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春秋 2013/7/28


春秋 2013/7/28. 日本経済新聞

 東京・文京区の高台に、奇跡的に残った大正時代の邸宅。その「旧安田楠雄邸」の一般公開が始まって6年がたつ。きのう訪れてみると、盛夏の中でも、庭の木々をくぐり抜けた風でエアコン無しでも十分過ごせる。日本の家とは本来こういうものだった、と思い出す。

▼奇跡的と呼ぶには理由がある。まず大正の関東大震災と昭和の戦災をくぐり抜けた。平成に直面したのは相続税という課題だ。残された家族や地域の人々の尽力、ボランティアによる調査などで、ある財団法人に寄付することで保存と公開への道が開けた。節句や花見、音楽会など催事の舞台としても地域に定着してきた。

▼邸宅に近い「須藤公園」は回遊式の庭園。土地の高低差を生かした滝と小川が涼しさを醸し出す。ある藩の屋敷跡が実業家であった須藤氏の持ち物となり、没後に遺族が庭にあたる部分を寄付したそうだ。一帯には多くの実業家や作家などが住まいを構えたが、形として残っているものはまれ。街の変化の激しさを物語る。

▼大都市にしては地形が入り組んでいるのが東京の特徴だ。旧安田邸から坂を下った先の商店街、谷中銀座は地元の人に夏休み中の若者ら観光客も加わり、大変なにぎわいだ。台地の邸宅や緑。低地の商店街や水辺。いずれも今となっては土地の個性であり、都市の持つ資産だ。こうした多様性を、うまく生かしていきたい。




春秋 2013/7/27


春秋 2013/7/27. 日本経済新聞

 土光敏夫氏がIHIの会長から、再建役として請われて東芝の社長に就いたときのことだ。トップ交代を機に新しい社訓をつくってみては、という提案をこう断った。「どうせ作るなら、毎日変わる社訓をつくったらどうか」(「清貧と復興 土光敏夫100の言葉」)

▼いったん定めた会社の指針を社員が固定的にとらえれば、新しいやり方や考え方が生まれてこない。変化の速い時代を乗り切れない――。日替わり社訓にするくらいでないと、と切り返したのはそんな思いがあったからだ。50年近く前の話だが、しなやかに自ら変わっていくことの大切さはそのころから既に説かれていた。

▼デジタル化の波に乗ってきた企業が岐路にさしかかっている。高機能、高価格で伸ばしてきた米アップルのスマートフォン戦略の前に、低価格を武器にした中国企業が立ちはだかる。韓国サムスン電子も先行するミャンマーなどで、中国勢に急速に追い上げられている。ここでも問われるのは企業が日々変わっていく力だ。

▼土光氏は幸運な男だった。東芝の社長になると「いざなぎ景気」が到来し、業績は急回復した。自身も社内の前例にとらわれず、モーレツに働いた。20万〜30万円の取引に社長自ら相手の会社に出向いて契約を獲得。重役会議が長引かないよう、立ったまま開いたこともある。変化を恐れぬ姿勢が運を呼び込んだのだろう。




春秋  2013/7/25  日本経済新聞

 「つぎつぎになりゆくいきほひ」。なんだか呪文のようだが、政治学者の丸山真男が唱えたフレーズである。主体的に何かを「する」よりも、自然に次々に「なりゆく」ことを重んじ、その勢いに身を任せる――。それが日本人の思考と歴史の流れを解くカギだという。

▼古典をもとに丸山が見いだしたこの概念は、たしかに近年のめまぐるしい政治の転変にも当てはまろう。自民党をぶっ壊すと小泉さんが叫んだ時代があった。首相1年交代の時期があった。民主党の政権があった。そして昨年末からは安倍さんの天下となり参院選も圧勝だ。まこと「つぎつぎになりゆくいきほひ」である。

▼勢いに乗って存在感を増してきたのが、既得権をしっかり守ろうとする「古い自民党」だ。郵便局、農協、医師会、建設業……。比例代表の当選者をみても、昔ながらの業界が支えた面々がずらり並ぶ。遅ればせながらの参加となったTPP交渉で、コメなどの「聖域」死守にばかり気が向くのも当然のなりゆきだろうか。

▼「歴史意識の『古層』」と題するくだんの論文で、丸山はもうひとつ指摘をした。日本人が過去や未来よりも、もっぱら「いま」を尊ぶというのだ。勢いのある「いま」が良ければあとさきは考えない。これもまた懸案の先送りを続ける現在の日本のことのようだ。「1強政治」の地表に、古層がぬうっと顔を出している。




春秋  2013/7/24  日本経済新聞

 ラテン語の「アヌス・ホリビリス」は「ぞっとするようなひどい年」といった意味である。1992年の末、英エリザベス女王は演説でこの言葉に沈んだ思いを託した。言うまでもない。王室はチャールズ皇太子とダイアナ妃の不仲をはじめスキャンダルまみれだった。

▼そのころは「税金を使いすぎる」という意見も含め、王室の将来に否定的だったり悲観的だったりする声ばかり伝わってきたものである。いま、ウィリアム王子とキャサリン妃の第1子誕生にわくかの国の光景を見ていると、少しずつ姿を変えながら危機を乗り越え、世論を味方につけていった王室のたくましさを感じる。

▼王子は両親の離婚と母ダイアナ妃の凄絶な事故死というつらい体験をした。一方、キャサリン妃は未来の英国王に貴族でない一般の家庭から嫁いだ350年ぶりの女性だ。婚約指輪がダイアナ妃の形見というのもホロリとさせるものがあった。そんなこんなで2人が新しい王室を担う切り札になったのも、わかる気がする。

▼どの国にも王室の存続に反対する人がある割合はいる。が、その声はお祭り騒ぎの陰に隠れている。ウィリアム王子は勤め先の空軍から2週間の育児休暇をもらい、その後も妃と協力して子育てをするそうだ。いいことである。ちなみに、「アヌス・ホリビリス」の反対は「アヌス・ミラビリス」(素晴らしき年)という。




春秋  2013/7/23  日本経済新聞

 臥薪嘗胆。パソコンで「がしんしょうたん」と打てばわけなく変換してくれるが、書いてみれば難しい四字熟語である。それでもよく使われるのは、本望を遂げるためには薪(たきぎ)の上に寝たり苦い胆(きも)を嘗(な)めたり、という我慢、我慢のイメージが共感を呼ぶからかもしれない。

▼参院選までは臥薪嘗胆だ。昨年の衆院選で自民党が大勝した直後から、そんな指摘をインターネット上でしばしば見かけた。首相に憲法改正など安倍カラーを発揮してもらうためには参院選にも勝たないとダメ、それまではつらいけれど我慢だという安倍ファンの声である。しばらくは経済中心でやむなし、というわけだ。

▼その参院選で自民党は圧勝した。臥薪嘗胆の思いを抱く人々から見れば、いまこそ色を出すときだ、安倍さん本来の道を歩むべきだ――となるのだが、さてご本人はどうだろう。声援に応えたいのはやまやまでも、中国や韓国ばかりか米国をも刺激する、経済界や市場も不安を募らせる、そうした危険と隣り合わせである。

▼そもそも今回の選挙では首相もイデオロギー色の強いテーマを前には出さず、もっぱらアベノミクスへの期待を引き寄せて勝った。熱心なシンパだけでなく、景気回復を願う多くの有権者の味方あっての勝利だったはずだ。ならば選ぶ道は限られる。失われた20年の臥薪嘗胆にこそ報いてほしいと願う、世の声でもあろう。



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