1.1 概要
温暖化による水資源への影響は、大きく豪雨と渇水に分けることができる。幾つかの全球気候モデル(GCM)によると、温暖化により豪雨の強度と、無降雨日数の増加が顕著になると報告されている。豪雨とは災害の原因となるような降水強度の特に大きい降雨を指す。豪雨は様々な災害をもたらし、無降雨は水利用を制限させ、ともに経済損失をもたらす。
本報告書では、豪雨の増加影響に関連して、洪水被害と斜面災害の増加、貯水池の土砂堆積問題の、渇水頻度の増加に関連しては水需給の変化についての将来影響を評価した。また、気温上昇に伴う積雪水資源の減少について評価した。
本節では将来予測の方法について述べる。ここで利用される豪雨のデータは、日最大降雨の現在の統計値に基づいている。空間分解能、時間分解能に限界がある現在のGCM の結果では、将来の統計値を推定するのは困難である。そのため利用した豪雨のデータは、地域によっては過大または過小になりうることに留意する必要がある。
統計値に従って導かれているため、利用したデータ期間が限られていること、観測されている地点が限られていること、分布データを作成する際の空間分解能が粗いことから、局所的な現象を表現できないこと、必ずしも時間統計値が完全でないこと、現在気候の統計値であるため将来の統計値が変化する可能性があること等から、降雨データは不確実性をもつ。詳細については、1.3(1)を参照のこと。
1.2 影響評価の対象と方法
(1) 洪水氾濫
日本は過去、洪水に対して様々な対策(治水)を行ってきた。その結果、現在では、洪水氾濫が頻発することはなくなりつつある。
しかし、気候変動に伴って豪雨が激しくなると、過去に予測された水位を上回ることになり、洪水氾濫の危険性が増加する。
洪水氾濫の経済被害を調べるために2つの手法を組み合わせた。まず、洪水氾濫モデルによって氾濫域を求めて浸水深と浸水期間を推定した。次に土地利用に応じて資産価値を与えて、洪水による被害額を計算した。
この方法は、国土交通省の治水経済マニュアルに沿っている。この2つの方法によって洪水氾濫の被害を計算した。
洪水氾濫モデルによって、50年に一回の確率で起こる豪雨と100年に一回の確率で起こる豪雨による氾濫域を計算し、この2つの豪雨による洪水氾濫被害額の差を求めた。これは、日本の治水整備が50年に一回の豪雨から守ることができると仮定している。
その上で100年に1回の豪雨が温暖化によって50年に一回生じるようになった場合に拡大する被害を考えている。100年に一回の豪雨を対象としたのは1級河川では、およその100年に一回の洪水規模に対する整備水準を目標にしているからである。
なお、ここで用いた雨の空間分布は、日本全域に一斉に豪雨が生じるようにしている。これは、実際に降雨域が上流から下流に移動した場合に該当する場合であり、潜在的な最大被害と考えられる。
(2) 斜面災害
豪雨は土砂崩壊や地すべりなどの斜面崩壊をもたらす。日本は急峻な地形と広大な山岳域を持つため、現在も斜面災害に悩まされている。
斜面災害は人命や財産に対する被害に留まらず、交通遮断による経済損失も生じる。日本全国に対策を施すことは不可能であり、重点地域の特定が必要とされてきた。
そこで、本報告書では、数値地図情報を用いて斜面災害発生確率を求め、リスク地図を作成した。
斜面災害発生確率は、2つの変数、起伏量(数値地図メッシュ内の最高点と最低点の標高差)、地下水の動水勾配(地下水流速)から推定される。災害発生確率は2つの変数を持つロジスティック関数によって構築される。この関数の定数は、過去の災害実績に合致するように求められた。
また、この関数は地質毎に推定されている。変数である地下水の動水勾配は、降雨を入力として、水の流れから求めている。つまり、30 年に一度の豪雨を入力することによって30年に一度の斜面災害の確率を求めることができる。
ここでいう斜面災害確率80%の地域とは、30 年間にその降雨があった場合、100 地点中、80 地点が崩壊することを意味している。
本手法では短時間降雨による災害時のデータしか考慮していない。長期間の豪雨に比べて、崩壊しない地点が多くなるため、発生確率は減少する。
一方、植生や道路などの土地利用は考慮していないため、蒸発や浸透の減少による地下水の動水勾配の減少が加味されておらず、大きな動水勾配が仮定されている。
(3) 土砂堆砂
豪雨により斜面崩壊が進行した場合、それに伴い土砂生産量が増える。過剰な土砂生産は、河床上昇を生じさせる。河床上昇によって洪水氾濫の危険性は増す。
また、ダムや堰などでは、土砂の堆積量が増え、貯水容量が減少する。土砂に伴う濁質成分の流出による水質の悪化も懸念される。土砂生産量の増加は、良質な水資源の確保を困難にさせる。
先に述べた土砂災害発生確率を用いて、全国52 地点のダム湖の堆砂データと斜面リスクの平均値を比較した。その結果、両者は、指数関数によって表現でき、高い相関係数を示した。
この関係を使えば全国の土砂生産分布を推定することができる。また、斜面災害リスクは、降雨の確率を変数としているので、気候変動に伴う降雨の変化による土砂生産を推測することができる。
推定された土砂堆砂と斜面災害の関係は、約50 地点のダム湖データの平均値であり、砂防事業の影響や短期の土砂流出は考慮しておらず、長期の傾向として推算している。
(4) 積雪水資源
温暖化による水資源への影響が最も顕著なのは、積雪である。冬季の山岳域に水を貯めるため、雪は白いダムとも呼ばれる。融雪は春季の貴重な水資源であり、広大な水田を潤す。
一方、少雪年には農業用水のみならず、他の水利用にも支障がでる。しばしば瀬枯れが生じ、生態系
にも影響を与える。
積雪水資源の推定には、積雪融雪モデルを用いた。このモデルでは、全国の降雨、気温、標高のデータを用いて降雪分布データを作成し、気温のデータを用いて融雪分布を推定する。
この2つを組み合わせることによって積雪深を計算する。このモデルの定数は、人工衛星画像から得られる積雪分布と計算による積雪分布が合致するように求めた。
この手法によって、過去20年間で平均的な多雪と少雪年であった2000年と1993年を代表年としてシミュレーションした。
また、融雪が始まる直前の2月15日積雪水資源量の差を比較することにより積雪水資源の脆弱性を考察した。
温暖化後の積雪状況は、降雪が降雨に変化するとともに降水量の変化もあり、現在の少雪の状況と合致するとはいえず、GCMで求められる将来の気温と降雪の組み合わせを詳細に考察する必要がある。
(5) 水需給
渇水期間の長期化が渇水のリスクを増加させる。しかし、将来、水田面積や人口が減少した場合、利水量も減少に転じるため、渇水リスクの将来予測は複雑である。
これらの変化に対応した将来の水利用のあり方、水資源政策を検討するため、全国における現在の水需給バランスと社会条件との関係を水共同域(流域)レベルで整理し、それを踏まえて気候シナリオ(A2)に基づいたRCM20 を用いて将来の水需給バランスを推定した。
水共同域(流域)毎の将来の水需要量と水供給量から、渇水指標(ダムの利用量が不足する日数×ダムの不足容量が最大になる量)を算出し、現況の渇水指標と比較することにより、将来の水需給バランスの評価を行った。
将来の水需要量推定について、人口、上水道普及人口、水田面積、産業出荷額は100 年後まで予測している資料が存在しないため、既存の資料から簡易な推定により算定した。
上水道普及人口については、将来推計人口(最終予測年次2030 年)のトレンドから推定、水田面積については耕作放棄発生率(最終予測年次2015 年)のトレンドから推定、産業出荷額は労働生産性の推定値(最終予測年次2050 年)と将来推計人口から推定した。
これらのデータと現在の水利用量の関係から水需要量を推定した。供給量については、GCM によって求められる降雨量と蒸発散量、融雪量から求めた可能水利用量である。
このように、将来の社会変化と気候変化を考慮して、渇水指標の変化比を表した。本計算は社会変化の予測を過去のデータから推計しており、政策や環境によって大きく変化する。特に減反や食料自給政策などの農業政策は大きく影響する。
転載元: おおさかATCグリーンエコプラザ 水・土壌汚染ラーニング
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