高崎線userのRailLIFE

倅:オカシイ。妹の方がネタ撮ってる 親父:偶然は怖いだろう??

20番線、親父の「鉄道以外」

[ リスト ]

「九州めぐりの追憶」

 この紀行文は単行本未収録、全集では第12巻に収録されています。大正1410月から12月末にかけて、大阪、岡山から九州各地を揮毫、講演で巡り、故郷の老母を別府に誘って遊ぶという旅です。ただ、これまでのように詳細な記録でなく、まとめて「追憶」という形ですので、あまり書く内容も無いのですが、ざっと眺めてみましょう。

 牧水の言うには、珍しく当初の予定を少しも狂わさないで50日間歩き回ったそうですが、1028日、喜志子と共に沼津発、大阪で歌会。29日岡山、四泊してこの附近の揮毫会を済ませ、112日から山口県下で二泊、114日八幡に着き、ここで五泊して揮毫会を開催。119日には福岡に入り、揮毫会開催で四泊。1113日には長崎入り。四泊し17日大牟田の従兄弟、若山俊一宅へ。船小屋温泉一泊で再び俊一宅へ戻り、24日まで滞在。25日熊本、26日阿蘇山麓栃の木温泉泊、27日には阿蘇山に登り、28日は熊本、12月1日熊本を出て霧島温泉へ、124日鹿児島入りして揮毫会を開き、当初の予定を終えます。ここで少しのんびりできて、阿久根のツルを見に行ったり、指宿温泉に一泊したりして、1210日宮崎入り。都濃の長姉の所で二泊。老母なども来ており、12日には揃って別府温泉へ。14日、姉や母を駅に見送って、大阪まで航路、船中一泊で15日大阪着、京都へ行って二泊し、沼津には1227日に帰っています。

 「温泉のこと」という一節は、この旅中歩いた温泉場の事をまとめたものですが、ここで笑えるのは、最初人吉から球磨川沿いに一里半あまりの林温泉、「こんどの旅」で、長男の旅人氏と共に泊まったところですが、社友?高木大樹に勧められて霧島温泉に行く事にします。

 其處へ行くには鹿兒島線牧園驛(注;現在の肥薩線霧島温泉駅、昭和37年霧島西口、平成15年現在の霧島温泉口に改称)で降り、霧島火山の裾野の傾斜を約一時間自動車で驅け登らねばならなかつた。驅け登る自動車の右手下には廣々として裾野が開け、裾野のはてには鹿兒島灣(普通錦江灣といふ)が輝き、灣の中には櫻島が聳えて居る。これが健常者で何の用事も荷物をも持たぬ旅客であつたなら如何にも珍しいそして景色のいヽ温泉の道であるに相違なかつたが、因果と我等はさう行かなかつた。既に五十日近い難行苦行の旅を續けて來てゐる我等夫婦の身體にとつてはこの雄大な坂道を驅け登るべく餘りに痛快にわが自動車は疾走し、動揺した。今にも放り出されるか、放り出されたら何處まで轉げて行くか量り知れぬ道下の崖である。必死とばかり車體の其處此處にしがみついてゐるのであるが、そのうちに頭は痛み、眩暈はするといふ風になつて來た。やれゝ高木君はエライ所を教へて呉れた、休息どころか難儀をしに來た樣なものだ、向うに着いた所で爲事も何も出來はしない、第一これでは身體がもたぬ、と思はれた。入浴とは云つても矢張り今までに申込んである鹿兒島での揮毫会の分を其處の温泉で書かねばならなかつた。ほんとにこれはひどい目にあつたと今は早や景色どころか兩眼を瞑しながらひたすらにたヾ悔いられた。
 漸く終點に着いた。見廻せばこれはまた老樹大木しんゝとして聳え立つた中にしよんぼりと小さな小屋が立つてゐるという終點である。エライ處に來たものだ、とまたしても思ひながらそれでも意外に深切な青年運轉手に荷物を擔いで貰つて、更に五六丁の急坂を登つて行つた。洋傘に縋つた妻などはまさしく半泣きの態である。

 と、とんでもない苦難の道、だったのですが、湯量は豊富、また、「人」と「人事」のうちに包まれ通しであった今回の旅で、ようやくそれらから解放され、夫婦二人の普通の旅に戻ったような、そんな気になります。翌日は雪。あまりにも突拍子の無い事ばかり起きるので思わず大笑い。この日はほとんど仕事せず、休養に努めたせいか、翌日は早くから墨を磨り、揮毫に勤しみます。雪の後の好天で、眺めも良く高千穂の峯、韓国岳なども見えたようです。

 滯在三泊、十二月四日、鹿兒島に向つた。今度下りの自動車は寧ろ快く乘りおほせる事が出來た。矢張り先日も堀がけの神經質は疲勞から來たものであつた

 まあ、休養がとれたのなら何より。なお、昭和2年川内まわりのルートが完成し、こちらが「鹿児島本線」、人吉廻りの路線は「肥薩線」と改称されたのは御存じの通りです。この、現在の肥薩線について書かれた部分を抜き出してみましょう。

 熊本を立つ朝は雨もよひであつた。汽車が球磨川に沿ふ樣になると、こまかに降つて來た。それが一層あの大きな山あひの渓の姿を生かしてくれた。靜かにもし、深くもしてくれた。ともすれば眠らうとする勞れた妻を、わたしは幾度か搖り起した。まつたく彼女にしては生れて初めて見る見事な渓谷であつた。木曾川をば幾度か見てゐるであらうが、木曾には此處の明るさ、こまやかさ、すがゝしさが見られないのである
 球磨川を過ぎるとわたしの呼ぶ日本の高山鐵道になる。大畑、矢嶽、眞幸驛あたり、わざゝ遠い處を望まずともいかにいま自分等の汽車が山の高みを辿りつヽあるかヾ解るほとにある邊の車中の眺めは高爽である。肥後大隅日向の平を遙かに見下して走るのは全く心地よい。

 小生も、昭和5042日、熊本からの急行「やたけ」、「えびの」でここを越えました。33/1,000の急勾配を、列車は28km/hでやっとこさ這い上がって行きました。大畑のループとスイッチバック、この程度しか写真が残っていません。牧水が言うような記憶も残っておりません。昭和47年だったかの山津波で、真幸駅は土砂に埋まり、その時の大きな岩塊がホームに残っております。また、この影響で線路有効長が短くなり、鹿児島行きの「やたけ」はそれ以来2両編成に減車(宮崎行き「えびの」はグリーン車を含む4両、「やたけ」もかつては4両だったのでしょう)になっています。


イメージ 1
大畑駅遠景

イメージ 2
大畑駅ホーム風景

イメージ 3
真幸駅(スイッチバック)。ホームの大岩が山津波の名残り


 一方、都城から宮崎までの、いわゆる「青井岳越え」については、

 先に矢嶽附近の高山鐵道をば説いたが、汽車が日向路に入つて山之口、青井岳驛あたりを走る附近がまた甚だ山深い。此處をば高山でなく山中鐵道と呼びたい。汽車は多く山腹を走り、周囲に原始林らしい森林を見て過ぐるのである。青井岳驛で降りた獵師らしい二人の男が貂(てん)に似た獸を背負ひ、藁の笠を冠つてゐたのなども土地に似つかはしい光景であつた。

 小生、この区間も、昭和5042日は南宮崎からDF50の牽く下り客車各停で、暗くなってから通りましたが、ちっともスピードが出ず、「あれ、結構登っているのかな?」と思いました。その翌日、上り?急行「えびの」(宮崎行き)で夕日の中を都城から宮崎まで乗り、「結構キツイ所だな」と、改めて思いました。その後、平成25年になって、電化されたこの区間を817系で越えています。山之口では、この区間1本だけのDC運用と行き違い、悔しい思いをしたものです。

イメージ 4

山之口で交換したキハ40上り列車


 其處を通り過ぎれば日向路の汽車は全部平地を走るのである。宮崎までは乾いた平野、其處からは海に沿ふ。海に沿うた中にも高鍋から美々津岩脇附近の海岸は松林の明るさ美しさ、磯から濱の曲折に富んだことなど、眼に殘る景色である。太平洋の遠いはてのうす紫に光るのもわたしには思ひ出深いものがあつた。

 この区間は、同じ旅行中の43日、宮崎を夕方日暮れ頃出る「日南」だったか、急行電車で大分まで行ったのみ。真暗で何も見えませんでした。もう一度行きたい所ではあるんですがね……

 鉄道関係の話は以上ですが、「おまけ」として酒にかかわる話。

 呑兵衛と云うより「アル中」の牧水の事ですから、この旅でも相当に飲んだはずです。健康を害するまでになり、自分でも「節酒、いや禁酒」と考えていたのでしょう。本人も「アル中」の自覚はあり、別府に呼び寄せた母に、

 「阿母さん、わたしも随分ともう酒を飮んで來たからこれから少し愼しまうとおもふよ。」母の返事は意外であつた。「インニヤ、酒で燒き固めた身體ぢやかル、やつぱり飮まにやいかん」これにも皆笑つた。

と言われます。「この親にしてこの子あり」か……この小文を、牧水は次のように締めくくっています。

 今度の九州旅行は要するに大酒ぐらひのわたしとしての最後であつた。とにかく思ひおくことなく飮んで來た。五十一日の間、殆ど高低なく毎日飮み續か、朝、三四合、晝、四五合、夜、一升以上といふところであつた。而して、この間、揮毫をしながら大きな器で傾けつつあるのである。また、別に宴会まるものがあつた。一日平均二升五合に見つもり、この旅の間に一人して約一石三斗を飮んで來た、と數字に示された時は、流石のわたしも物がいへなかつた。
 が、これで安心してこの馬鹿飮みの癖をやめることが出來るといふものである。現にもうやめている。やめねばならぬ所まで到達して來たのである。やれやれ長い道中でがあつたぞよといふ氣持である。


と言いながら、北海度行脚、さらには朝鮮行脚と、これらでも飲み続けて、寿命を縮める結果となるのは、皆様御存じの通りです。

(「九州めぐりの追憶」、おわり)

.
五十鈴 拓磨
五十鈴 拓磨
男性 / B型
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
友だち(24)
  • うさびっち
  • 春Q
  • 区長
  • 自信過剰
  • Sunrise
  • =G.T.T=RACING
友だち一覧
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

過去の記事一覧

スマートフォンで見る

モバイル版Yahoo!ブログにアクセス!

スマートフォン版Yahoo!ブログにアクセス!

よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

ふるさと納税サイト『さとふる』
11/30まで5周年記念キャンペーン中!
Amazonギフト券1000円分当たる!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事