ずっと噴水が好きだった

明治、大正、昭和。公園、街角、博覧会。戦前日本の噴水事情を気ままに探索中。なんだかんだで続いてます。ビバ噴水!

動物園・植物園の噴水

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 大正9年(1920)の帝国美術院第二回美術展覧会に出品された、深海雄二郎の『休める噴水』。
 
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 7月24日、ショクダイオオコンニャクの開花に沸く小石川植物園へ。ショクダイオオコンニャクは別名のとおりスマトラ産の巨大コンニャクで、漢字で書けば「燭台大蒟蒻」。中心にそそり立つ太い軸と、軸を取り囲む「仏炎苞」(葉が変形したもの)が満開になった様子がロウソクと燭台に見えることから名付けられた。満開になると強烈な悪臭を放ち、それが死肉の臭いに似ているというので、現地では「死の花」というらしい。
 
 小石川植物園で開花するのは1991年以来の2例目。固く閉じていた仏炎苞が22日、ついに開き始めた。開花後の寿命はわずか2日。開花した姿を見るチャンスは23日、24日しかない。
 
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開花中のショクダイオオコンニャク
(別名スマトラオオコンニャク)
 
 15日に出たばかりのパンフレット『巨大コンニャクのなぞ タイタンとギガス』によれば、1991年の開花のときには、開花の前後6日間で約6,500人の見学者が訪れている。今回はその数字を軽く上回り、23日は午前10時半、約5,000人分の入園券を発券した時点で、混乱を避けるため発券中止。24日は園内で漏れ聞こえた話によると、午前中だけで約7,500人が訪れたらしい。結果、真夏の炎天下に3時間待ちの大行列となった。
 
 せっかく風が出ても、分厚い人の壁で行列の中までは風が届かない。無風状態の大行列に強烈な死臭が流れ込めば、地獄絵図になって面白かったが、開花開始からほぼ丸二日が過ぎて臭いはすっかり収まっていた。しかし、中は灼熱地獄。熱中症であやうく、「『死の花』で死者」にされてしまうところであった。
 
 押し寄せる人波にテントから押し出され、「おお、デカい」と間の抜けた感想しか出ないまま、異形の花との対面は5分で終わった。11時。
 
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ひと目見ようと大行列、この行列が3往復半して3時間待ち
(ショクダイオオコンニャクが置かれたテントは右奥)
 
 こんな日は噴水で涼を取らねば。というわけで、昨日今日訪れた12,499人の来訪者に素通りされてしまったであろう、温室脇の噴水、だったものを取り上げたい。
 
 左右に翼を広げる大温室の脇に噴水、だったものがある。温室の正面入口(現在は開放せず)をはさんでシンメトリーに噴水池を配置する。往時の絵葉書を見ると、大小二層の水盤を持つ噴水だったようだ。2基の噴水器とも水盤部分は完全に失われている。
 
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現在の噴水池(正面向かって左側)
 
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「小石川植物園 温室」絵葉書
 
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噴水、であったもの(下の画像と台座部分を比較すると、同じものであることが確認できる)
 
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噴水部分を拡大
 
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現在の噴水池(正面向かって右側)
 
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「(小石川植物園) 温室」絵葉書
 
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噴水部分を拡大
 
 2枚目の絵葉書は奇しくも84年前、大正15年(1926)7月21日に小石川植物園を訪れた牛込区在住の「雨宮」氏が、甲府のワイナリー・サドヤで働く知人の「小尾」氏に宛てて投函したものである。「愈々夏は来た。」と筆をおこした雨宮氏は、園内の様子をひとしきり綴り、この日は水曜日で、当時の規則では「日、土、祭日の外温室に入れぬ」と聞いて、「一寸がっかりしました。」と手紙を結んでいる。現在は日・月・祭日が閉室で、火曜〜土曜の10時〜15時が開室時間となっている。
 
 噴水はさらに稼働時間が限られていたようである。少し遡るが、明治43年(1910)9月10日に植物園を訪れた読売新聞の記者氏によれば、温室脇の噴水は「日曜でなかつたから水は噴いて居なかつた」という(読売新聞、明治43年9月11日付)。
 
 さて、本日も小石川植物園には大勢の見物客が押し寄せそうである。「ショクダイオオコンニャクは盛りを過ぎ、つぼんできました。臭いもまったくなくなりました。本日25日(日)には付属体(中央の棒状の部分)が倒れるかもしれません。」とのこと。入園券を買うまでが少々長いが、この噴水跡を見るだけなら大行列は無縁である。そして、温室前からちょいと移動すると、大行列を尻目にショクダイオオコンニャクのテント脇にひょいと出られるので、この記事を読んで下さった方はぜひそちらから。

京都市動物園の噴水

イメージ 1動物園は常時大量の水を使用する施設である。水まわりのインフラが整っており、噴水が設置されるケースも多い。
京都市岡崎にある京都市動物園の大噴水。琵琶湖疏水の水を引き込んだ噴水である。水流に往時の勢いはなく「噴く」というよりは「湧く」という趣きだが、コブハクチョウ池の噴水として現役で稼動している。
撮影日:2009年5月2日

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イメージ 1ネットオークションで発見した「(箕面動物園)水族亟」なる絵葉書である。
屋外設置の水槽だろうか(水族「函」?)、周囲の景色が映り込み判りにくいが、魚の姿らしきものが写っている。
この絵葉書と箕面動物園の園内案内図の「水晶塔」を見比べてみよう。これでピンとこなければ、噴水探偵失格である。
「水晶塔」=「水族亟」であるに違いないと当たりをつけ、すぐに応札した。粘るもう一人の応札者との値付け合戦の末、1万円で私が落札した。

イメージ 2落札後、当時の新聞をひっくり返し、「水晶塔」=「水族亟」説の裏づけを取ろうとしたが存外に記事が見つからない。出てくるのは動物の話ばかりである。動物園の取材に行って噴水にばかり目が行く奴は困り者であるが、少しはいてくれないとこっちも困る。国会図書館で毎週クルクルと新聞のマイクロフィルムを回し続けようやく見つけたのが、明治44年(1911)6月4日『大阪毎日新聞』の記事である。「松尾橋を渡ると正面に水晶塔があつて噴水の下、魚族の浮游して居るのが見える」という、箕面動物園の近況を報告した記事中にわずか一行の発見だが、裏づけとしては十分だろう。

イメージ 3魚の飼育装置でもあったとすれば、動物園側としてみれば、地元の住民との水の供給を巡る騒動は、噴水が止まる止まらないという話にとどまらず、展示している動物が死ぬかもしれないという一大事だったのではないだろうか。

箕面動物園の噴水

 箕面動物園は、箕面有馬電気軌道(のちの阪急)が沿線開発の一環として大阪府箕面市の箕面公園に開設した動物園である。開園は明治43年(1910)11月1日。「広さ三万坪道路延長三哩 珍らしき動物無数四季の草花絶間なし 各所に休憩所あり 余興いろいろ」という園内にはさまざまな施設が設けられていた。翌年の秋には「山林こども博覧会」の第二会場となり、このときに「仁丹」でおなじみの森下仁丹株式会社(当時は森下博薬房)が発行した会場案内のチラシには、「空中回転機」と称する観覧車も描かれている(このあたりの事情は、福井優子さんの『観覧車物語』に詳しい)。

 さて噴水はというと、広大な敷地の一角、園内を流れる箕面川に架かった松尾橋を渡ったところに「水晶塔」と名付けられた噴水があった。この噴水は、(おそらく)森下博薬房発行のチラシより発行時期が古い、「空中回転機」が描かれていない園内の案内図にすでに登場している(写真は古い案内図の拡大)。

イメージ 1


 動物園開園の翌年、明治44年(1911)の夏、『大阪毎日新聞』は「箕面噴水の争水」という記事で、地元の住民と「箕面電鉄」の間で起きた「箕面公園内の噴水」をめぐるトラブルを報じている。灌漑のために住民が川に設けた「樋」が水をせき止め、噴水が止まってしまったことが発端となった騒動で、話し合いで決着がつかないまま「箕面電鉄」側は警察立会いの下、「樋」を切るという強行策に訴え、それを受けて住民側が裁判所に訴えるというようにエスカレートしていったらしい(住民側の訴えは却下)。なんとも罪深い噴水である。


 箕面公園の開設は明治31年(1898)であるが、園内に噴水ができたのは、明治43年の箕面動物園の開園後である可能性が高い。「農民等は夏季灌漑用に供する為め毎年…箕面川の渓流を堰き止め」ていたという。動物園の開園以前から噴水があったとすれば、このような水騒動が突然、開園後最初の夏というタイミングで持ち上がることは考えにくい。「箕面電鉄」が騒動の一方の当事者であったことも、「箕面公園内の噴水」がこの時期にできたばかりの、つまり、動物園の開園に合わせて「箕面電鉄」が新設した噴水であることをうかがわせる。当時の案内図を見る限り、園内に「水晶塔」以外の噴水は見当たらない。とすれば、この「水晶塔」噴水が記事でいう「箕面公園内の噴水」に当たると考えられる。

 
 記事の数日後、8月17日の『大阪毎日新聞』は「再び箕面噴水争」と題し、「(箕面村平尾の農民)上田等は十六日更に右用水の占有保持を訴え出でたり」と続報を伝えている。果たして、涼しげな噴水の舞台裏で起きた熱い闘いの顛末や如何に。

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