高崎線userのRailLIFE

倅:オカシイ。妹の方がネタ撮ってる 親父:偶然は怖いだろう??

20番線、親父の「鉄道以外」

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 「梅雨紀行」は大正156月の旅、順番から言うと全集第12巻収録で、だいぶ飛びますが、飯田線つながりもあるので、この際取り上げてしまいましょう。前回ご紹介した「鳳來寺紀行」の冒頭で、

 鷲津驛から濱名湖を横切り、名のみは久しく聞いてゐる奥山半僧房に詣で、地圖で見れば其處より四五里の距離に在るらしい三河新城町に廻って其處の實家に病臥してゐるK―君を見舞ひ、

云々とあり、その頃から計画していた行程をここに至って漸く実現することになります。紀行文は、おそらく鷲津で浜名湖を縦断する船乗り場での、店の婆さんとの、飲食代が足りる、足りないの言い合いから始まり、

 今日はもう一つ私は失敗をやつてゐた。鷲津までの切符を買つてゐながら一つ手前の新居町驛で汽車を降りた。濱名湖が見え出すと妙に氣がせいて、ともすると新居町から汽船が出るのではないか知らといふ氣になつたからであつた。が、矢張り淡い記憶の通り、鷲津から出るのであつた。そして通りがかりの自動車を雇つて鷲津の汽船發着所へ着いたのである。然しその時の船はもう出てゐた。次の正午發まで一時間半ほど待たねばならぬ。そして私は酒をとつた。朝飯を五時に濟まして來たので妙に食慾があり、茶店で出した肴だけでは足りなかつた。茶店の婆さんは附近の宿屋だか料理屋だかに電話をかけて二三品のものを取り寄せて呉れた。それこれの勘定が間違のもとゝなつたわけである。

 時刻表を丹念に読み込んで旅の計画を立てるという牧水にしては、随分とうかつな事をやるものです。舘山寺で船を下り、寺を見てから再び船で気賀へ、ここで迷ったあげく、顔だけでも見て玄関先で失礼しようと、社友の吉野栄蔵に会いに行き、結局引き留められて一泊。翌日、吉野とともに軽便鉄道で奥山半僧坊を訪ねます。
 この「軽便鉄道」とは、遠州鉄道奥山線。ウイキペデイアネタでは、

大正3年に、まず浜松市街北西部の元城から金指までが開通、翌年には当初の起点となった板屋町に乗り入れた。同年に金指から気賀(後に気賀口)まで延長している。
ここまでは建設も順調だったが、気賀から奥山までは、用地買収のトラブルや濱松鐵道(大正4年に濱松軽便鐵道から改称)自体の経営難から難航し、大正12年にようやく奥山まで全通した。

という事で、まだ出来てから3年程の新しい鉄道ということになります。
 濱松鐵道は、戦後の昭和22年、遠州鉄道と合併し、「遠州鉄道奥山線」となり、その3年後には曳馬野までを600Vで電化、曳馬野以北の列車との併結運転も行われるようになったようです。昭和26年には非電化区間での蒸気機関車を全廃、気動車に切り替え、また昭和33年、起点を遠鉄二俣電車線の遠鉄浜松駅に統合しています。
 しかし、いかんせん沿線人口が当時それほど多くなく、また遠州鉄道になってからも軽便鉄道のままで貨物輸送も低調、開業当時から続いていた赤字体質は変わらず、数々の合理化策も効なく、昭和38年の気賀口以北の廃止を経て、翌昭和3910月31限りで姿を消しました。
 ここで使っていた「キハ1803」は、北陸の尾小屋鉄道に譲渡され、昭和52年の廃線まで使われ、現在も小松市の「汽車ポッポ展示館」に保存されています。私も、昭和51年秋、尾小屋鉄道を訪れ、夕闇迫る中、ようやっと写してきた写真が、これ。


イメージ 1
尾小屋鉄道のキハ3、もと遠州鉄道奥山線キハ1803

 牧水一行はその後、奥山から山越えをして新城に至り、再び故郷で病気療養中の金澤修二を見舞います。突然のことで金澤も大いに驚き、家人とともに料理屋で夕食をとることになります。この先が笑えるのですが、

 杯をなめながら、席に出た藝者たちから私は意外な事を聞いた。鳳來寺山の佛法僧聽きが近來急に流行り出し、なほその宣傳のため土地の有志に招かれてわたしたち一組は昨夜出かけ、殘る一組は今夜鳳來寺に佛法僧聞きに行つてゐる、といふのだ。呆れながら、お前たちがあの鳥を聞いて何にするのだ、と言へば、いゝえ、お客樣ごとにその事を吹聽して勸めるのですよ、といふ。その代り佛法僧は近來頻りに啼くのださうだ。この前、私の聽きに來た時は山の上の寺に九晩泊つて辛うじて二晩だけ聽き得たのであつた。今は行きさへすれば毎晩聞けるといふ。聲を絞つて友人は言つた、佛法僧もえらく商賣氣を出したもんですネ、と。

「それも先生のおかげサ。」

 早や醉つて顏は眞赤に、豐かな頬鬚のつやゝと白い老父は笑つた。この前來た時、私は『鳳來寺紀行』にこの鳥の事を書いて雜誌『改造』に出した。それが今まで殆んど無關心であつたこの附近の人たちに意外な反響を喚んだのださうだ。現に主要な停車場には佛法僧の繪をかいたポスターが張られ、私の文章の中の文句が大きな字で引かれてあるといふ。

 自分の作品がもとで、静かな山里が急に名所になり、しかも、この前来た時はろくろく啼かなかったブッポウソウが、最近は盛んに啼いているという、良くわからん話。その日は金澤の家に一泊し、翌623日、

 昨夜の藝者の話で鳳來寺行きはかなり興が醒めたが、然し毎晩啼くといふ佛法僧を樂しみに矢張り出かくる事にした。電氣に變つた豐川鐵道で長篠驛下車、驚くべし其處には鳳來寺行乘合自動車が出來てゐた。

と、鳳来寺山の麓へ。

 寺に一二泊を頼まうかと思ふたが、今では其處にも毎晩十人位ゐの泊客があると聞いたので遠慮され、とりあへず麓の宿屋に一泊することにした。

 この宿で、夜、再びブッポウソウの鳴き声を聞くことになります。ブッポウソウ、実はコノハヅクの鳴き声ですが、実際なかなか「仏・法・僧」とは聞こえないようで、「ブッ・ポー・ソー」の三声啼き、「ブッ・ポッ」の二声啼きのほか、さらに変化があるようです。中西悟道は、「カキトン、カキトン」と金属的な泣き方をする、と、どこかで書いていました。小生も、プレハブ飯場までヘリ空輸で上げたという、長野のとんでもない山奥の現場で、二度程、か細い金属的な「二声啼き」を聞きましたが、本当にコノハヅクであるか、自信がありません。
 翌624日朝、顔を洗っていると、いきなり見知らぬ若者から声をかけられ、これが、名古屋の旧制八高生で創作者の同人、竹中皆二で、彼もやはりブッポウソウを聞きに来ていたのです。

 朝食を共にし、一緒に山に登つた。實は昨夜よく聞いたには聞いたが、耳の惡い私には、もう少し近かつたら、の慾が出たのである。そして山の寺に一二泊を頼まうと思ふたのであつた。寺にはこの前の時の知合の僧侶がゐた。
 彼も少なからず驚いて上へ招じて呉れた。そして、朝から酒ばかり飮んで何をする人かあの時はさつぱり解らなんだが、といふ四年前の囘顧談などが出た。(中略)寺の中もすつかり綺麗になつてゐた。それとなく聞いてみると今夜豐橋の實業家たちが登つて來て佛法僧を聞き乍ら寺で謠曲會を開くのだといふ。T――君と相顧み、麥酒など勸めらるるのをも辭して別れた。(中略)
 宿屋に歸り、折柄の自動車に飛び乘り、長篠に出で、折角の奇遇をこのまゝ別るゝも辛く、其處より二三驛|上手《かみて》の湯谷温泉まで行つて共にゆつくり話さうといふことになり、電車に乘つた。車内は相當にこんでゐたが、湯谷驛に近づくやみな降り仕度をし始めた。名古屋邊から來た所謂散財の客らしい。また相苦笑して其處を乘越し、終點驛川合まで出てしまうた。そして其處に唯だ一軒の宿屋二木屋といふに荷物を置き、行く所もないまゝに百間瀧などといふ邊を散歩した。

 「終點驛川合」、現在の三河川合駅ですが、この駅、13番線の「乗ったゼ!飯田線」(平成2667日)で、実に約30年ぶりに飯田線に乗った駅。例の、

「車やったら、道路に牛寝とるかも知れへんでェ!」

という、名古屋のN店長の「迷言」が出た所です。この時は知らなかったのですが、前回書いたように、ここは豊川鉄道〜鳳来寺鉄道と三信鉄道の接続駅だったので、構内が広々としていた訳もわかりました。

イメージ 2

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三河川合駅

で、牧水はと言うと、

夜、柄にもなく旅愁を覺え、この病身の初對面の友を相手に私は酒を過した。

で、

 六月二十五日。
 頭をよくするどころか、へとゝになつて、夜遲く沼津に歸つた。靜かにならう、靜かにならうと努めつゝいつか知ら結果はその反對になる、いつもの癖を身にしみじみと感じながら。
 硯はよき土産であつた、机の上に靜かである。鳳來寺の山よ。希くは永久に靜かな山であつて呉れ。

と、この紀行文を結んでいます。

(「梅雨紀行」、終わり)

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五十鈴 拓磨
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