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春秋  2013/7/22  日本経済新聞

 「誠実にして叡知(えいち)ある、愛国の政治家出でよ」。これが願いである――公開中の映画「風立ちぬ」の主人公堀越二郎は昭和20年8月15日、「終戦日誌」と題したリポート用紙1枚とちょっとの文章を書いた。その末尾を、新しい時代に向けた政治家への期待で結んでいる。

▼零戦の設計主任だった技術者がのこした一文はいま、埼玉県所沢市の所沢航空発祥記念館に展示されている。読んで気づくことがあった。敗戦は未曽有の出来事であったが、結局、いつの時代もわれわれが政治家に求めるのは誠実、叡知、愛国なのではないか。愛国には「まっとうな」の形容が欠かせぬにしても、である。

▼参院選で自民党が圧勝した。衆院と参院のねじれが消え、国を統べる形が決まった。この選挙では参院議員121人だけでなく、当面の政治の形を選んだことになる。当面、とは長ければ次の参院選までの3年間である。半年あまりでかくも没落した民主党の体たらくをみれば、3年とは決して短い期間ではないとわかる。

▼42歳の堀越にとっての敗戦は、何より「飛行機を造ることが終った」ことだった。それ以外は「何も分らない。分らないが考えなければならぬ」と記している。今の世にも考えなければならぬことはたくさんある。まずは投票しなかった人々のことである。誠実、叡知、愛国の政治家が競い合ったのだとすれば、多すぎる。




春秋  2013/7/21. 日本経済新聞

 普段はめっきり使う機会が少なくなったが、今日は鉛筆が大活躍する日。投票に用いる筆記用具は鉛筆が基本である。スルスルと投票用紙の上を滑るあの気持ちよさは、他の場所ではめったに味わえない。意外な書き心地にハッとした経験のある方は多いのではないか。

▼秘密は鉛筆と用紙の両方にありそうだ。芯の種類はちょっと柔らかめの2B。紙はポリプロピレンでできた合成紙である。二つの相性が良いのか、自分の字はこんなに上手だったのかと錯覚しそうになる。跳ねるところは跳ねる。止まるところは止まる。小学生のころ、漢字の書き方を教えてくれた先生の言葉を思い出す。

▼名筆で知られた空海が「性霊集」に記している。「正しく美しいだけでは立派な書にならない……字とはもともと人の心が万物に感動して作り出されたものなのだ」。投票は書道とは別物だが、文字に大切な思いを込めることでは変わりない。鉛筆の心地よさは、己の意志を明確に示す、すがすがしさと無縁ではあるまい。

▼快感と呼んでもいいだろう。選挙権を持つ者には、あの書き心地を味わう特権がある。筆記する道具によって、文字の意味が異なるはずはない。それでも日ごろキーボードやボールペンで書くのとは何倍も違う重みが、投票用紙の上の文字にはある。投票率はどうなるか。予想は様々だが選挙の行方は最後まで分からない。





春秋  2013/7/20. 日本経済新聞

 自治体が破綻するとはこういうことか――。北海道夕張市を訪れた人は誰しも、かつて殷賑(いんしん)を極めたこの炭都の苦境を目の当たりにするだろう。往時は小学校が22校、中学校は9校あったのが統廃合を繰り返し、現在わずか1校ずつ。残された校舎の荒廃ぶりが悲しい。

▼財政破綻が明らかになって7年。借金はなお320億円にのぼり、2026年度までの完済をめざして血のにじむ努力が続く。職員を徹底削減した市役所はがらんどうのようだ。最盛期に11万人を超えた人口は10分の1以下という。炭鉱で栄え、やがて没落し、観光投資で巻き返そうとしてついに敗れた軌跡がここにある。

▼クルマ産業の町として世界に知られた米デトロイト市の、桁違いの財政破綻が衝撃を与えている。負債総額は180億ドル。自動車大手3社(ビッグスリー)に支えられてまばゆく輝いていたモーターシティーの悲劇だ。この都市もまた基幹産業の衰退と人口流出に苦しみ、それに抗(あらが)いながらも刀折れ矢尽きる歴史を歩んだ。

▼すでに市街地のインフラは傷みが激しく、これからは行政サービスにもさらなる影響が出そうだという。わが夕張市にも増して苦しい道のりが予想されるのだが、ここにきて自動車産業が復活しつつあるのはひとつの光明だろうか。多くのものを失ってもひるまぬ人々がいるに違いない。再生の物語が描かれるに違いない。





春秋  2013/7/19  日本経済新聞


 巨体のゾウが鳴き声を上げると、その迫力に思わず後ずさりする。ライオンの咆哮(ほうこう)には、風圧すら感じる。声が大きい動物は、概して体も大きい。ところが中には体が小さくても大きな声を出す生き物もいる。音量を体積比で競ったら、断トツで1位はセミではないか。

▼ファーブル昆虫記に、セミが大声を出せる秘密が詳しく記されている。音源の「シンバル」と、音が共鳴する広い「教会」が、おなかの中に仕組まれているそうだ。発声に関わる器官が体全体の4分の1も占める。まるで楽器のような、鳴くために生きる小さな命である。やかましいと言ったら、かわいそうかもしれない。

▼鳴くのは雄だけ。雌は黙っている。与えられた日数は短い。さびしくて、相手を求めて、泣き叫んで、雄は必死に自分の存在をアピールしているのだ。猛暑の予兆だろうか。気象庁によれば、東京では平年より約2週間も早くアブラゼミの初鳴きが観測された。選挙戦で走り回る拡声器の声が重なり、にぎやかな夏である。

▼ファーブルは一つユニークな実験をした。セミが鳴く下で大砲を撃ち、反応を観察した。少しも動じず、鳴きやまなかったため「セミが大声なのは耳が遠いから」と断じている。でもそれは間違いではなかろうか。雌がしっかりと聞き分けているからこそ雄は叫んでいるはずだ。あと2日間、候補者の主張に耳を傾けたい。




春秋  2013/07/07. 日本経済新聞

 三国志のファンにとって晋という国はなじみ深い。魏呉蜀の三国がならび立つ状態に終止符を打ち、統一をなしとげた王朝だ。その首都・洛陽で、ある時に無名の文人の書いた詩が大評判になった。それを書き写すため人々は争って紙を買い求め、紙の値段が高騰した。

▼この故事から生まれた成語が「洛陽の紙価を高める」だ。漢文では「洛陽紙貴」と書くらしい。たまたま中国メディアでこの言葉を目にしたのは、今年はじめのことだった。19世紀のフランスの思想家、トクヴィルの「旧体制と大革命」という本が売れている、と。そして半年たった今でも、平積みにしている書店は多い。

▼当時としては独創的な視点から、1789年のフランス大革命の原因と影響を解き明かそうとした、社会科学の古典。そんなお堅い本がベストセラーの仲間入りをしたのには、いささか驚いてしまう。どうやら、共産党政権の最高指導部の一角を占めている王岐山氏が推薦したことが、一つのきっかけになっているようだ。

▼興味をそそるのは王氏が推薦した狙いだ。うかつに政治改革をすればフランス大革命のようなことになりかねない、と言いたいのだ。保守的な勢力はこんな見方だ。逆に、政治改革を進めなければ革命が起きかねないのだ、という受け止め方もある。いずれにしろ革命前夜めいた切迫感が伝わってくる。気のせいだろうか。




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