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【オーボエ奏者 渡辺克也のベルリン音楽旅行】
振り上げる指揮法で豊かな音
先日ある会で、一つのオーケストラを2人の超一流指揮者がたて続けに振るのを聞きました。
長老クラスの方の1曲目に続き、若手指揮者が2曲目を振り始めたところ、最初の音で私は愕然(がくぜん)としてしまいました。
1曲目に比べ、あれっと思うほどにオーケストラが鳴らなくなったからです。
若くて動きも俊敏ですのに、響きの豊かさが20%減ったみたいでした。もちろん楽員が手を抜いていたわけでは絶対にありません。
ある指揮者が指揮台に立った途端にオーケストラがよく鳴る、あるいは鳴らない、指揮者の良しあしが一瞬にして明らかになってしまう現象です。
優れた指揮者は、オーケストラを鳴らすために、ひいては音楽を引き出すためにどのような動作が効果的か、日々研究しています。
私の経験した中で最もよく鳴るのは、クリスティアン・ティーレマンの指揮でしょうか。特に低弦が地響きを立ててうなりだします。
小学校の音楽の授業でも、指揮というのは上から下へ振り下ろす、と教わるのが一般的ですね。
しかし、ティーレマンのは全く正反対に、下から上に振り上げます。下の打点から跳ね返って結果的に振り上がるのではなく、打点そのものが上の方にあるという、極めて独特なシステムです。
その動きを例えるならば、フライパンでホットケーキを焼く際、突き上げてひっくり返すような動作、また、腕を開いたバレーボールのアンダーハンドレシーブのようでもあります。
ゆっくりしたテンポでは、大切な大きい壺(つぼ)を目の高さほどに持ち上げるような動作をします。
この指揮法では、振り下げて準備する動作、振り上げて打点そのものを示す動作ともに、普通の指揮法に比べて重く力強さが増します。
ティーレマンの持ち味のゆっくりしたテンポやドラマチックな表現を作り上げるのに、とても有利と言えましょう。
また、腕を振り上げる動きにより、音楽が上方向に気持ちよく飛んでいきます。あたかも、蓋をすべて取り払って演奏されるグランドピアノから音が湧きだすように。
余談ながら、腕を上から下に振り下ろすと背中と腰に負担がかかりますから、下から上へ振り上げる指揮法は、指揮者を職業病から解放してくれるかもしれませんね。
上方向への勢いで身長が伸びる効果も期待できますか!
2012.8.26 07:52
産経新聞
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