今昔映画館(静岡・神奈川・東京)

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今回は新作の「空気人形」を川崎チネチッタ12で観てきました。ここはデジタル音響でない映画を上映する前には、JBLのスピーカーシステムのロゴが出ます。

東京の古アパートに住む中年男(板尾創路)はラブドールと一緒に住んで、恋人みたい会話し、食事し、セックスします。そのラブドールこと空気人形(ペ・ドゥナ)がある日突然動き出します。彼女は心を持ってしまったのです。持ち主が仕事に行ってる昼間、彼女はメイド服を着て、外に出て、街を歩き回ります。いろいろな人を見て、そして立ち寄ったビデオ屋で、アルバイトを始めるのです。彼女、そこの店員、純一(ARATA)が好きになっちゃったみたいです。彼女が街で出会うのは、孤独な人が多いみたい、未亡人(富司純子)や、元代用教員(高橋昌也)、若さに拘泥するOL(余貴美子)とか。彼女自身の自分が中年男の元恋人の代用であることを知っていましたけど、好きな人ができたら、中年男とのセックスが何だか辛くなっちゃいます。純一の前で空気ぬけちゃった彼女ですが、彼はそれでも彼女にやさしくつきあってくれます。そんなある日、中年男が新しい人形を買った時、彼女は自分の正体を明かします。「なぜ、恋人の代わりが私なの?」家を飛び出した彼女は生みの親である人形師(オダギリ・ジョー)を訪ねて、「心を持ってしまって、苦しい、なぜ心を持ったの?」。でも、その理由は生みの親にもわかりません。そして、純一の部屋に行った彼女は「あなたのためなら、何でもしてあげられる」。「じゃあ、一つお願いがあるんだけど。」って、何のお願い?

「誰も知らない」の是枝裕和監督が、脚本と編集も兼任した作品です。と言いつつ、私はこの監督さんの映画は初めてでして、好きな「ラースとその彼女」と同じラブドールネタということで観ようかなという気になりました。のっけから、中年のおっさんと空気人形が抱き合ってギシギシやってるので、「おやおや(お盛んね)」と思っていると、彼女が人間のように動き出します。体には人形のような継ぎ目があって、おへそのところから空気入れたりしてますので、人形が人間になったわけでなく、空気人形のまま、心が持ってしまったみたいなのです。うーむ、これは稲川淳二の「生き人形」(舞台用人形に霊がとりついて恐ろしいことが起こるという実録怪談)なのかというとそうでもないみたいで、独自の意識が覚醒したようなのです。そして、映画は彼女が街に出て様々な人に出会ったりする様子と、彼女のモノローグで進んでいきます。このモノローグが吹き替えなのかどうかはわかりませんが、たどたどしい日本語で、あまり心こもってないのが不思議に感じました。また、「心を持った」と書きましたが、実際に彼女はモノローグの中で「私は空気人形、心を持ってしまいまいした」と自分で言葉として言っているのです。

冒頭では、「おやおや」だったのですが、今度は「おや?」と思いました。普通の人は「自分が心を持っている」なんて意識することがないですから、この子の言う心って何のことなんだろう。その後の彼女は、純一クンが好きになったみたいで、その事を「苦しい」って感じています。そして、自分の本来の用途も知っています。では、彼女の望みは何なんだろう?って見ていると、これがあんまりはっきりしません。この子は何を考えているんだろう?中年男とのセックスの後、自分の体を洗う気持ちって何なの?「心を持って、苦しい」と言うセリフはあるのですが、うれしいとか悲しいという感情は持っていないようなんです。「心を持ってる」ってこの程度のことなの?と思うと、心を持っていても、孤独な人間の姿が垣間見えてきます。そして、彼女が街を歩き回って色々な人に会うのが、孤独な人々のスケッチのようになっています。その中には、やたら映画ファンネタが多くて、ヒロインが「仁義なき戦い」のテーマを口ずさむあたりがおかしいのですが、街のスケッチ以上のものが見えてこないのは、私に見る目がないからかしら。

持ち主である中年男に向かって「恋人の代わりなら何でもいいの?じゃあ、何で私なの?」と問い詰めるシーンで初めて彼女に感情のようなものが見えます。そして、好きな純一クンに向かって「私はあなたのために何でもします。」というシーンでも、彼女の感情らしきものが前面に出ます。でも、それらはどこか浅いなあって感じがします。要は、心だけは持っているけど、彼女には人間のような奥行きがありません。心持ってるだけじゃ、人間ではないのかなって気がしてきました。この映画が、そもそも空気人形が心を持つというファンタジーだから、そこは突っ込みどころ違うだろうと言われちゃいそうですけど、空気人形という存在自体が持ち主にとってはファンタジーでして、そこには(キショいと言われようが)それなりの想いがあるわけです。その持ち主の想いに反する感情を人形が持ったというお話なのですから、そこにはそれなりの人格のようなものがあってもいいように思うのですよ。中年男が心を持った人形に「そういうの面倒臭いねん」と言い放つところが圧巻でして、空気人形が心を持つということが「やっかいな」ことだということが見えてくるのですが、でも、人形が人間並みの人格は持っていません。じゃあ、彼女を苦しませる「心の存在」って何だろうというのが、うまく伝わってこないのです。

心を持つ葛藤ととは別に、彼女が空気人形であることが妙にエロチックに見えるシーンがあります。彼女がビデオ屋で空気が抜けちゃっで、純一クンが彼女のおへそのところから空気を吹き込むシーンです。空気が入るたびに、彼女がのけぞるシーンが意味してるところは明快です。(これを「フライングハイ」のパロディだと言ったら怒られちゃうんだろうなあ。)ここは、空気人形にあきらかに気持ち入ってるわけなんですが、これも、心のうちなのかしら。



この先は結末に触れますので、ご注意下さい。



人形師を訪ねた後、純一クンの部屋に行って、あなたのして欲しいことをしてあげると言った彼女に、純一クンは「空気抜かせてくれ」といいます。全裸になった二人、そして、彼女の空気を抜いて、また吹き込むことを繰り返す純一クン。その後、ベッドに横たわる純一クンに同じことをしてあげようとするのですが、そんなことするから、出血多量で純一クンは死んじゃいます。ここで、純一クンがそれらしい抵抗もしないのが不思議だったのですが、最初から死ぬ気だったのかなあ。彼は、彼女が空気人形とわかっても平気でつきあってる変な人なんですが、考えてみると、この人、どっか人間として欠けているような気がします。心のどこかが足りない、そういう意味では、ヒロインとどっか通じるものを持っているのかもしれません。

翌朝、純一クンをビニール袋に入れて生ゴミ置き場に出した彼女は、中年男の家の近くのゴミ捨て場にやってきます。そこで、自分の宝物である空きビンを並べて、その中に横たわると、自分の空気を抜きます。そこから、たんぽぽの種が飛び出して、街の人々に届きます。引き篭もりだった若い子(星野真理、でも彼女とは気付きませんでした)が久しぶりに窓を開けると、眼下のゴミ置き場に横たわるヒロインが見えました。それを見て「キレイ...」とつぶやく彼女、暗転、エンドクレジット。

彼女は心を持っても、結局は人間としては不完全なままでした。心を持ってるだけでは、やはり人間としてはダメじゃんってダメ押ししているような結末ですが、最近、やたら「心」を大事に重視している風潮にダメ出ししているのかなって気がしました。彼女が、例え人形であっても、彼女自身として生きているように見えなかったからです。確かに、人形師との会話の中で、人間と関わることでモノにも心が生まれるという話が出てくるのですが、心が生まれても、結局は人形は最後にはゴミとして処分されることがこのシーンで示されていまして、結局は人形が心を持ったところで何も生まれないような見せ方をしています。でも、ラストでは、死んだ人形から、感情の種がまかれるという見せ方にもなっていまして、何だか座りが悪いのです。人間に心があっても、心だけでは足りないものがあるという視点は面白いなと思って観ていたのですが、そこには突っ込んでくれなかったのが残念でした。

人間にとって心って何だろうという話の展開を期待していた私としては、後半は失速してしまったという印象でした。ラストはファンタジーの線を狙っているように見えるのですが、この結末には、昔のフランス映画「八日目」を思い出しましたが、どこか投げてるんじゃないかと思えてしまって、この映画、私の読解力の不足もあってか、相性があまりよくないみたいです。

ヒロインのペ・ドゥナはラブドールが動き出したというキャラを熱演してまして、ヌードも辞さず熱演しています。でも、たどたどしい日本語をしゃべらせた意図がよくわかりませんでした。リー・ピンビンのキャメラが見事で、きちんと劇場の大画面で見るための絵になっていたのは収穫でした。助演陣の中では、儲け役とは言え、板尾創路の演技が光っていました。

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う〜ん。私は身体も心もあるのに病んでる人間より、彼女の方が
生きる喜びにあふれていたように思ったのですが・・
そうそう。リー・ピンビンのキャメラが見事でしたね!!
なんとも異国的な映像でした。
板尾創路さんもうまかったですね〜
TBさせてくださいね。

2009/10/3(土) 午後 11:43 car*ou*he*ak 返信する

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Cartouche さん、コメント&TBありがとうございます。ヒロインが生きる喜びに満ちているとしたら、あのラストはどう解釈したものか考えてしまいます。自分の存在を終わらせる必要はなかったように思えるのです。少なくとも、命尽きるまで生きればいいじゃんという気がして、やっぱり、人間としてはどっか欠けてるのではないかしら。人形としての引き際がいいとも思えないですし。

2009/10/4(日) 午前 0:15 [ einhorn2233 ] 返信する

結末はホラーのようでしたね。きっと純一は自分と同じ空っぽな人形だと思ったんでしょうね〜。。
心を持っているだけで、人間にはなれなかった――切ないお話かも!トラバお願いします!

2009/10/4(日) 午後 8:00 くるみ 返信する

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この映画ではなんといっても心を持ってしまった空気人形が苦悩する場面がテーマですね。

2009/10/4(日) 午後 8:49 mossan 返信する

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くるみさん、コメント&TBありがとうございます。確かに純一って「こいつ何なん?」と思うようなキャラでしてた。空気人形に自分の同類と思われてもやむなしって感じ。でも、最近増えてると言われる草食系男子の正体ってのはこういうのかもしれませんね。

2009/10/5(月) 午後 5:27 [ einhorn2233 ] 返信する

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もっさん、コメント&TBありがとうございます。確かに空気人形が苦しいって言ってますけど、何の希望も葛藤も持ち合わせていないように見えるのに、何が苦しいんだろうってちょっと不思議でした。自分がラブドールってことに対する自己憐憫のようなものは感じたのですが。店長に簡単にやらせちゃうし。

2009/10/5(月) 午後 5:32 [ einhorn2233 ] 返信する

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そうそう! なんかスッキリしましたぁ!
なんだかこうしっくりこないのは元が漫画だからなのかなぁ。
マンガを実写に起こすって ほんとに難しいんでしょうね〜
オダジョーがいい顔になってたのは 良かったです
トラバいただいていきます (ヒツジ)

2009/10/9(金) 午前 1:32 ひつこじ 返信する

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ひつこじさん、コメント&TBありがとうございます。原作が業田良家ですけど、この人の4コマ漫画は知ってたので、どうもファンタジーっぽいのとイメージがつながらなかったです。まあ、監督は、好きなペ・ドゥナ嬢が全裸で空気吹き込まれて体をのけぞらすシーンが撮れただけで満足だったんじゃないかなって気がしちゃいました。なーんか後はとってつけたような感じがしてしまって。空気人形といいながら、風が吹いたら飛んでっちゃうような、はかなさはまるでなかったですもの。生身感がエロかったです。

2009/10/10(土) 午後 7:18 [ einhorn2233 ] 返信する

ペ・ドゥナさん大好きでここまできたわたしとしては、まぁ愛おしくもせつないドゥナさんでしたが、おっしゃるとおり すこしこころのこりの作品でした。でもレヴュー読ませていただき こころのこりがわたしも解明できたようにも(~_~)

だけど ほんと あのシーンは、エロでしたねぇ(^_^;)

2009/11/1(日) 午後 7:23 たんたん 返信する

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たんたんさん、コメント&TBありがとうございます。ペ・ドゥナさんのファンには確かにたまんない感じですね。(彼女アラサーなんですね、ちょっとびっくり)空気人形というには、生々しい感じがエロいというか、それゆえに「そういうのが面倒くさいねん」のセリフにリアリティありました。

2009/11/3(火) 午後 8:46 [ einhorn2233 ] 返信する

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心を持つことに喜び、苦しみそして「たった一度の人生」として生きる決断をした彼女は代用品なんかじゃなくたった一人の素敵な女性となりましたね。
TBさせてください。

2009/11/24(火) 午後 8:53 かず 返信する

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かずさん、コメント&TBありがとうございます。なるほど代用品だったヒロインが女性になるというお話ともとれますね。ピノキオみたいな感じなのかも。私はラストはうまく解釈できなくて、あいまいな印象になっちゃってました。

2009/11/24(火) 午後 10:10 [ einhorn2233 ] 返信する

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