失われた仏教最古の叡智

歴史の中に埋没し、忘れ去られてしまった仏教の最初期の時代に説かれていた「ブッダの究極の理法」の根幹について、その真相を語る。

五木寛之『歎異抄の謎』について

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先日、五木寛之氏の『歎異抄の謎』 (祥伝社新書)を読んだ。本書は、おそらく、五木氏のベストセラー小説でもある『親鸞』の主題に関連するものであるのだろう。


そもそも、浄土真宗の捉え方を知ろうとするときに、親鸞聖人自らが書いたとされるその代表的な経典を開こうとすれば、それらは学者並みの知識量をもって書かれていることからしても、それらを解読することは、我々一般人にとって、甚だ困難であるようにも感じられる。


例えば、親鸞の『教行信証』などは、インドや中国の浄土経典に関する予備知識をもってしなければ、その基本的思想を捉えることは、到底難しいのだと思う。


そういう訳で、親鸞聖人を開祖とする浄土真宗において、親鸞聖人の根本的な捉え方を要約しているとされる『歎異抄』というものが重要視され脚光を浴びるということは、当然のことであるようにも感じられる。


それでは、その『歎異抄』というものは一体、誰の手によって書かれたものか?


『歎異抄』の作者については、如信・覚如などが書いたとする諸説もあるようであるが、一般的な仏教学においては、(親鸞の没後30年あまり後に)親鸞聖人の晩年になってからの直弟子の中の一人である唯円(1222〜1289年)という人によって書かれたものである、というのが一般的な定説であるのだろう。


ところで、一般的に『歎異抄』の根本と言えば、「悪人正機説」であるとされているようであるが、五木寛之氏はそのことに関して、読者に疑問を問いかけている。


これはよく知られていることであるが、『歎異抄』は蓮如上人(1415〜1499年)によって長い間、禁書とされてきた。


それはもしかしたら、蓮如上人が、『歎異抄』が誤解を招きやすい個所がある、ということを危惧したために隠しておいた、ということなのだろうか?


これらのことに関連して、法然(1133〜1212年)は『選択本念仏集』の最後に、「この文章を読んだのちのは、壁土に塗りこめて隠すがごとくにして、軽々しく人には見せるな」という意味の言葉を付け加えている。


そして、実は、『歎異抄』の末尾にも、「外見あるべからず」という言葉が付されている。


世間の人は、文章の方が伝わると思っているが、文章にすると、それが、今回のような宗教書であれば特に、自分の都合のいいように解釈する人々が必ずといっていいほど現われてくる、ということなのだろう。

要は、念仏宗の思想は、苦しんでいる人たちにとっては、即効性のあるものだけれども、それと同時に、それを誤って解釈すれば、危険思想に発展する可能性を含んでいる、ということなのかもしれない。


そして、その危険性を熟知していたのが、まさに、法然であり、唯円であり、蓮如であったのだろう。


法然と親鸞とは、阿弥陀仏を信じ切って、ただ、ひたすら「南無阿弥陀仏」と唱えれば、死後において「極楽浄土」に生まれるのだと断定した。


歎異抄の謎、すなわち、その作者である唯円が本当に言いたかったこととは、それは、単なる、念仏宗の表面的な思想だけではなく、その危険性に関する注意書きを注視しなければならない、ということを、われわれにといかけている、ということであり、そして、実は『歎異抄の謎』の作者である五木寛之氏は、改めて、そのことを、我々に問いかけているのではないのだろうか?


私は、五木寛之の『歎異抄の謎』を読んで、そう感じた。

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