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この映画のイ・ビョンホンは今までのクールなイメージとは違って、恋にトキメク男の純情と一途さ・・・。 いい意味でのブザマさとお茶目な面を見せてくれたように思います(ビョンホンの百面相は可笑しかった!)。 また、スエは「海 神」でのお嬢様役とは180度の変身で、アカのレッテルを貼られた親の娘で、村では白い 目で見られている悲しい過去を背負った天涯孤独な女性という難しい役どころを上手く演じています。 <2006年の作品 上映時間116分 原題:その年の夏 그 해 여름(ク ヘ ヨルム)> <ストーリー> 周囲からの人望が厚く、女子生徒たちの憧れの的でもある元大学教授のソギョン。60歳を超えた今も独身を貫き通す彼のもとに、元の教え子から初恋の相手を探す番組への出演依頼が舞い込んで来る…。独裁政権下の韓国を舞台に、エリート家庭で育った大学生と悲しい過去を背負った天涯孤独の少女との純愛を描く。(アマゾンより)ところで、この物語をより深く理解するためには・・・ 映画の背景になっている1969年当時の韓国がどんな状態にあったかがキーポイントだと思います。軍事独裁政権下にあった韓国では、現在のような太陽政策を掲げた政策ではなく、北との緊張感でピリピリしていた時代で、まさに、一触即発状態。ですから、現政権に反対するような発言をしたりするとアカ(北の政権を支持する者)と言われていて、ジョンインの父親もアカのレッテルを貼られ、家族全員がアカとみなされていたのでしょう。 余談ですが喜劇王と言われたチャップリンは、アメリカで映画制作をしていた時、ヒットラーがヨーロッパで勢力を振るっていることを知って、「独裁者」という映画を作りました。これはヒットラーをパロディーで描いた反戦映画です。当時のアメリカでは、アカ狩り(左翼とみなされて)と称してチャップリンを追放してしまったんですよね。後に、何十年も経ってから過ちに気づいたアメリカは、チャップリンをアメリカに招いて映画に対する特別功労賞を授与しています。戦争反対と言うだけで、アカとみなされていた時代。まぁ〜日本も同じでしたけれど…。 ところで、イ・ビョンホンとスエの「夏物語」はなかなか見ごたえのある映画でした。 初老を迎えた元大学教授のソギョン(イ・ビョンホン)がひょんなことから、昔の初恋の相手を探してくれるというテレビ番組の出演依頼に番組の担当者(イ・セウン、「チャングム」では医女・ヨリを演じた)が訪ねて来るシーンから始まるのですが…。60歳代のメイクをしたビョンホン必見です。ぜひ、その変身ぶり(?)をご覧になっていただきたいです。なかなかステキな老紳士に変貌を遂げていると思いますけど…。 さて、映画の中で語られる「ヒノキの葉は、人を呼ぶ力がある」という言葉が重要なキーワードになっているのではないかと思いました。それは、初めてソギョンがジョンインに出会った時に、何気なく言った言葉なのですが…。最初に、映画のタイトルでこのヒノキの葉が舞っている映像でスタートするのですが、花言葉があるように、木言葉っていうのもあるのでしょうか? もしあるのなら知りたいです。ジョンイン(スエ)がこのヒノキの葉を添えたカードを作っていたのが印象的でしたが、天涯孤独なジョンインの寂しさ、悲しさ、やるせなさ、また、この時代の重苦しさから解放されたいという願いも込めて、このヒノキの葉を添えたカードに希望を託していたようにも思いました。 ところで、大学生のソギョンは夏のひと時をボランティア活動のために、学友たちと村を訪れていたのですが、初めてソギョン(イ・ビョンホン)とジョンイン(スエ)が出会った時に、ソギョンが「ヒノキの香りで引きつけられた」と言っていましたが、まさしくソギョンはそのヒノキの葉の人を呼ぶ力に引き寄せられてジョンインに出会ったのではないでしょうか。そして、ジョンインに恋心を抱いたソギョンは、ことあるごとにジョンインと会う機会を作っては接近します。そんな積極的なソギョンにいつしか思いを寄せるようになるジョンイン。2人は頻繁に会うようになり、愛し合うように…。 ジョンインは図書館司書(この図書館も元々はジョンインの父親が建てたのですが)の仕事をしていたのですが、村で映画の上映会があった日、自分の不注意から火事になり図書館は消失してしまいます。この火事によって、ジョンインはこの村での居場所が無くなってしまうかもしれんません。さらに村での肩身の狭い状況に身を置くことに…。そんな折、急遽ソウルに帰らなければならなくなったソギョンは、ジョンインに一緒にソウルへ行こうと誘います。 ソウルに着いた2人ですが、時あたかも学生運動(日本でいうところの安保闘争のような時代)が始まり、巻き込まれて検察に捕まってしまうソギョンとジョンイン。別々の部屋で執拗な検察の尋問に矢継ぎ早に責め立てられる2人…。特にジョンインはアカの父親の娘として見られているので、検察は厳しく問い詰めます。また、その仲間と思われているソギョンにもさらに厳しい追求をしますが、なかなか口を割らない2人に業を煮やした検察は、2人を会わせてお互いが知り合いかを問い詰められます。 この時、なぜソギョンはジョンインのことを知らないと言ってしまったのか、とちょっと悲しかったです。きっとジョンインも悲しかったに違いありません。確かに、知っていると言ったら、アカの共犯者として刑務所に入ることになるし、自分の将来も閉ざされてしまうかもしれない…。それも、ソギョンの父親や家族にも迷惑が及ぶことになるだろう。そんな思いが彼の頭をかすめたのでしょうか、ソギョンはジョンインのことを知らないと言ってしまう。 ジョンインのことを本当に愛していたなら、「知っている」と言ってほしかったと思いました。ジョンインも、もしかしたら期待していたのではないかと。ソギョンが知らないと言った時のジョンインの表情に落胆の色が見えたように感じたのは、私だけでしょうか? この時のスエの何とも言えない心情を表す表情は圧巻で、すばらしかったです。 ジョンインはソギョンのためを思って、「私も知らない」と答えるのですが…。 この時の「知らない」と言ってしまったソギョンの胸中は複雑だったに違いありません。 ジョンインが連れて行かれる時に、ソギョンがジョンインに抱きついて「ジョンイン!」と叫ぶ のですが、後悔の念に押しつぶされたに違いありません。この時の出来事がずーっと彼の 心にトゲとして残ることに。 その後、数か月か数年後(?)でしょうか、刑務所から出所したジョンインを出迎えたソギョンは2人で新しい出発、暮らしをしよう、どこか別の場所へ行こうと駅に向かいます。しかし、ここが2人の最後の別れの場所になってしまう。ジョンインは頭が痛いと言って、ソギョンが薬を買いに行っている間にいなくなってしまったのです。薬を買いに行こうとするソギョンの手を何度もきつく握って離そうとしなかったジョンイン…。 自分がソギョンと一緒にいては、また同じ目に遭うかもしれないと思ったのでしょうか。 自分のために、ソギョンは幸せになれないと身を引いたのでしょう。ソギョンはその後、 全国津々浦々ジョンインを探し回ったけど見つからなかったと語られていました。何と も…哀しい恋ですね。 一緒になれなかったソギョンとジョンインですが、ソギョンはずーっとジョンインだけを思って年を重ねたように、ジョンインは学校か施設の先生をしながら校庭にヒノキの木を植えて育てていたことを思うと、やはりソギョンのことだけを思って暮らしていたのではないかと思いました。時代に引き裂かれ、翻弄された男女の美しくも哀しい恋の物語と言ってしまえば、それまでですが…。見終わった後、あまりにも哀しい結末に胸が痛くなりました。 とにかく、青年役から60歳代を演じたイ・ビョンホンの演技に注目です。
青年役の溌剌とした演技と特にラストシーンの涙をためた複雑な心情の 表情は、すばらしかったと思いました。ぜひ一度、ご覧になってください。 ※記事中での敬称は、省いています。ご了承くださいm(__)m |

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