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私は、本稿において、最初期の仏教で何が説かれていたのか、ということについて、その詳細を述べてきたわけであるが、実は「ブッダの言葉」の核心とは、ただ次の一つの言葉によて要約できると私は思っている。
つまり、ブッダの「言葉」の核心とは、「自説のみが絶対的に正しいと思わない」ということ、ただこの言葉の一言に尽きると思う。
世の中においての争いや論争の源泉は、それを深く掘り下げて観察するなら、究極に言えば、「自分(自説)が絶対に正しい」という思いに起因している、ということが分かってくるのである。
そもそも、一体、自らの主張が絶対的に正しいという根拠とその確証は、どこにあるのだろうか?
そして、その「自らが絶対的に正しい」と思っているその主張は、すべての人に妥当するものなのだろうか?
さらに、他者との争いや論争の引き金となるものは、前章での論点でもあった「他者への謗り(そしり)」や「他者への非難」だけではない。
「他者に対しての誤りを指摘すること」や「他者への忠告」もまた、往々にして(指摘者が、よほどの熟達者ではない限り)争いや論争の引き金となるのである。 というよりはむしろ、世の中においての近隣との不仲(あるいはトラブル)となり得る最大なる要因は、「他者に対して誤りを指摘すること」と「他者への忠告」(それに類する「陰口」なども同様)などであると思う。
つまり、「他者に対しての誤りを指摘すること」や「他者への忠告」というものは、「他者への謗り」や「他者への非難」と同様に、程度の差はあっても、基本的には「自分が絶対的に正しい」という思いに基づいており、前者と同じ構造から成り立っているものであると私は捉えている。
多くの人は、一体何ゆえに、他者のことが気になるのだろうか?
そして、多くの人は、一体何ゆえに、自らを基準として、他者に対しての誤りを指摘したり、あるいは、自分の価値観を「ものさし」として他者を(自分の思いどおりに)変革させようとするのだろうか?
それは、他者の言動を気にすること、そして、自らの価値観を基準として他者を変革させようとすることが、人間の本能に由来しているからだと思う。
人は、他者のことを気にすることによって苦しむことになる。
換言すれば、人は、他者の言動を過剰なまでに気にすることを阻止できなければ、苦しみは減少するどころか、知らずしらずのうちに、雪だるま式に膨れ上がっていくのだろう。
自分のことは蚊帳の外に置きながらも、他者のことを過剰なまでに気にする人は、自らが苦しみの連鎖(古代インド人は、これを輪廻と呼んだ)から抜け出ることは難しい。
私は、ブッダの境地に至っている人は、自らに不満はなく、そして、自らに不満がないからこそ、他者に関して、相手から要求されて(聞かれて)もいないのに、強引に他者の誤りを指摘したり、あるいは、他者への忠告をするようなことはないのだろうと思っている。
つまり、究極に言えば、人(他者)のことは、どうでもいいのである。(このことは、困っている人を助けるな、というような意味ではない。)
ところで、最古層の経典には、奇妙なことに「慈悲の思想」は全く説かれておらず、ただ執着するな、ということのみが説かれている。
一説によれば、「慈悲の思想」はゴータマ・ブッダが説いたのではなく、実は、仏弟子のサーリプッタが説いたとも言われている。
その真相は分からない。
ただ一つ、確実に言えることは、パーリ・ニカーヤ全般に説かれている内容と最古層の経典で説かれている内容とは、かなり異なっている、ということである。
そのことは、間違いないと思う。
仏教は、時代の流れと共に、幾度となく教義の変更が余儀なくされていった。
つまり、仏教は、ある段階から、他者への「救済の思想」が説かれるようになっていったのだろう。
そして、それらが後の仏教の中心的な思想となっていったのである。
そういった仏教内の変革が随時行なわれることによって、さらには、最初にはなかった新たなる思想を取り込んだ経典が増広されることによって、仏教は一般民衆の心を掴み、世界宗教の一つとなり得たのだろう。
文字として書かれたものは、そして、言葉として説かれたものは、仏教の根幹そのものではない。
仏教の真理とは、言語領域のものでは完全には語り得るものではないからである。
そして、そういったことを逆手にとって、そういうあなたは、仏教に固着している、と言う人がいるなら、その人は、ブッダの教えを知らない人である。
仏教で説かれる真理とは、言葉で語り尽くせるものではなく、言葉にして語ったその時点において、既にそれではない、ということになる。
誤解のないように、私は、本稿で述べられていることを、あなたもそうしなければならない、あなたもそうすべきであると言っているのではない。 |

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