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春秋 2013/7/29


春秋 2013/7/29. 日本経済新聞

 19世紀のはじめ。遠征に出ているフランス軍の食糧補給に頭を痛めていたナポレオン政権は、食べ物を長もちさせる方法を懸賞金付きで公募した。これにこたえたのがニコラ・アペール。密封して加熱殺菌する、という手法を提案した。つまり、缶詰の原理を発明した。

▼「保存食品開発物語」という本によると、アペールはもともと優れた料理人だった。乾かしたりいぶしたり、といった伝統的な保存方法に通じていて、味わいや食感に物足りない思いを抱いていたらしい。試行錯誤をくり返し、たどり着いたのが缶詰の原理だった。いうまでもなく、やがて缶詰は世界の食を大きく変える。

▼缶詰の強みは長持ちし手間がかからないことだろう。この特長を生かして21世紀に新しいビジネスを立ち上げたのが、川端嘉人氏だ。世界各地から調達した缶詰をそろえた飲食店をフランチャイズ展開している。多彩な品ぞろえの一方で食材のロスがない。調理が不要なのでコストは抑えられる。起業に向いているという。

▼川端氏は芸術家だ。ビジネスの世界に身を置くようになって創作に打ち込める時間は減ったが、店舗の内装などビジネスに芸術を生かしている面もある。シェフならではの才覚で缶詰を生んだアペールに通じるところがありそうだ。シュンペーターのいう「創造的破壊」の現場では、そんな才能こそ必要なのかもしれない。

春秋 2013/7/28


春秋 2013/7/28. 日本経済新聞

 東京・文京区の高台に、奇跡的に残った大正時代の邸宅。その「旧安田楠雄邸」の一般公開が始まって6年がたつ。きのう訪れてみると、盛夏の中でも、庭の木々をくぐり抜けた風でエアコン無しでも十分過ごせる。日本の家とは本来こういうものだった、と思い出す。

▼奇跡的と呼ぶには理由がある。まず大正の関東大震災と昭和の戦災をくぐり抜けた。平成に直面したのは相続税という課題だ。残された家族や地域の人々の尽力、ボランティアによる調査などで、ある財団法人に寄付することで保存と公開への道が開けた。節句や花見、音楽会など催事の舞台としても地域に定着してきた。

▼邸宅に近い「須藤公園」は回遊式の庭園。土地の高低差を生かした滝と小川が涼しさを醸し出す。ある藩の屋敷跡が実業家であった須藤氏の持ち物となり、没後に遺族が庭にあたる部分を寄付したそうだ。一帯には多くの実業家や作家などが住まいを構えたが、形として残っているものはまれ。街の変化の激しさを物語る。

▼大都市にしては地形が入り組んでいるのが東京の特徴だ。旧安田邸から坂を下った先の商店街、谷中銀座は地元の人に夏休み中の若者ら観光客も加わり、大変なにぎわいだ。台地の邸宅や緑。低地の商店街や水辺。いずれも今となっては土地の個性であり、都市の持つ資産だ。こうした多様性を、うまく生かしていきたい。




春秋 2013/7/27


春秋 2013/7/27. 日本経済新聞

 土光敏夫氏がIHIの会長から、再建役として請われて東芝の社長に就いたときのことだ。トップ交代を機に新しい社訓をつくってみては、という提案をこう断った。「どうせ作るなら、毎日変わる社訓をつくったらどうか」(「清貧と復興 土光敏夫100の言葉」)

▼いったん定めた会社の指針を社員が固定的にとらえれば、新しいやり方や考え方が生まれてこない。変化の速い時代を乗り切れない――。日替わり社訓にするくらいでないと、と切り返したのはそんな思いがあったからだ。50年近く前の話だが、しなやかに自ら変わっていくことの大切さはそのころから既に説かれていた。

▼デジタル化の波に乗ってきた企業が岐路にさしかかっている。高機能、高価格で伸ばしてきた米アップルのスマートフォン戦略の前に、低価格を武器にした中国企業が立ちはだかる。韓国サムスン電子も先行するミャンマーなどで、中国勢に急速に追い上げられている。ここでも問われるのは企業が日々変わっていく力だ。

▼土光氏は幸運な男だった。東芝の社長になると「いざなぎ景気」が到来し、業績は急回復した。自身も社内の前例にとらわれず、モーレツに働いた。20万〜30万円の取引に社長自ら相手の会社に出向いて契約を獲得。重役会議が長引かないよう、立ったまま開いたこともある。変化を恐れぬ姿勢が運を呼び込んだのだろう。


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