナ
監督:クリスティナ・コダ
脚本:ジョー・エスターハス、エーヴァ・ガールドシュ、ゲーザ・ベレメーニ、レーカ・ディヴィニ
作曲:ニック・グレニー=スミス
アクション班監督:ヴィク・アームストロング
カルチ:イヴァーン・フェニェー
ヴィキ:カタ・ドボー
ティビ:シャーンドル・チャーニ
水球チーム監督:カーロイ・ゲステシ
カルチの母:イルディコー・バーンシャーギ
カルチの祖父:タマーシュ・ヨルダーン
フェリおじさん:ペーテル・ホウマン
エステル:ヴィクトーリア・サーヴァイ
ヤンチ:ツェルト・フサール
イミ:タマーシュ・ケレステシュ
カルチの弟ヨージ:ダーニエル・ガーボリ
水球選手バーロー:コルネール・シモン
水球選手フランク:クリスティアーン・コロヴラトニク
水球選手ペターク:ブルチュー・セーケイ
原題:Szabadsag,szerelem(愛、自由)
2006年ハンガリー映画、120分、配給:シネカノン
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