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春秋  2013/7/3. 日本経済新聞

 20世紀の初めにフランスの首相になったクレマンソーが「公務員は図書館の本にちょっと似ている」と言っている。なぜなら「一番役に立たぬものが一番高いところに置いてあるから」。「虎」の異名をとった強面(こわもて)の政治家はどうやら公務員が好きではなかったようだ。

▼なるほど、市民だって役所に出かけてトップの世話になるようなことはまずない。ただ、図書館も大事な蔵書は棚のてっぺんはおろか人の手の届かぬ書庫の奥にしまい込んだりする。公務員の配置にも身内には通じる理屈があるのだが、先週末に発表になった中央省庁の幹部人事を見ると、その理屈が揺らいでいるらしい。

▼今年はサプライズが目立ったと報じられた。厚生労働次官に就いた村木厚子さんを筆頭に女性を登用し、本命とは目されていなかった人をトップにする。要は役所の慣例に首相官邸が手を突っ込んだということである。来春に内閣人事局ができると、官邸と霞が関とのせめぎ合いがより激しくなるとも取り沙汰されている。

▼どちらが主導しようが人選びは適材適所のはず、と言えば世間知らずと笑われるだろうか。クレマンソーには「公務員こそが最良の夫である。夕方帰宅したとき疲れていないし、新聞はもう読み終えている」との一言もある。毒舌家の鼻を明かすためには、人事が役所の因習にまみれても政治の人気取りに使われても困る。





春秋  2013/7/2. 日本経済新聞

 山開きの長い行列に並びながら、ふと疑問を抱いた登山者もいるだろう。富士山は誰のものなのか。世界文化遺産といえども、それが土地である以上所有権は必ず誰かに帰属する。静岡県庁にたずねると、8合目から上は神社の富士山本宮浅間大社の敷地なのだそうだ。

▼富士山の山頂部の持ち主の変遷は、争いの歴史である。江戸期の初めまで駿河と甲斐の国が一歩も譲らず、徳川家康の裁定によって浅間大社に与えられた。明治維新で国の所有となったが今度は国と浅間大社の間で裁判が始まる。現在の形に落ち着いたのは、ようやく1974年(昭和49年)に最高裁判決が出てからである。

▼大切な場所であるほど、いざこざが起きやすい。南シナ海もそうだろう。中国と東南アジアの国々が領有権を主張し、一触即発のにらみ合いが続いている。ブルネイで開いた外相会議では、中国が海上活動のルールづくりに合意したが、どれほど本気なのかは分からない。力に物を言わせた実効支配の思惑が見え隠れする。

▼富士山の所有権は流転したが、それで何かが変わったわけではない。山頂部の不動産の登記書類も実際には存在しないそうだ。頂上の施設は分担して静岡県と山梨県に税金を納め、事件が起きれば両県の県警が協議で担当を決める。力ではなく話し合いによる問題解決。やはり富士山は日本が世界に誇る平和の象徴である。




春秋  2013/7/1. 日本経済新聞

 「半分」と酒を頼む客が飲み屋にときどきいる。常連でないと難しいが、1合徳利(とっくり)に半分だけもらって、なくなると「もう半分」。その方が得な気がするとか無駄がないとか、わけはいろいろだろう。酒が過ぎぬようこまめに自分を診断する呑兵衛(のんべえ)の知恵とも拝察する。

▼その知恵にならえば、時もずるずる流れるよりいくつも区切りがあった方がいい。きょう、ことしの後半が始まる。そして20日後は参院選である。経済、原発、憲法……。節目にもう一度、自らの考えを診断して投票に臨みたいものだ。1年のもう半分はおろか、さらに先の国の姿も左右するチェックポイントなのだから。

▼思い出すのも腹が立つが、先週の国会の終わり方はひどかった。大事な法案はほったらかしで参院を舞台にただ互いの足を引っ張り合う。それなら政党でなく徒党と呼ばねばならぬ。愚にもつかぬはかりごとをみせられ、つくり笑顔で「選挙では応援よろしく」とくれば、「何をしゃらくさい」と応じるより思いつかない。

▼それでも「絶望」は禁句であろう。落語にも「もう半分」という噺(はなし)があって、「もう半分」を重ねたじいさんが酔って虎の子の大金を奪われてしまう。酒も時の流れも、ずるずるに任せれば気づいた時には大切なものがうせている。今度の参院選には国会の半分でなく政治の全部がかかる。絶望で国の将来は決められない。

王道か、覇道か.....

【産経抄】
 
8月3日
 
2012.8.3 03:20
 
王道か、覇道か。新設大学のテニス部を舞台にした青春小説『青が散る』(文春文庫)に、部員たちが論争する場面がある。
 
いかなる手段を使っても、試合の勝利こそ至上とするのが覇道ならば、王道のテニスとは何だろう。作者の宮本輝さんは、答えを示さない。ただ、登場人物のその後の生き方に関わってくることだけを示唆している。
 
 ▼ロンドン五輪の体操男子団体総合で、圧倒的な強さを見せた中国選手の姿が、個人総合の表彰台には見られなかった。
 
6種目それぞれの技がますます高度化してきた近年、すべてをこなすのは、選手に大きな負担がかかる。そこで中国は、2種目程度のスペシャリストを養成して戦う「分業方式」を採用している。種目別でもメダルを量産するはずだ。
 
 ▼内村航平選手(23)は、それを承知しながらオールラウンダーにこだわってきた。28年ぶりに日本にもたらした金メダルは、体操の王道を歩んできた者だけに与えられる栄光である。
 
▼バドミントン女子ダブルスでは、いわば行き過ぎた覇道で、4組のペアが失格した。決勝トーナメントでの組み合わせが有利になるように、1次リーグで勝利を放棄するようなプレーが問題となった。
 
 ▼おとがめはなかったものの、サッカー女子日本代表「なでしこジャパン」の佐々木則夫監督が、1次リーグの南アフリカ戦で出した「引き分け指示」も、論議を呼んでいる。金メダルに少しでも近づくための、苦渋の決断だったという。
 
 ▼「覇道の秘策やな」「それを王道に変えるのは、お前と金子や」。『青が散る』のなかにこんなやりとりがあった。「なでしこ」たちは決勝トーナメントで、「王道サッカー」を再び見せてくれるだろう


【産経抄】
 
8月2日
 
2012.8.2 03:35
 
 夏目漱石の書画や遺品を家宝として、大事にしていた人は少なくない。漱石が原稿用紙の上に残していた鼻毛まで大切に保管していたのは、漱石の三大弟子の一人といわれた随筆家の内田百●(ひゃっけん)くらいだろう。
 
 ▼奇行と貧乏が売り物だった百●もまた、弟子に恵まれた。毎年の誕生日に「百●先生はまだ生きているのか」という意味で開いた「摩阿陀会(まあだかい)」は、黒澤明監督の最後の映画、「まあだだよ」でも紹介されている。
 
 ▼ロンドン五輪の競泳男子バタフライ200メートルで、前回の北京に続いて銅メダルを獲得した松田丈志選手(28)と久世由美子コーチ(65)の師弟関係もかなりユニークだ。
 
宮崎県延岡市出身の松田選手は4歳の時から、ビニールハウスで囲まれただけの地元のプールに通い始めた。そこでボランティアで教えていたのが、元競泳選手の久世コーチだった。
 
 ▼松田選手の才能に気づいた久世コーチは、小学生時代から中学生や高校生の大会に出場させ、高校に入ると、仕事をやめて指導に専念する。
 
大学進学を機に教え子を手放すつもりだったが、松田選手は納得しない。中京大が2人一緒に迎え入れると、久世コーチは夫や義母を残して愛知県豊田市に単身赴任して、松田選手と共同生活を送った。
 
 ▼身長184センチ筋肉隆々の松田選手が腰をかがめて、小柄な久世コーチの指示を神妙に聞く姿はほほえましい。四半世紀にわたって2人を見守ってきた家族にも頭が下がる。延岡市の地元企業も遠征費や合宿費を支援してきたという。
 
 ▼女子マラソンの高橋尚子選手と小出義雄監督、男子平泳ぎの北島康介選手と平井伯昌コーチ…、名選手と名伯楽の二人三脚のドラマを味わうのも、五輪の楽しみのひとつだ。
 
●=間の日を月に
 



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