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緒形拳といえば、おれが十代くらいの時分には津川雅彦と共にラブシーンをやらせたら日本屈指のエロエロ男優という印象が強かった。もっともご本人は超がつくほどの生真面目人間で、親友の津川に合コンに誘われたところ散々悩んだ末、
「雅彦、やっぱりおれ行けないよ……」
と断りの電話を入れたとか。その時の津川の対応もなかなかだが、詳しく知りたい方はウィキペディアの“緒形拳”の項目を参照せよ!(なんか、えらそう……)→http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B7%92%E5%BD%A2%E6%8B%B3
逆に考えれば、男として生の欲望をプライベートでさらけ出せなかったからこそ、映画やドラマで緒形は女優と乳繰り合うことに情念さえも燃やしていたのではなどと邪推したくなる。大体、演技とはいえ松坂慶子や原田美枝子とよろしくやっているさまは羨ましかったというか、できれば代わってほしかったというか。
閑話休題(い、いや、今の話は聞かなかったということで……)。
無論、緒形拳の持ち味はエロエロオヤジの一面だけではない。(←てか、本人が聞いたら怒られるぞ)いろいろあるが、たとえば映画必殺仕掛人藤枝梅安三部作で演じた藤枝梅安なんかはこの人以外が梅安を演じてはいけないというくらいの会心の出来。特に“梅安蟻地獄”において、自宅で刺客に教われて絶体絶命となる梅安のさまは観ていて自分が殺されてしまうかのように総毛立った。
梅安はこれまでに、小林桂樹、故・田宮二郎、故・萬屋錦之介、TVドラマで渡辺謙など錚錚たる顔ぶれが演じているが、これは誰がなんといっても緒形拳っ!女好きでうまい物をたらふく食って表の仕事は皆から慕われる腕のいい鍼師で、裏稼業ではキッチリ世のため人のためにならぬ悪党をキッチリ葬る梅安役は緒形拳以外は許しませんっ!めっ!
悪人役だと、「復讐するは我にあり」の連続殺人犯人もいいが、「魔界転生」での宮本武蔵役を断トツで推す。正統派の武蔵なら、役所広司(巌流島の決闘まで)、故・萬屋錦之介(巌流島以降)がツートップだが、死に臨んで柳生十兵衛やその父・但馬守宗矩と決着をつけたいがために、悪魔と成り果てた天草四郎に魂を売り渡して魔人へと転生する武蔵。この武蔵は悪党と言うよりむしろこの世に未練を残した亡者といったほうがいいのだが、十兵衛たちを倒すことによって生前に叶えられなかった真の兵法天下一になろうとするさまがまるで悟ろうとして悟りきれなかった武蔵がこの世に残した咆哮を聞くが如くなのだ。
こんなのは武蔵じゃないと武蔵ファンは眉をひそめるかもしれないが、しかしこれももう一つの真の武蔵像だとおれは断言したい。独行道には、
“我、事において後悔せず”
というあまりに有名な言葉があるが、しかし後悔するまいと肝に銘じても悔やむのが人間の常であり、それを自覚しつつもあえて書き記したのが武蔵なのだ。しかし、武蔵でさえも死の直前では将軍家指南役の柳生家と直接対決をしなかったことを悔いたのではないか?原作者の故・山田風太郎の描いた武蔵像とはいささか異なるが、少なくとも映像化された妄執の権化としての武蔵ならばケン・オガタのものがベストといえる(何故に、急にカタカナ?)
時々思うことがある。緒形拳のような年寄りになれたらなと。無論俳優だから、どこまでが演技で素だかなんてことはおれにはわからないが、言葉を選びながらちょっと困ったようにしゃべってみたり、かと思うと満面の笑みを浮かべてホッとさせたりと、飄々(ひょうひょう)とてらいもなく生きてみたい。今は無理かもしれないが、六十、七十になれば彼のように自然体で周りを和ませながら日々を送れそうな気がする。な〜んてのが、おれから見た緒形拳であります。皆様は、いかがでありやしょうか?
追記・古畑任三郎シリーズに「黒岩博士の恐怖」という作品があるが、この中で犯人役である監察医・黒岩博士を演じる緒形拳がまた力みがなく程好いメリハリがあってついつい真似したくなる。緒形拳を愛して止まない奥様方は是非、必見っ!(田村正和は?)
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