今昔映画館(静岡・神奈川・東京)

やっと書き込み再開します。本年もよろしくお願いいたします。

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今回は新作の「私を離さないで」を日比谷シャンテシネ2で見てきました。ここは、前の人の頭がスクリーンにかかるかどうかギリギリのつくりなので、座高の高い人が前に座るとつらいときあります。もっとスクリーンを上げてくれればいいのに。今回は体調があまりよくないときの鑑賞で、ところどころ記憶が飛んじゃってます。それでも記事にする度胸をご容赦のほどを。

科学の進歩によって1960年台には、人類に平均寿命は100歳にまで延びていました。そして、1978年のヘイルシャムの寄宿学校では、隔絶された環境で子供たちが暮らしていました。外部との接触を絶たれた空間で暮らす子供たち、そこへやってきた新任の先生は、生徒たちに、彼らが生きているのは臓器提供のためであり、それも3,4回行うと終了となるのだと告げます。同級生のキャシー(キャリー・マリガン)とルース(キーラ・ナイトレイ)、トミー(アンドリュー・ガーフィールド)の3人は成長してからは、コテージという管理施設に入れられていました。ヘイルシャムでは仲のよかったキャシーとトミーですが、今やルースとトミーがカップルとなってイチャイチャしてまして、キャシーとしては複雑な心境。それでも、キャシーは介護士になろうと決心します。そんな頃「愛し合うカップルが臓器提供の猶予期間を与えられる」という噂を耳にします。1994年、介護士のキャシーは、臓器の提供を2度行い体ボロボロのルースと再会します。トミーを奪ったことを詫びるルース。彼女の提案で3人は再会します。そして、ルースの死後、キャシーとトミーは臓器提供の延期を求めて行動を起こすのでした。

「日の名残り」で有名なカズオ・イシグロの原作をMTVやCMで有名なマーク・ロマネクが監督しました。「日の名残り」は好きな映画の1本でして、映像の美しさが大変印象的だったのですが、この作品でも大変美しい映像をシネスコのフレームに納めています。「ラースとその彼女」のアダム・キンメルの撮影が素晴らしかったです。

お話の方は、平均寿命が100歳になった世の中を支えるクローン人間の悲劇を描いたものです。極論すれば、設定だけの出オチ映画になりかねない題材を、どう膨らませるかというのがポイントと言えるのですが、ここでは、その設定を自明のものとして扱い、当事者がその運命とどう折り合いをつけるのかという方にドラマを進めていきます。それだけでもびっくりなのですが、結局、ラストまで彼らは運命との決着をつけられないのです。静かに進むドラマなのですが、それがドラマチックなピークを迎えることなく終了してしまうのです。出オチが余韻に直結するというかなり不思議な映画に仕上がっていました。

臓器移植を運命付けられた若者が、それを不当な扱いと思わないで、運命として認識しているのです。そりゃまあ、生まれたときから、そうなるための教育を受けているわけで、そこに疑問を差し挟まないような洗脳はされていることは想像がつきます。また、限られた命しか与えられていないというのは、観客である我々も同じであって、そこにどんな違いがあるのかということも言えましょう。私たちが、脳梗塞やがんで死ぬことが実はものすごく理不尽だとしても、そういうふうに私たちは教育されていませんし、そこにある死として受け止めている部分は、この映画の主人公たちと大差ないようにも思えます。自分たちとすごく遠いようで、意外と近い、そんな感じでしょうか。

しかし、その矛盾する感じが、登場人物への感情移入をためらわせるのです。共感するには、彼らの運命は過酷すぎる、でも、死への向き合い方は自分とそんなには変わらない、そのジレンマに引っかかるとドラマの中になかなか入り込めません。「限られた生」を扱ったSFと言えば「ガタカ」が思い浮かぶのですが、あっちはそれなりの救いと、サスペンスの面白さがあったので、画面に引き込まれました。今回の「わたしを離さないで」は、映像と音楽の美しさ、演技陣の見事さなど見所は多いのですが、ドラマとしての核が曖昧なようで、心に届くものが少なかったように思います。



この先は結末に触れますのでご注意ください。



トミーは後1回の移植が行われれば終了という状態でした。そこで、彼の才能と情熱を示すスケッチなどをかきあつめ、キャシーとともに施設のマダムと呼ばれていた女性を訪ねます。そこには、寄宿学校の校長もいて、あらためて二人に臓器提供の延期などと言った話はないことを告げます。トミーは臓器摘出をされて命を落とし、キャシーにも初めての移植の通知が来るのでした。

確かに主演3人のドラマは見応えのあるものでしたが、それは、臓器提供の話とは直接リンクするものでなかったので、映画の中に入り込めなかったのかなって、気がしました。臓器提供のために生きている若者という設定の位置づけが曖昧だったからかもしれません。映画は、臓器提供のためのクローン作成についての是非については触れません。登場する子供たちは、それほどおかしな育てられ方をしているようにも見えず、若者になってからの、感情の流れもごく自然です。ただし、自分が臓器提供によって、命を縮められるということに対しても、自然な運命のような受け入れ方をしています。

異常な設定における、普通の若者のドラマという捉え方をするなら、この映画は、特攻隊の若者を描いたドラマに一本通じるものがあるように思います。客観的にはあまりに理不尽だけど、当事者としては、心の底で抗いつつも運命として受け入れなければならない。そんな状況を淡々と描いたお話ではないかしら。特攻隊の話なら、そこに反戦の心を込めることもできましょうが、この映画は、SFという設定の自由さが、強い想いを込めるポイントを見失わせたようにも思えます。全体として、淡い画面設計がされているのですが、そのふわふわとした感覚は、美しい悪夢を思わせるものがありました。

閉じる コメント(14)

>特攻隊の若者を描いたドラマに一本通じる
私も同じような印象を持ちました。
でも、与えられた命を精一杯生きようとする姿は健気で、重さと同時に不思議な清々しを感じました。
それゆえ、切なくもあるのですけどね。
体調の悪い時には、ちょっと辛い映画だったことと思います。良くなられましたか?
TBさせてくださいね。

2011/5/15(日) 午前 1:06 pu-ko

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pu-koさん、コメント&TBありがとうございます。与えられた命を精一杯生きるという姿は美しくもあるのですが、こういう生き方をさせることは倫理的に許せない。そういう意味では、理不尽な死を美化しているようにも見えます。戦争映画で感じる「腑に落ちない」ところがこの映画にもあるように思います。

2011/5/16(月) 午後 7:30 [ einhorn2233 ]

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生まれたときから、ある種の洗脳を受けている人間というのは、あんなふうに自身をあきらめることができるのかという疑問が残ったままです。簡単な感想ですがTBこちらからもお願いします。

2011/5/18(水) 午後 11:32 オネム

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オネムさん、コメント&TBありがとうございます。生まれた時から、奴隷の子は、平等なんて言葉を知る機会はないでしょうから、運命に対するあきらめってのはあるのだと思います。私たちだって、200年は生きられないよなあっていう、ある意味あきらめの中で生きているので、その「あきらめ」というのは程度の差でしかないのかもしれません。

2011/5/18(水) 午後 11:44 [ einhorn2233 ]

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そうですね。これ設定があまりにもショッキングなので
死についての映画かと思ってしまいますよね。
諦めてはいるけれど、その中で思いきり生きようとする彼らが
美しかったです。
TBさせてくださいね。

2011/5/20(金) 午後 6:39 car*ou*he*ak

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Cartoucheさん、コメント&TBありがとうございます。彼らが自由な人生をなぜ諦めなきゃいけないのかってところをスルーして、諦めだけを美しく描いているので、どこかひっかかるものがありました。ものすごい理不尽な設定をそのままに描いているところに、人生は所詮どうにもなりゃしないんだよという無常感が感じられました。

2011/5/20(金) 午後 10:50 [ einhorn2233 ]

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この作品は捉えかたが難しいですよね〜
確かに淡々と進むし大きなクライマックスはないので映画としてもぼやけた印象になるかもしれません。
ただ、このイシグロの世界観は上手く映像化されていたように思います。
設定は極端なのでそのまま受けると辛いですよね〜でもおっしゃるように人間の運命は自分ではどうすることもできないということを考えると、主人公達が淡々としているのもわかるような気がしますね。
遅くなってすみません。TBさせてくださいね。

2011/5/21(土) 午後 8:33 choro

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Choroさん、コメント&TBありがとうございます。自分の運命を変えられないとあきらめることと、運命を変えられることを知らないってのでは、大きな違いだと思っているのですが、この映画はその辺りをうまくはぐらかしているようにも思えます。本当に、彼らの運命は変えることができないものなのかしら。奴隷だって解放されたのに。

2011/5/23(月) 午後 9:04 [ einhorn2233 ]

>特攻隊の若者を描いたドラマ
確かに似てますね〜。
抗わない、受け入れる。死んでいく。
どうにかならないものかと見ている方は思ってしまうのですが、
みんな素直すぎるくらい素直。
不思議な感覚の映画だったように思えます。TBさせてくださいね!

2011/5/26(木) 午前 8:23 iruka

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irukaさん、コメント&TBありがとうございます。特攻隊の話だとすると、彼らが運命を受け入れると、後を引き継ぐ人間が必要になっちゃうんですよね。彼らに共感し、感動しちゃうってことは、次に犠牲者を呼ぶことになるのかなって思うと引いちゃいます。だからこそ、悪い夢と思いたいお話なんですが。

2011/5/26(木) 午後 7:14 [ einhorn2233 ]

「ふわふわとした淡い画面設計」に魅せられますが なにか釈然としないといいますか〜
途中出てくる先生 突然のように辞められて、彼女の存在も うーむ〜一度 原作をと心しました。TB ありがとうございました(^^♪

2011/6/12(日) 午前 9:11 たんたん

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たんたんさん、コメント&TBありがとうございます。あの先生の存在は何だったでしょうね。彼女だけが、臓器用人間のシステムに疑いを持っていたようですね。後の人間は、同情はしても、そのシステムは運命だとしてましたもの。その設定で引っかかると映画そのものを楽しめないのかも。そういう点では、「バトルロワイヤル」に近いのかしら。私、あの映画の設定が不愉快過ぎて観てないです。

2011/6/12(日) 午後 9:18 [ einhorn2233 ]

クローンとか腎臓移植とか、そういったナーバスな問題に深く入り込まずに、若者たちの生を描いた不思議な雰囲気の作品だなあと思いました。
美しい悪夢…そうなのかもしれません。
TBお返しさせてくださいね☆

2011/12/12(月) 午後 11:17 なぎ

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なぎさん、コメント&TBありがとうございます。確かに、設定に対して、すごく淡白なのが不思議な感じでした。まるっきりありえない設定だから、突っ込まなかったのでしょうけど、臓器売買ってのは実際に存在するようですから、そこをあまり流されると、ドラマとしての奥行きを欠いてしまうところもありました。

2011/12/13(火) 午後 7:29 [ einhorn2233 ]

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