|
今回は、新作の「アーティスト」を川崎チネチッタ8で観てきました。日曜日の1回目というのに、500席クラスの大スクリーンにお客さんは20人ほど。こういう映画はやっぱりミニシアター向けなのかな。まあ、私も映画にそれほど魅かれたわけではなく、とりあえずアカデミー賞取った映画ってどんなんだろうっていう興味だけで、劇場に足を運んだのですが。 時は1927年、映画はまだサイレントの時代、キノグラフ社の映画スター、ジョージ・ヴァレンティン(ジャン・デュジャルダン)は次から次へと映画に引っ張りだこでお客さんからも大喝采。ちょっと、女の子とぶつかっただけで、その写真が新聞の一面を飾るくらいの大スター。その女の子ペピー(ベレニス・ベジョ)は女優志望でダンスがうまくて、ジョージに憧れている女の子。彼女は映画のバックダンサーから、端役を経て、徐々に有名な女優となっていきます。そんなときに登場したのは、映像と一緒に音も出るトーキー映画。そんなもの芸術じゃないと一蹴したジョージですが、キノグラフ社はこれから撮影する映画を全てトーキーにすると発表。それならばと、ジョージは自分で製作、脚本、監督まで兼任してサイレント映画を作ったものの大コケ。同じ日に封切られたペピー主演の映画には行列ができていました。その夜、話したいと訪問してきたペピーをむげに追い返してしまうジョージ。さらに悪いことに大恐慌も始まり、かつてのスター。ジョージ・バレンティンは、運転手に給料を払えないほど落ちぶれて、酒びたりの日々。一方、スター街道を邁進するペピーは順風満帆。しかし、ペピーにとって、ジョージは単なる映画スター以上の存在だったのです。 アカデミー賞の作品賞、監督賞、主演男優賞、作曲賞、衣装デザイン賞と5部門を受賞した作品です。作品賞と監督賞の両方を押さえたということは、今回のオスカーの最高の映画とランク付けられたと言っても過言ではありません。予告編を観た限りでは、昔のサイレント映画のスターが落ちぶれて、恋人の若い女優が逆にスターになっていくというお話だという印象だったのですが、本編はちょっと違う味わいになっていまして、監督、脚本、編集を兼任したミシェル・アザナヴィシウスのセンスが光る一編となっていました。期待していたのより、かなり面白かったです、この映画。 キノグラフ社の映画スター、ジョージは愛犬といつも一緒でして、このわんこが映画で共演することもあります。ぽっと出の女の子ペピーにとっては雲の上の人。ダンサーの一人に選ばれた彼女が踊っていると、その隣へ行って一緒に踊ってみせるジョージといった微笑ましいシーンが二人の最初の出会いとなりました。とりあえずエキストラとして撮影所に入ったペピーですが、ジョージと共演することになります。ジョージとペピーが本筋とは関係なくダンスをちょっとだけ踊るシーンがあるのですが、そこでなぜかNG連発でリテイクを繰り返すことになります。このシーンで、二人が相手を想うようになるきっかけになっていまして、そのNGも映画の後半でちゃんと生かされているのに感心しちゃいました。でも、それ以降、二人はほとんど接点のないまま、トーキー映画の波が撮影所を一変させます。それまでの、サイレントの大仰な芝居から、トーキーの自然な演技へと演出も変わり、また、スターも変わっていきました。ジョージは忘れ去られた存在となり、ペピーは新進スターとして脚光を浴びるようになります。ジョージにはドリス(ペネロープ・アン・ミラー)という奥さんもいたのですが、彼女もジョージのもとを去っていきます。 再起を賭けて、自分でプロダクションを興して作ったサイレント映画が大コケした夜、ペピーがジョージを訪ねてくるのですが、それは失意のジョージのプライドをさらに傷つけるものでしかなく、ジョージは彼女を追い返してしまいます。かつて、大スターだっただけに、そのプライドは高かったようで、トーキー映画に出ることはありませんでした。スターがその人気がなくなって、脇役としてスクリーンに生き残るというパターンもあるのですが、彼はそういう選択はできなかったのです。運転手のクリフトン(ジェームズ・クロムウェル)にも給料を払えず、それでもジョージに尽くそうとする彼を無理やりクビにしてしまいます。金に困った彼は持ち物全てをオークションにかけて売り払ってしまいます。 映画はスタンダードサイズのモノクロで音楽のみで進行し、セリフの説明部分には字幕が入るという昔のサイレント映画のスタイルを取っています。そんな中で、トーキーの出現によって、ジョージが悪夢を見るシーンのみ、実際の音が入ってくるのと、後、ラストに音が出ます。ですから、基本的に見せ方はサイレント映画。しかし、ドラマそのものはある程度リアルに見せなくてはいけないので、そのあたりの演出のさじ加減が難しかったようです。サイレント映画の感情過多な演出ではダメ、かと言ってセリフ抜きで微妙な感情を伝えて、かつサイレント映画らしさを損なってはいけないわけですから。そのあたりは、ルドヴィック・ブールスの音楽によって、かなりカバーしているように思いました。また、昔の映画への様々なオマージュが入っているようなのですが、昔の映画を知らない私には、さっぱりでした。それでも、この映画を楽しめましたから、誰にもオススメできる映画に仕上がっています。 また、何年にも渡るドラマなのに、ラスト近くになるまで、ほとんど二人が一緒になる機会がないラブストーリーというのも面白かったです。ある意味、秘めたる奥ゆかしい恋、言い換えると、奥が深い愛の物語。後者の意味するところは、一歩お互いの感情がすれ違っていたら、ドロ沼になっちゃうってことも含んでいますから、奥ゆかしい恋の物語が正解かも。また、ジョージの飼っているわんこがやたらと登場して愛嬌を振りまいていまして、この犬にもかなりスポットライトが当たっているのですが、わんこ映画としては、この犬が曲芸のうまい犬くらいにしか見えないのが残念。わんこ映画としては、「木洩れ日の家で」の方を断然オススメしちゃいます。 演技陣では、主役の二人がやはりよかったですが、この二人はフランスの俳優さん。一方脇をハリウッドの俳優が固めていまして、ジョン・グッドマン、ジェームズ・クロムウェルが渋い演技を見せてくれ、また、お久しぶりのペネロープ・アン・ミラー、ミッシー・ハイヤット、エド・ローターまで出てきますし、メインタイトルで二枚看板だったのですが、なぜか1カットしか出番のなかったマルコム・マクダウェルなど、なかなか面白い顔ぶれがそろっていました。 この先は結末に触れますのでご注意ください。 自暴自棄になったジョージは、家にあったフィルムを燃やしてしまいますが、それでボヤを起こしてしまいます。わんこが警官を呼びに行ったおかげで、ジョージは助け出されます。その時、彼は1巻のフィルムを抱きかかえていました。そのニュースを新聞で知ったペピーは、病院に向かいます。彼が抱えていたフィルムは、エキストラの頃のペピーがジョージと共演したときのNGフィルムでした。ペピーはジョージを自分の家(と言っても、複数の使用人がいるようなお邸)に連れて帰ります。すこしづつ元気を取り戻します。しかし、彼女の家で、ジョージは自分がオークションで売り払ったものを発見してショックを受けます。オークションで彼の所蔵品を買っていたのは、ペピーのメイドと執事だったのです。そして、彼は自分の家に帰り、拳銃を取り出して自殺しようとします。一方、ペピーも彼の家へ自ら車を運転して向かいます。この件は、いわゆるカットバックを意図的に使って、サイレント映画のハラハラ感を演出しています。ペピーは間一髪で間に合い、ジョージに映画で共演しようと提案しようと言います。今更、忘れられたスターなんか誰も観たくないと拒否するジョージですが、ペピーにはあるアイデアがありました。そして、撮影所のステージで、音楽に合わせて華麗に踊るジョージとペピー。二人はミュージカル映画に主演することになったのでした。めでたしめでたし。 二人の最初の出会いがラストへの伏線になっているというのには感心しちゃいました。また、最初の出会いから、4,5年後にやっとお互いの愛を確認するという構成も、今風でないようで、いいところ突いてると思いました。純粋に恋愛映画として観ても新鮮でしたもの。私にとっては、昔のサイレント映画へのこだわりよりも、今の映画としてのドラマの組み立ての方で楽しめる映画になっていました。それは、単に才気に走らなかったアザナヴィシウスのセンスが良かったということになるのでしょう。サイレント映画を模したのではなく、現代の目に新鮮に映るラブストーリーをサイレント映画のスタイルで撮ったという感じなのです。ハッピーエンドも楽しく、1時間40分があっという間に経ってしまいました。 「ヒューゴ」「マリリン」「アーティスト」と過去の映画志向の作品がオスカーレースに並んだのは、ちょっと不思議な気もしますが、それだけ、最近の映画に目新しい企画がないのかもしれません。まあ、映画ができて100年以上も経つわけですから、ネタも尽きてくるでしょうから、過去の映画のいいところを再発見するのは意味のあることだと思います。でも、それはあくまで趣向であって、描くテーマは現代であって欲しいものです。
|

- >
- エンターテインメント
- >
- 映画
- >
- 映画レビュー







今のハリウッドのアイデアなしの酷い状況の中で、光っている作品たちですね。
レヴューを読ませていただいて、改めてこの作品が目新しさだけではなく、とても考えられて作られた映画だから楽しめたということがわかりました!
Tbさせてくださいね。
2012/4/13(金) 午後 1:09
もくれんさん、コメント&TBありがとうございます。この映画の色々な作りこみは、サイレント映画を知っているともっとよくわかったんだろうなって思います。でも、単純に楽しめる映画としてもまとまっていて、涙とか感動とかないコメディ仕立ての映画がオスカーを取ったというのが意外な気がしました。
2012/4/13(金) 午後 7:59 [ einhorn2233 ]
サイレントも白黒も新鮮に感じました。
また、小物やセット、衣装など・・・お洒落さもあって
盛り上げる音楽も素敵で、まったり・・・アギーも可愛くて♡
女性としては、ペピーの一途な愛に感動しましたよぉ。
トラバ、お返しさせて下さい^^
2012/4/14(土) 午後 6:10
くるみさん、コメント&TBありがとうございます。くるみさん、絶賛ですね。色々と楽しい趣向が入っていてよかったです。アギーがかわいいと感じられたなら「木漏れ日の家で」という映画もオススメですので、機会があればお試しのほどを。
2012/4/14(土) 午後 7:38 [ einhorn2233 ]
見せ方の巧さも感じました〜
キャストもとっても良かったですよね。パフォーマンスも堪能できました^^
こちらからもトラバさせてくださいね♪
2012/4/15(日) 午後 10:04
「憧れ」って感情を最近抱かないせいか純愛部分には乗り遅れちゃったんですが、全然退屈しないで酔えた映画でした。
アールデコなファッションってやっぱり細身がいいですね〜
申しわけないけど 岡本かの子より
トラバお願いしま〜す (ヒツジ)
2012/4/16(月) 午前 1:33
いやあ、いまどき、よくもまあ、こんな映画を作ったなあというのが正直な感想で、しかも、単にアイディアだけでなく、内容がとてもよくできていて、びっくりしました。
二番煎じは、作りにくい趣向ですね。
2012/4/16(月) 午前 11:51 [ 鉄砲弥八 ]
じゅりさん、コメント&TBありがとうございます。色々と工夫を凝らしてあるなあってのが伝わってくる映画でした。演技陣もよかったです。ジョン・グッドマンって最近はすっかり普通の人を渋く演じるようになっちゃいましたね。しかし、マルコム・マクダウェルの出番だけは謎でした。もっとあったのをカットされちゃったのかな。
2012/4/16(月) 午後 5:35 [ einhorn2233 ]
ひつこじさん、コメント&TBありがとうございます。ああいうファッションをアールデコ言うんですか。岡本かの子は存じ上げず検索しちゃいましたが、モガだったんですね。でも、男性ってアールデコに限らず全般的に細身で華奢な方が好きなんじゃないかなあ。細身ででかいモデル体型は、女性は憧れても、男性から見たらそれほど魅力的とも思えないですし。と、自分が男性の代表みたいに言っちゃいました。趣味嗜好は人それぞれなんですが、何となくそんな気がして。
2012/4/16(月) 午後 5:43 [ einhorn2233 ]
弥八さん、コメントありがとうございます。確かに内容的にも中身の詰まった映画でした。おっしゃるとおり、二番煎じは作りにくそうですね。モノクロのサイレントのラブロマンスなんて、パクりようがないですもの。そういう意味では、出オチネタなんだけど、中身に一工夫してあるって感じなのかも。
2012/4/16(月) 午後 5:47 [ einhorn2233 ]
そうそう〜サイレント映画でもとってもストーリーはわかり安かったですね。確かに奥ゆかしい(笑)
あっ!「木漏れ日の家で」のわんこのほうが確かによかったですね。
記事書いたらまた伺います(汗)
2012/4/16(月) 午後 7:33
ひかりさん、コメントありがとうございます。シンプルなストーリーは予告編でほとんど語られちゃっていましたけど、シンプルだからこそ、視覚や音の仕掛けを色々と盛り込めたのかなって思いました。「木漏れ日の家で」は動物が苦手な私が、わんこかわいいって思っちゃった珍しい映画でしたが、この映画のアギーはそこまで行ってなかったかな。
2012/4/16(月) 午後 8:04 [ einhorn2233 ]
やっと記事を〜簡単な記事ですが(汗)TBお願いします。
2012/4/17(火) 午後 3:54
ひかりさん、TBありがとうございます。さっそくそちらに伺いますです。
2012/4/17(火) 午後 9:21 [ einhorn2233 ]
とてもロマンティックな映画でしたよね。
やはりラブストーリーなんですね、これは。
サイレント映画と言っても21世紀の映画なんだなと思いました。
昔はできなかった小技が現代を感じさせます。
そんな中に人間の変わらない温かなドラマがあるのがとても素敵でした。
大変遅くなってすみません。TBさせてくださいね♪
2012/4/20(金) 午後 11:09
Choroさん、コメント&TBありがとうございます。私は気づけなかったのですが、21世紀としての小技が入ってましたか。ちょっと変化球を投げたつもりが、いつの間にかオスカー候補になっちゃったという印象もあるのですが、ベースとなる人間ドラマの部分でうまく点数を稼いでいたように思います。
2012/4/21(土) 午後 5:09 [ einhorn2233 ]
シンプルなストーリーなのだけれど、想像力を刺激されるという点で、映画鑑賞の醍醐味を感じさせてくれるよい作品でした。
根がアナログなので、こういう作品の方が安らぎます。
TBお願いします。
2012/4/25(水) 午後 10:46
オネムさん、コメント&TBありがとうございます。なるほど、確かに想像力を喚起する映画でしたね。昔の映画のスタイルがそうだとすれば、昔の人の方が想像力で補いながら映画を楽しんでいたということになります。でも、弁士がつくと、今度は説明過多になっていたのかしら。
2012/4/26(木) 午後 8:32 [ einhorn2233 ]
かえって、昔のスタイルの恋愛が新鮮に感じるというところが、魅力なのでしょうね。
映画のストーリー自体は私はそんなに新鮮に感じなかったのですが、
ペギーの背広のシーンとかが光ってみえました。
最後はほんと、すばらしかったです。酔えました。
TBさせてくださいね。
2012/4/29(日) 午前 6:08
irukaさん、コメント&TBありがとうございます。今やったら嘘に見えるような恋愛ドラマがモノクロのサイレント映画というスタイルだとすんなりと受け入れられるというところがこの映画のうまさだったように思います。ラストの締め方もこのスタイルだからこそできたし、効果的でした。でも、ハリウッドを舞台にしているのに、この映画がハリウッドっぽくないのは、続編や二番煎じが作れないってところでしょうね。
2012/4/29(日) 午後 9:47 [ einhorn2233 ]